今回の統一地方選・衆参補選では、SNSを用いたネットでの選挙運動にどんな動向や特徴があったのでしょうか。
Business Insider Japan
衆参5つの補欠選挙(補選)と統一地方選挙が全日程を終えました。このうち補選では、自民党が衆院の千葉5区、山口2区、山口4区、それに参院大分選挙区の4つの議席を獲得した一方、衆院和歌山1区では、日本維新の会が勝利しました。
さて、今回の選挙ではSNSを用いたネットでの選挙運動にどんな動向や特徴があったのでしょうか。
独自に地方選SNSメディア利用度調査(2023年版)を実施したところ、2つの点が見えてきました。
- ネット選挙が最も進んでいるのは東京都。地方議員(人口規模が小さいところ)では、SNSを利用した選挙活動は低調
- 首長、国会議員は、SNSの拡散力を生かすことができている。一方、地方議会議員ではSNSをまだまだ生かしきれていない
以下、詳細を検討していきます。
・期間前:都道府県知事(47人)・政令指定都市市長(20人)・都道府県議会議員(全国の県庁所在地)・市区議会議員(全国人口33±3万人)市町議会議員(全国人口2±0.05万人の市町)・政党公式アカウント。
・期間中:衆参5つの補欠選挙・知事・政令指定都市長・東京特別区選挙・東京都(一部の区域の候補者)・政党公式アカウント。
目次
Twitterの影響力は、維新・吉村知事がトップ
まずは、4月23日時点における各党首・政党公式アカウントの動向を見ていきましょう。
今回の選挙戦で政権与党の自民と野党第一党の立憲は、SNS活動を「ほぼ知事選・補選のみに注力」していました。特に、バナー素材にこだわり、補選候補者の情報をシェアする役割に特化しています。
公明党の議員は開設間もない「投稿数0」のアカウントであっても数百のフォロワーを持っていることが多々あり、この組織力の高さがYouTubeチャンネル登録者数、LINE友だち数にも反映されています。
そして、その他の野党はTwitter、YouTubeに力を入れています。中でも最もYouTubeに力を入れているのは参政党です。この1カ月でも40本以上の動画を投稿していました。
各党首のTwitterアカウントでは、岸田首相(69万人)を抑えて維新の吉村知事(127万人)がトップで、影響力の大きさがうかがえました。
吉村知事は、自分の意見をストレートに言えるメディアとしてTwitterを利用している様子です。党内でフォロワーの多い政治家を広告塔にする戦略は正しいと言えるでしょう。
(投票日当日時点・党首・政党公式アカウントのTwitter、YouTube、Facebook、Instagram、LINEのフォロワー数を足し合わせたもの)
筆者作成
YouTube視聴数も「日本維新の会」が独走
この選挙期間1カ月のYouTube視聴数は、日本維新の会がトップでした。
日本維新の会の公式チャンネル自体のチャンネル登録者数は大きくは伸びていません。しかし、YouTube広告を出していたCMは、約2000万回再生され、圧倒的な差をつけています。
Youtube視聴数(3/23〜4/22)
筆者作成
特徴的だったのは、「吉村知事(共同代表)・馬場代表」を前面に押し出すプロモーションです。
これは2021年の衆院選の時と同様に、“党のアイコン”である代表を前に押し出すことで、政党のイメージに統一感を持たせています。また、吉村知事・馬場代表の「影響力を横展開」し、「ポジティブなハロー効果」を生み出している印象をうけました。
例えば、これまであまり目立っていなかった候補者も吉村知事の隣に立つことによって、吉村知事の良い印象に引っ張られ、注目を集め、候補者のイメージアップにつながるというものです。これはまさに、藤田氏・足立氏・音喜多氏・柳ヶ瀬氏のような、次なる党の看板議員をプロデュースする事にも繋がっています。
維新は、こうした党内で発信力を持ったフロントマン議員を何人も育て、各地で活躍させることによって、存在感を徐々に拡大させています。一人ひとりが党の顔として活動しながら発信力を磨き、浸透しているのでしょう。
出典:日本維新の会YouTubeチャンネル
今回の統一地方選で日本維新の会は、馬場伸幸代表が進退を懸けて掲げた「地方議員600人以上」の目標を達成しました。
大阪府外で初となる党公認の首長が誕生した奈良県知事選や、自民党に競り勝った衆院・和歌山1区での勝利など、政治団体「大阪維新の会」を含め躍進する結果となりました。
今回の統一地方選における首長候補者の中で、ネット上では奈良県知事選挙で自民党の県連が推薦した平木省氏がフォロワーの増加数では最多でした。日本維新の会の新人・山下真氏は、これを抑えて初当選を果たしました。
そもそも、今回どの知事選においても、Twitterのフォロワー数は選挙の趨勢(すうせい)に影響を及ぼすほどではありませんでした。
こうした全国に広まりつつある維新の躍進を踏まえて、自民党や野党第一党の立憲民主党は、次の解散・総選挙で、勢いを増す維新への対抗策を考えなければならないところまで来ているのではないでしょうか。
直近3年では「れいわ新選組」が最もフォロワーを伸ばす
公式アカウントフォロワー・友達数
筆者作成
この直近3年間の国政選挙においては、SNSのフォロワー総数の増加数・増加率ともに最も高かった政党は、れいわ新選組でした。
れいわ新選組は、政党が候補者個人の代わり(Twitter以外)に発信している点が特徴です。
これは、他政党にも共通することですが、これまで個人で発信することに重点が置かれていたものの、効果の検証を経て、党内で発信力の高いアカウントに一本化して発信している(チャンネルを一本化している)状況に至ったのではないでしょうか。
参政党は1議席を獲得した前回の参院選からフォロワー数はそれほど伸びていませんが、今回の選挙戦では1カ月で40本近くの動画を投稿していました。統一地方選では100人が当選し、勢いは衰えていないと見えます。
短尺・縦型動画が増加、TikTokで“若者票”を狙う
今回の選挙戦を全体的に総括すれば、与野党ともにTwitterとYouTubeに依存していると言えるでしょう。
(※与党はLINEが伸びていますが、昨年の参院選ほどには配信はされていません)
具体的な発信事例を見ると、15~30秒ほどの“切り抜き動画”のような短尺・縦型動画のコンテンツに対する各政党の取り組みが増えています。
今回の統一地方選でも、「より短く、分かりやすく、文字よりも視覚に訴えるメッセージ」で各候補者の支持を広げようとする動きが見られました。
(左:公明党YouTubeショート動画/右:日本維新の会YouTubeショート動画)
出典:YouTube
加えて、YouTubeだけでなく、TikTokで情報を発信する候補者も見られました。
例えば、芦屋市長選挙に最年少候補者として出馬し、当選を果たした高島りょうすけ氏。TikTokでは「ハーバード卒にグーグル入社試験解かせてみた」などを投稿し、合計再生回数は100万回を超えています。
高島りょうすけ氏のTikTok動画
出典:TikTok
演説の動画も、より親しみやすいように加工が施されています。こうした動画はSNSを通じて無党派層の若者への浸透を図り、より候補者を身近に感じさせる効果があります。
「コロナ」が社会の中で“普通”になり、人々が再び外出するようになったことで、有権者は長い動画を見る時間がなくなり、短い時間で情報を探すようになっています。
今後も「より短く、よりわかりやすい」短尺動画を重要視する社会になるという流れになっていくでしょう。
ネット選挙が最も進んでいる都道府県は……
左:全国の県議会議員(都道府県庁所在地)を対象、右:全国の人口33±3 万人の市・特別区に絞りSNS利用調査を行ったもの
筆者作成
今回の調査では、東京都議会議員が他の道府県議会議員よりもSNSのアカウント所有率が高く、フォロワー数も多いということが明らかになりました。
全都道府県で一番、当選倍率(定数に対する候補者の割合)が高いため、厳しい選挙戦になるからかもしれません。同様の傾向がある大阪、沖縄も、東京に次いでアカウント所有率は高い数字でした。
こうしたSNS選挙は東京では当たり前のものになっていますが、それ以外の地方には(参院全国比例を除いては)まだまだ十分には浸透していないと言えます。
また、地方議員のアカウント所有率は若い議員ほど高く、男性より女性のほうが高いという、国会議員と同じ傾向がありました。
4SNSアカウント所有率合計を目的変数に、平均年齢、女性比率、平均当選回数、投票率、当選倍率(=候補者数/定数)、人口密度を説明変数とした重回帰分析からも、議員の年齢(の若さ)が最もSNS利用の影響に与えているという結果になっています。
加えて、首長と国会議員はフォロワーやインプレッションが多くTwitterの拡散力を生かすことができますが、地方議会の議員では、TwitterとInstagramでフォロワー数に大きな差がないことが明らかになりました。
言い換えれば、地方議会の議員はTwitterのフォロワー数が伸ばしにくいのです。
上:アカウント所有率、下:投稿数・フォロワー数(中央値)
筆者作成
YouTubeのアカウント所有率も、国会議員がもっとも高く、都道府県議会議員、人口33万人の市区議会議員、人口2万人の市町議会議員の順に低くなっていました。
選挙区の人口が多いほど、SNSを活用したネット選挙が効果的であるためと考えられます。国会議員にとってYouTubeは当たり前のものになりましたが、地方議会の議員が個人で活用するのは難しいのでしょう。
結果として、ネット選挙解禁から10年が経った現状においては、人口規模が小さいところでは、SNSを利用した選挙活動は低調でした。
特定政党への支持を公にしたくない人が多い日本では、ネット投票が解禁されない限り、政治家や政党のフォロワー数が飛躍的に伸び、ネット選挙が諸外国並に活況になるとは考えにくいです。
一方で、東アジアにおいてのみ政治・選挙におけるYouTubeの活用が進んだように、今後は日本独自のSNS活用の進化が起こることは期待できるでしょう。影響力の持ったYouTuberやTikTokerが出馬し、動画プラットフォームを主軸とした選挙戦が繰り広げられるかもしれません。
「政治家女子48党」は注目を集めるが、ほぼ落選
今回の統一地方選の前半戦では、「政治家女子48党」(旧NHK党)の立花孝志氏とNHKの番組出身の元タレント・大津綾香氏による党の主導権争いをめぐるバトルが勃発し、注目が集まりました。
ネット上でも、東京都の政治家女子48党の候補者は、投稿数が多く、フォロワー数を伸ばしていました。
選挙期間1日あたりツイート・投稿数、選挙期間1日あたりYouTube視聴数、選挙期間1日あたりTwitterフォロワー数(いずれも中央値)
筆者作成
しかし、党首であり目黒区議選に立候補した大津氏は落選。現職もほぼ全ての候補者が落選し、政治家女子48党は立候補者のほぼ全てが選挙に敗れる結果となりました。得票数も前回より減っています。
区議会議員選挙(21区)党派別得票率
筆者作成
たしかに一定のYouTubeでの視聴数や、SNSのフォロワー数は集めましたが、選挙では良い結果につながりませんでした。
要因としては、一連の内紛劇によって「有権者を向いて選挙ができていない」と伝わってしまった可能性が考えられます。今後も党として存続できるかの転換点に立っているのではないでしょうか。
今後は「地上戦」重視の“原点回帰”か。党勢拡大には看板(アイコン)となる議員育成が鍵
ポスター掲示板。
撮影:吉川慧
ここ数年はコロナ禍の影響で、各政党では全てのSNSを駆使する傾向にありましたが、コロナ禍が落ち着いたことで「本来の選挙戦」に少しずつ原点回帰しつつあるのだと考えます。
ただ、無党派層が増えたことで、どの政党も既存の支持基盤に綻びが生じており、選挙は組織票だけに頼る時代ではなくなりつつあります。SNSは無党派層にアピールする有力なツールとなりうるので、今後ますます重要性が高まることは間違いないでしょう。
今後は広く手をつけるような「全方位のSNS」ではなく、政党や候補者と相性の良い「限られたSNS」に特化し、SNSの各機能や目的・演出に沿って使いこなすスキルが政治家には求められていくのではないでしょうか。
街頭演説や個人演説会といった従来の選挙運動とともに、浮動票や無党派層に響くSNSの活用が求められています。いわば「地上戦」と「空中戦」の掛け合わせです。
ネット選挙は2013年の参院選で解禁された当初、街頭演説や集会の告知などが目立っていました。双方向性を生かした有権者とのやりとりは盛り上がらず、あまり票に結びつかないという見方もありました。
しかし、それから9年で状況は変わりました。人口規模が小さいところでは、SNSを利用した選挙活動は低調なものの、選挙を重ねるたびに、全体の質は年々アップしており、有権者が参加意識を持てるような双方向の活用や、政治家の人柄をいかに見せるかなどのカジュアルな内容が増え、無党派層にまで幅広く支持を広げようとSNS上での「空中戦」は進化を見せているのです。
そして今回、結果的に躍進した日本維新の会の強みの一つは、所属議員一人ひとりが党のフロントマン(アイコン)になり活動していた点です。ここに他党との差がありました。
今後、各政党が党勢拡大していくためには、いかに一人ひとりの政治家の発信力・影響力を強化し、個人の政治家としてのブランドを磨き上げ、吉村共同代表やれいわ新選組の山本太郎氏、国民民主党の玉木雄一郎氏のような「党の看板」や「アイコン」となる議員を党内で育てるかが求められるでしょう。
ネット選挙も含めた日本の政治におけるSNS利用が、来たる衆院選でどのように変容していくのか、引き続き注目していきます。
中村佳美/1992年、高知県出身。大学卒業後、フリーアナウンサーや国会議員秘書の仕事を経て、政治に興味を持つ。国政選挙や統一地方選にSNSスタッフとして携わった経験から、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科に入学し、2019年から「政治のSNS活用」を調査研究。国政選挙や地方選挙、米国大統領選などで候補者や政治家のTwitter、Facebook、Instagram、YouTubeなどを中心としたデータを収集し、分析。大学院修了後、主に政治機関や選挙・パブリック現場のSNS広報支援、データ分析を手がける「ネットコミュニケーション研究所」を2021年に設立。
【期間前の調査について】
調査時期:2023年2月21日~3月21日
調査機関:ネットコミュニケーション研究所
調査対象:
1::都道府県議会議員のSNS利用実態調査:都道府県庁所在地がある市(東京は都区部)内にある193選挙区の760人の現職都道府県議会議員について調査
2:市区議会議員のSNS利用実態調査:人口33±3万人の市・特別区(762人)について調査
3:市町議会議員のSNS利用実態調査:人口2±0.05万人の市町(189人)について調査
※都道府県知事(47人)、政令指定都市市長(20人)、政党公式アカウントのデータについては、同期間にも再調査しました。全て、6SNS各数値を取得。
【期間中の調査について】
調査時期:3月23日〜4月23日
調査機関:ネットコミュニケーション研究所
調査対象:衆参5つの補欠選挙、都道府県知事選挙、政令指定都市長・東京特別区長選挙・東京都21区(NHK・政女・参政党・れいわ新選組候補者)、激戦区である(千代田区・港区・渋谷区・新宿区)、政党公式アカウントの6SNS各数値を取得。