「ゲーム会社」からの脱却。東京通信が目指す、「デジタルビジネス・コングロマリット」とは

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2015年、スマートフォン向けアプリケーションの開発・運用を目的に創立された、東京通信。ハイパーカジュアルゲーム(ユーザーの性別や年齢、国籍を問わず誰でも遊べることをモットーとするスマホゲーム)アプリ分野で大きく成長し、2020年12月には東京証券取引所マザーズ市場(現グロース市場)に上場を果たした。「モバイル市場年鑑2023」によると、2022年のゲームダウンロード数ランキング(日本市場)で第1位を獲得している。

「こういった実績から、よくゲームの会社だと言われます」と語るのは、創業者でCEOの古屋佑樹氏だ。しかし、東京通信をゲーム企業と見ると、本質を見誤る。

東京通信は2023年4月に持株会社へと移行。東京通信グループとして新たなスタートを切った。掲げるのは、「世界を代表するデジタルビジネス・コングロマリット」だ。事業ポートフォリオを拡大し、ビジョンである「Digital Well-Being」を実現するという。その成長戦略と東京通信グループの強みについて古屋氏に話を聞いた。

東京通信の強みは、ゲームではなくマーケティングと言える理由

東京通信が創業したのは2015年。その頃、スマホアプリ市場は黎明期を経て成熟しつつあった。古屋氏は、当時をこのように振り返る。

古屋佑樹氏

古屋佑樹(ふるや・ゆうき)氏/東京通信グループ 代表取締役社長CEO。2009年4月 シーエー・モバイル(現CAM)入社。スマートフォン向けアプリケーションの開発・運用を主な目的として2015年5月に東京通信を設立。5年で東京証券取引所マザーズ市場に上場。広告マネタイズやマーケティング戦略を得意とし、国内、海外問わず数々のヒットゲームアプリを生み出す。

「スマホが出始めた頃、海外でアプリ広告を出稿するには、現地法人を設立する必要がありました。しかし、我々が創業した2015年頃には、管理画面を操作するだけで、アプリ広告の出稿が可能になっていました。黎明期と比べればスマート化されており、海外との距離は近かったですね」(古屋氏)

創業から今に至るまで、このようなアプリ配信による広告収益が東京通信のコア事業だ。つまり、スマホ向けアプリに出稿される広告収益によるビジネスである。アプリといってもさまざまな種類があるが、選んだのはゲームアプリ。それも、無料にこだわった。

2015年当時、ゲームアプリで最も勢いがあったのは、mixiやGREEといったSNS上で遊べる「スマホ向けのソシャゲ」が中心。なかでも、すでに存在するアニメキャラや家庭用ゲーム機でヒットしたタイトルなどを使った「IP(知的財産)もの」の全盛期だった。そんななか、東京通信が狙いを定めたのは、シンプルなアクションや簡単な謎解きなど、直感的に操作が可能で短時間のプレイができる「カジュアルゲーム」だ。

「IPもののソシャゲは、膨大な人手と年月、予算をかけて制作し、リリース後も数十人規模で運営が必要。さらに、サーバーコストもかかります。一方、我々のカジュアルゲームは、プロデューサー、デザイナー、エンジニアの3人がチームとなり2日〜1週間で制作。リリース後の運営は必要ないし、SNSを介さないのでサーバーも不要です。リリースすればするだけ、売上が上がる仕組みで、ソシャゲとはビジネスモデルが全く異なります」(古屋氏)

東京通信におけるカジュアルゲームの位置付けは、広告を出稿するメディアのようなもの。よって、ゲーム事業ではなく、メディア事業として展開している。古屋氏がこのカジュアルゲームの広告出稿というビジネスモデルに目を付けたのには、二つの理由がある。ひとつは、社員の雇用を守るためだ。

古屋佑樹氏

「ソシャゲは規模が大きいだけにランニングコストもかかる。失敗したら数カ月でサービスが終了し制作チームが解散ということも珍しくありません。創業したばかりの我々が同じやり方をしたら経営ナレッジが蓄積されないし、資金も続かない。折角、採用した社員を雇い続けることはできません。

しかし、カジュアルゲームならば失敗したらすぐ次にチャレンジすればいい。高速回転させながら、とにかく数をつくることを選びました。よく、数打ちゃ当たる戦法、といわれますが、私から言わせると、経営資源の有効活用を意図した戦略です」(古屋氏)

もうひとつの理由は、マーケティング力に自信があったから。

「実は、ゲームアプリの広告収益モデルはガラケー時代からあったのですが、我々が創業した頃には一周回って元気がない状況でした。しかし、高い精度でマーケティングを行い、収益をコントロールできると考えたのです。

前職の経験から、集客術やマーケティングに関してのノウハウには自信がありました。ゲームを作るとゲーム会社だと思われがちですが、東京通信は創業当初から今に至るまで、マーケティングを軸とした企業なんです」(古屋氏)

確かに、家庭用ゲーム機のソフトやソシャゲの会社なら、ひとつのゲームを深掘りし、「より面白いものを作ろう」、「より良く改善していこう」という方向性を取るだろう。しかし、東京通信はゲーム性にこだわるのではなく、より数をつくる選択をした。

「幸福な社会の形成」と「Digital Well-Being」の共創で成長を目指す

2019年頃からは、国籍や年齢、性別を問わず、グローバルに展開できる「ハイパーカジュアルゲーム」が台頭。東京通信も参入し、そこでは十数億円の売上を叩き出したアプリもあったという。その後も国内市場とグローバル市場の二軸で右肩上がりの成長を続け、2020年には、東京証券取引所マザーズ市場(現グロース市場)に上場する。

「上場はアプリ事業と広告代理事業が認められてのこと。一方で、事業ポートフォリオ拡充のために課金モデルも模索していました。そこで、ご縁のあったサイバーエージェントの関連会社で電話占い『カリス』を運営するティファレトをM&Aにより完全子会社化し、プラットフォーム事業を開始。今後も、プラットフォーム事業はM&Aを視野に入れながら、収益の柱として育てていきます」(古屋氏)

そして、2023年4月、さらなる事業創造及び戦略投資を推進し、事業ポートフォリオを拡大するために、持株会社へと移行。東京通信グループとして新たなスタートを切った。

東京通信グループが掲げるビジョンは「Digital Well-Being」。古屋氏は「デジタルを通して安らぎを提供できるサービスを創出したい」と説明する。

「この時代、精神的な衛生を保ちながら自らの価値観を投影して遊べるゲームは、重要なインフラだと考えています。例えば、嫌なことがあったあとでもお気に入りのゲームをプレイすることで気持ちがリセットされたり、少し楽しい気分になったりしてもらえる。これは、ある意味、幸福度の向上にもつながります。

また、電話占いであればアドバイスで力をもらうことができますし、最近ヘルスケア分野にも参入したのですが、健康と幸福が直結していると考えてのことです」(古屋氏)

古屋氏が幸福を強調するのは、それが日本社会における課題のひとつだからだ。産業精神保健研究機構の「世界幸福度報告」によると、日本の幸福度は世界で54位。幸福な社会の形成は社会課題の解決につながる。

東京通信グループでは、「幸福な社会の形成」という社会課題解決と「Digital Well-Being」という企業理念の共創によって持続的な事業成長と企業価値の向上を実現する好循環を目指している。

世界を代表するデジタルビジネス・コングロマリットへ

東京通信グループが今後狙うべきテーマとして布石を打つのは、ヘルスケア、メタバース・NFT、暗号資産、推し活、スキルシェア、デジタルサイネージ、GameFi(ゲームに分散型金融の要素を掛け合わせたもの)などだ。古屋氏は、「中でも、NFTと暗号資産、ゲームファイといったWeb3分野には注力しており、無料アプリと組み合わせることで、独自のポジションを築きたい」と意気込む。

古屋佑樹氏

「ポイ活や懸賞といったお小遣いを稼ぐ無料アプリでランキング1位をとったこともあり、ノウハウを持っています。現状はポイントをギフト券などに交換していますが、これからは暗号通貨にエクスチェンジできるかもしれませんし、それが実現できれば国内外でも新しいアプローチになると思います。

それ以外にも、Web3など市場が活性化している分野において、さまざまな新規事業を創出し続ける予定です。ただし無理なチャレンジや成長や維持を逸脱するような形でのチャレンジではなく、できる範囲で、M&Aや出資を上手く活用しながら、事業と投資の両輪で成長を加速させていきます」(古屋氏)

創業当初からM&Aや出資を意識しながらビジネス展開を進めてきた東京通信。持株会社の東京通信グループとなったこれからも、M&Aや資本業務提携、投資などで経営資源を最大限活用し、事業領域の拡大を目指している。その根底にあるのが、ひとつのサービスやプロダクトに固執しないことだ。

古屋佑樹氏

「我々が目指すデジタルビジネス・コングロマリットは、百貨店や商社のように捉えられることがあります。しかし、それは間違いで、一言で表すなら複合体を目指す経営思想です。その根幹がまさに、ひとつの事業に固執せず、新しい需要やチャンスに適切なタイミングでチャレンジして、変化を楽しむ姿勢です。

その変化についていけるのは、事業創造力や企画力、マーケティング力を持っているから。新しい需要や変化を見極めたら、高速回転で取り組み、泥臭く戦っていきます」(古屋氏)

創業から8年、成長ストーリーを確立したファーストステップを終えて、持株会社制の東京通信グループとして、デジタルビジネス・コングロマリットへとシフトするセカンドステップへと踏み出した。古屋氏は「セカンドステップでは、経営者を輩出するスキーム確立が重要になります。事業を任せられる人材を育て、経営陣のポストを準備して、ヒトとコトを合致させる。それによって、より価値のある事業やサービスが生み出せると思っています」と力を込める。

長期的な視点で見据えるのは、東京発で世界を代表するデジタルビジネス・コングロマリットになることだ。Web3やAI、メタバースといった分野が隆盛する今は、まさにインターネット黎明期に匹敵する転換点といえるだろう。そこでチャンスを掴み、変化し続けるために、新たな一歩を踏み出した東京通信グループ。マーケティング力に裏打ちされた事業創造力で、どのような価値を生み出していくのかが楽しみだ。


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