基本的に、収入に占める生活費の比率を小さくして、余った額を投資に回すことをFIREムーブメントと呼ぶ。
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- FIREは、投資を盛んに行うことで経済的な自立を勝ち取り、通常の退職年齢になる前に早期に引退することを目指すライフスタイルだ。
- この考え方が、おもにソーシャルメディアとブログの台頭によって人気を集め続けてきた。
- FIREの達成を測る「FIREナンバー」の計算は簡単だが、その道程は険しい。
ほとんどの人が、仕事を始めてから65歳まで働き、その後は快適な余生を楽しむと想像する。しかし、違う生き方を想像する人が増えてきた。それがFIREムーブメントだ。
FIREの考え方自体は新しいものではないが、近年注目を集めている。ざっくり言えば、FIREとは自分の時間とエネルギーを管理すること。多くの人が、50代、40代、あるいは早くも30代で、職業生活からの引退を目指している。自分が本当にやりたい仕事に転職することを目指している人もいる。
経済的自立・早期退職ムーブメントとは?
「経済的自立・早期退職ムーブメント」、通称FIREは、投資を盛んに行うことで経済的な自立を勝ち取り、通常の退職年齢になる前に早期に引退することを目指すライフスタイルだ。
この考え方のルーツは、1992年のベストセラー、ジョー・ドミンゲスとヴィッキー・ロビン著『お金か人生か(原題:Your Money Or Your Life)』にまでさかのぼる。同書で著者は、十分に投資して利益で生活できるようになれば、それ以上働く必要はないと説いた。
この考え方が、おもにソーシャルメディアとブログの台頭によって人気を集め続けてきた。たくさんの人がウェブサイトやソーシャルアカウントを通じて自らのFIRE体験を報告し、それを読んだ人々やフォロワーにも同じことをするよう勧めた。
ブログ「アダルティング・イズ・イージー(Adulting Is Easy)」を立ち上げ、最近夫とともにFIREを達成したローレン・キーン・オーモンド氏によると、人によってFIREの意味は異なるそうだ。
「FIREムーブメントの目的は、仕事を選択肢の1つにすることにある」とオーモンド氏は言う。「今の私と夫のように、仕事を続けてもいいのだ。旅行をしてもいいし、ボランティアをしたり、パートタイムで働いたり、転職あるいは学校に通い直してもいいだろう。つまり、仕事を辞めることではなくて、自分の時間の使い方を自分で好きに決められる状態を目指すのだ」
オーモンド氏が指摘するように、FIREを達成した人の多くは仕事を完全に辞めるわけではない。もちろん、引退して、仕事以外のことに時間を使う道を選ぶ人も多いが、それまでの仕事を続ける人もいるし、収入は減るが自分がやりたい仕事に転職する人もいる。
FIREの仕組み
基本的に、収入に占める生活費の比率を小さくして、余った額を投資に回すことをFIREムーブメントと呼ぶ。実際、FIREムーブメントに参加している人々の多くは、収入の半分以上を投資に回している。
多額を投資する目的は、可能な限り多くの額を投資ポートフォリオに蓄えること。早い時期に多くを投資することで、投資が成長する時間や複利が生まれる期間を十分に確保できる。
「支出を減らして投資を増やすことが重要だ、という考えはファイナンス分野では初歩中の初歩で、『資金の時間的価値』と呼ばれている」と、コア・プランニング(Core Planning)のパートナーである独立系ファイナンシャルアドバイザー(IFA)のジョーダン・テイラー氏が教えてくれた。「たとえば今、私があなたに1ドルを手渡せば、それが4年後にどれほどの価値になっているだろうか? 20年後は? その答えは、あなたがその1ドルを使って何をするかによって決まる。賢く投資すれば、時間が経てば経つほど、価値が高まるのだ」
収入の多い人は、比較的少ない犠牲でFIREを達成できるだろう。しかし、FIREムーブメントの参加者の多くは、できるだけ早く経済的自立を勝ち取るために、かなり質素な生活を送っている。
自分も早期引退を目指していると想像してみよう。経済的自立を達成するには、投資から毎年、生活費として5万ドル(約668万円)ほどの利益を得なければならない。
FIRE達成の瞬間
FIREを目指すうえで最も重要なステップは、投資ポートフォリオにどれほどの額が貯まれば、経済的に自立できるかを知ることだ。この額はFIREナンバーなどと呼ばれている。
「行動経済学者の多くは、『これで十分』と言える額が経済的自立の額だと指摘している」とテイラー氏は説明する。「だが、少し考えると、口座に入金する額が『十分』と思えることはほとんどないことに誰もが気づくだろう」
「十分」の考え方はあまりに曖昧だ。そこで多くの人が、経済的自立度を測るためにある公式を利用している。この公式は「25倍ルール」あるいは「4%ルール」と呼ばれているが、中身は同じだ。
どちらも引退したその年に投資ポートフォリオから最大4%を引き出しても資産が減ることはない状況を確保すれば、安全に仕事から引退できるという考え方に由来している。その後は毎年、インフレ率に応じて引き出し額を調節する。
自分の個人的なFIREナンバーを知るには、引退後の理想の年間生活費(これがポートフォリオの4%に相当する)に25を掛ければいい。得られた数字が、引退時にポートフォリオにあるべき額を示している。退職後の希望収入額を0.04で割ることでも、同じ数字が得られる。
たとえば、退職後に5万ドルの年収が希望だとしよう。この数字を25倍にするか、0.04で割る。どの場合でも、125万ドル(約1億6690万円)という答えが得られる。これがFIREナンバーだ。
経済的に自立できた人々のなかには、完全に退職する人がいる一方で、働く時間を減らす人もいれば、自分がやりたい仕事を続ける人もいる。自分にどのようなFIREが適しているかがわかれば、どれだけの額が必要かわかるだろう。
テイラー氏はこう言う。「用いる計算方法、相談相手、参加するFIREコミュニティーなどに応じて、ほかの人たちがどれだけの額を蓄えれば、どれほどの収益が得られると考えているか、さまざまな経験談に出会うことだろう」
FIREにはどんな種類がある?
FIREは人によって違う。退職後も贅沢な生活を送りたいと願う人もいれば、請求書を払うのに必要な額があればそれでいいと考える人もいる。それゆえ、FIREにも目的に応じていくつかのタイプがある。最も一般的なものをここで紹介しよう。
- 通常のFIRE:テイラー氏によると、退職後もそれまでの生活を維持できるようにするタイプのFIREに最も人気が集まっている。通常のFIREを希望する人は、100万ドル(約1億3300万円)から数百万ドル(数億円)のポートフォリオが目標になるだろう。
- スリムFIRE:スリムタイプのFIREを目指す人は、退職後に収入を大幅に減らす計画を立てる。この場合、ほとんどの人でFIREナンバーは100万ドルを下回るが、早期に引退して、その後は必要最低限で質素に生活することが目標になる。
- ファットFIRE:スリムFIREの逆がファットFIREだ。このタイプのFIREを望む人は、退職後は最低でも今の生活水準を維持し、できることならもっと豊かな生活を送ろうとする。ファットFIREが望みなら、少なくとも250万ドル(約3億3300万円)のポートフォリオが必要だろう。
- バリスタFIRE:経済的自立を勝ち取ったあとも仕事を続ける気があるのなら、バリスタFIREが最適だろう。バリスタFIREでは、退職後の支出のすべてをまかなえるほどの蓄えは目指さない。つまり、足りない分を補うために、フルタイムの仕事を続ける必要すらあるかもしれない、ということだ。この戦略には、会社の提供する健康保険を利用できるという追加の利点がある。
- コーストFIRE:コーストFIREでは、必ずしも早期引退を目指さない。投資ポートフォリオに十分な額があるため、追加の投資をしなくても従来の退職年齢で引退できる状態にある人は、コーストFIREを達成したことになる。つまり、すべてのタイプのFIREにとって、コーストFIREが最初に目指すべきステップだ。実際、多くの人が、コーストFIREを達成したあとに、ほかのタイプのFIREを目指して軌道を修正する。
テイラー氏は言う。「注目すべきは、FIREコミュニティーのメンバーの多くが複数タイプの複合体を目指す、あるいは途中でタイプを変えている点だろう」
FIREのメリットとデメリット
FIREムーブメントのメリットは説明するまでもないだろう。実際、経済的自立を成し遂げて、若くして仕事から解放された生活を送ることを望まない人がいるだろうか?
FIREを達成した人は、自分が大好きなことに多くの時間とエネルギーを費やせるようになる。それらの多く、たとえば旅行などは、65歳を過ぎて引退した場合には、エネルギーはあまり多く残されていないだろう。
引退するつもりがない場合でも、FIREで自由が増える。自分が、給料はいいけれど大嫌いな仕事をしていると想像してみよう。そんなとき、経済的に自立できれば、給料が少ないもしくはパートタイムだけれど好きな仕事に転職できる。もはや、お金のことを気にする必要はなく、自分がやりたいことをすればいい。
もう一点、引退するかどうかは別にして、経済的に自立ができるということは、金銭的に見て確固たる基盤があるということ。つまり、どんな予想外の出来事が起きても、その嵐を乗り切る準備が整っていることになる。
これらのメリットのおかげで、精神的に余裕ができるのはもちろんのこと、忙しい仕事から解放されてリラックスできる時間や外出する機会が増えることで、身体的にも健康になれるに違いない。
その一方で、FIREには大きなデメリットもある。そもそも、経済的な目標を達成できるほど稼ぐには、相当がんばって働かなくてはならない。
「満足感がなかなか得られないこと、ハードな仕事、そして自制心が必要とされる点が最大の難点だ」とオーモンド氏は言う。「私もときどき、仕事とたくさんの不動産を維持しながら家計を切り詰めるのではなく、新しいボートと水上ハウスと仕事が1つあればいいのに、と願うことがある」
収入を増やすために懸命に働いた場合でも、FIREを達成するには支出をかなり抑えなければならない。収入に占める支出の割合を低く保つことは、生活のあらゆる領域に犠牲を強いる。あなたもきっと、「早期退職するために、今、満足できない生活を続けることに意味があるのか?」と自問することになるだろう。
FIREには、ほかにもいくつかのリスクが知られている。たとえば、FIREのために何年も必死に働いてきたのに、いざ引退してみると、その生活が楽しくないと気づいたらどうする? あるいは、仕事を辞めたあとに投資市場が崩壊して、ポートフォリオが一気に目減りしたら?
結局のところ、将来どんな経済危機が訪れるのか、誰にも予測できない。収入がないのに、自分か家族の誰かが重病にかかって、その治療に何千、何万、あるいは何十万ドルもの費用が必要になるかもしれない。
メリット | デメリット |
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FIREを目指すべき?
個人的にFIREを目指すべきかどうかを検討する際は、自分の優先順位についてよく考えてみる必要がある。確かに、FIREを達成して経済的自立が得られれば、自分の時間を完全に自由に使えるようになる。しかし、その目標に到達するまでの職業生活では、自分の時間とお金を思い通りに使う自由を犠牲にするしかない。
また、FIREは誰もが選べる選択肢ではないという点も指摘しておくべきだろう。今の若者の多くは学生ローンの借金を背負って卒業するので、それを返済し終えて資産が黒字になるまでかなりの年数を要する。加えて、給料日から給料日までを何とかしのいでいる人、もとより収入の少ない人にとっては、FIREを達成できるほどの額を収入から貯蓄に回すのはほぼ不可能だ。
ただし、ありがたいことに、FIREはできるかできないかの二択ではない。従来のFIREの派生形であるバリスタFIREやコーストFIREを目指せば、多くを犠牲にすることなく、ある種の経済的自立を達成できる。
FIREを目標にしたのなら、まずは計算から始めてみよう。自分のFIREナンバーを割り出して、それを達成するためにどうすべきかを検討する。
「計算は簡単だ」としたうえで、オーモンド氏はこう付け加えた。「道のりは険しいものになるが」