アクセサリー作家の5つの習慣。自宅兼工房で仕事も生活も快適に続けるために

近頃、もはや珍しい語ではなくなってきた「セルフケア」。

しかし具体的に何をするべきなのかを考えると、シンプルに答えるのはなかなかに難しい。

本連載「5 Habits 〜私が整う、ちいさな習慣」では、さまざまな分野で活動している人に、5つの「自分をケアし、整えるために普段からやっている小さな習慣」を聞いていく。

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アクセサリー作家のフジイサミさん。悩みは「ついつい、ほぼ毎日仕事をしてしまうこと」だという。

撮影:野口羊

第1回は、Twitterで受注の案内を出すと、たちまち予約が殺到する人気作家・フジイサミさんの仕事場兼自宅を訪ねた。

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フジイサミさんが手掛けるアクセサリーブランド「銀、真鍮」

https://ginshinchu.com/

取材に伺うと、大きな窓から差し込む晴天の自然光と、いくつも並ぶ椅子を背に、にこやかな表情の男性が現れた。

習慣1. ものの位置を元に戻す

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撮影:野口羊

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モノは基本定位置管理

撮影:野口羊

「僕は起きるのが遅くて、大体10時くらい。朝起きると結構散らかっちゃっているので、まず水を1杯飲んで、服を着替えたら片付けから始めます。

まわりの環境に左右されやすい性質のため、片付けられていないと気が散って、本来するべきことに集中できないんです」

イサミさんが自分の性質に気づいたのは、作家としてデビューした約4年前のこと。それまでイサミさんはガラス清掃など、さまざまなアルバイトをしていた。

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撮影:野口羊

「アルバイト先で、例えば倉庫が散らかっていたりすると、気になって仕事どころじゃないというか。そこを片付けてからじゃないと、作業に移るのがキツくて。

でも、自分の気持ちを優先すると、和を乱して周りに迷惑がかかるからと、その違和感に蓋をしながら仕事をしていました。そういう状態の中で、当時は“なんかうまくいかない”みたいなことが多かったんです」

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小さい頃からモノづくりが好きだったというイサミさん。当時はレゴが大好きで、高校生時代には自転車を組み立てていた。

撮影:野口羊

その後、ブランドを立ち上げ、作家として独立。半年くらい経った頃に、大きな変化を感じたそうだ。

「一人だと、自分の気になることから片付けていって、例えば仕事始めが14時になったとしても誰にも迷惑をかけません。

だから、昨晩使った食器を洗って乾かしてから定位置に戻す。切れが悪くなっていた包丁を研ぐ。くすみが気になっていた窓をキレイに拭く。仕事の道具を修理する……。

そういう、見逃すこともできるけれど、心のどこかに引っ掛かり続けているようなことを全て片付けてから、仕事に取り掛かる。それ以来、いつでもどこでも “なぜかうまくいかない”がなくなって、全てがうまく回るようになっていました」

とにかく人一倍、周りにあるものの状態が気になってしまうのは、「自分がモノづくりをしているからかもしれませんね」と、イサミさんは言う。

習慣2. 座る椅子を変える

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撮影:野口羊

「気になることが全部片付いて、お昼ご飯も食べたら仕事を始めるので、休憩時間もバラバラ。作業している最中に、急にプツッと集中力が切れる瞬間があるんですが、それが休憩の合図です」

休憩時間はコーヒーを片手に、キッチンの窓辺に置いたイスに座り、YouTubeを見るのだとか。

豆から挽いて淹れたコーヒーを飲み干したら作業再開。そこからはまた作業に没頭する。

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撮影:野口羊

そんな暮らしの中、イサミさんが気をつけているのが腰を労わること。立ち仕事が多かったアルバイト時代に腰痛を発症したことがきっかけだという。

具体的には? と聞く前にあることに気づいた。このキッチン+作業場のスペースだけで、置かれた椅子の数は6個。イサミさんの部屋には、椅子がとても多いのだ。

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撮影:野口羊

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撮影:野口羊

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撮影:野口羊

「作業中も、休憩中も、とにかくすぐに座りますね。その日の気分で座る椅子を変えていて、1日を通して部屋中の椅子全部を座り渡ることも。

今日なんだか調子悪いかも?と思うと、椅子のせいにして『う〜ん、違うなあ』とか言っています。そうしていると、椅子を変えるだけで調子が良くなるので(笑)」

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折り畳みイスが多く、場所を移動させて座ることも。それが気分転換の一つにもなっているそう。

撮影:野口羊

習慣3. ビールを飲みつつ趣味のモノづくりに没頭

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「先日も9ケース買っちゃって。押し入れの下の方に隠してます」……本当に好きなのが伺える。

撮影:野口羊

「仕事終わりにビールは毎日飲みます。これも息抜きの一つになっていて、ビールを飲み始めてからはもう自由時間!という感じですね。夜更かしが好きなもので、そこからが長いのですが……」

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撮影:野口羊

この自由時間に一番「いろんなアイデアが浮かぶ」とイサミさんは言う。

「飲みながら、趣味のモノづくりなどで手を動かしているときに、急にアイデアが浮かんできてハッとすることが多いです。アイデアが浮かんだら、もう形にしないと収まらなくなって。そこから集中して、一気に作り上げて気づけば朝5時とか……」

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撮影:野口羊

「先日も、急にパンツを作るアイデアが浮かんで、そこから部屋中のパンツを引っ張り出して床に並べて、パタンナーさんに依頼するのに何をどうしたいのかをぶわーっとメモったりとか。……その間にビールを3~4本は飲んでいるかなという感じです」

モノづくりのアイデアは、日中に感じた小さなストレスや違和感から浮かぶことが多いという。「あのタグが肌に当たって不快だった」や「このボタンはもっと留めやすくならないのかな」など。

そのときは気にも留めず、サラッと流すのだそうだが、それらが夜中になると頭の中に降り注ぎ、パズルのようにぴたっとハマって、生み出すものの輪郭が見えてくるというから面白い。

そして実際、カタチになったときの達成感が気持ちいいのだそうだ。

取材の最初に、きれいに片付けられた部屋で「結構部屋を散らかすので」と聞いたときは謙遜かと思ったが、この話を聞いて「本当に朝には散らかっているんだろうな」と想像できた。

習慣4. 夜中のドライブで頭を空っぽに

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撮影:野口羊

作業前の片付け、快適な椅子、仕事終わりのビールに、夜中に熱中する楽しいモノづくり……。そのどれもイサミさんにとっての息抜きになっているのは間違いないのだろう。

ただ、少し気になったのが、結局どれも仕事につながっている習慣であること。

「そうですよね。セルフケアを聞かれているのに、ついつい仕事の話をしてしまう……。 多分、家にいる限りは、すべてが仕事に紐づく一種のルーティンにはなってしまっているんですよね。

そう考えると、もしかしたらこの部屋から出て、日常とは異なるイレギュラーなことが発生したときが一番のリフレッシュになっているのかもしれません」

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撮影:フジイサミ

その一つが、夜中のドライブ。ビールを飲まない日に、ふと思い立ってあてもなく1~2時間ほどドライブに出かけることがあるのだという。

「運転がもともと好きなので、楽しくなっちゃうとそのまま走りにいきます。運転中はアイデアが浮かぶとかはなくて、ただただ運転することに集中する感じです。部屋で手を動かして達成感を得るリフレッシュとは違う、完全にオフになれる時間ですね」

習慣5. 月2回のキャンプで完全なオフモードに

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写真提供:フジイサミ、撮影:石崎嵩人

夜中のドライブ以上に、完全にオフになれるひとときが、月に2回ほど行っているキャンプだという。長野の奥地にお気に入りの場所があるそうだ。

「一人で行くこともありますが、大体は同じ人と。もう10年以上髪を切ってもらっている美容師さんと行っています。もちろん話すこともありますが、大体はお互いに横に並んで、それぞれソロキャンしているような雰囲気ですね(笑)」

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愛車で現地に向かう道中の運転から、徐々にスイッチが切れていく。

写真提供:フジイサミ

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写真提供:フジイサミ

山でもモノづくりをしてみたら面白いのでは?と、一度は制作を試みたことがあったようだが「ここでは、やっぱり何もしない方がいい」と感じたそうだ。

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「テントを立てて、座って焚火を見て。ご飯を食べてぼ~っとしてたりすると、あっという間に時間が経っています」

写真提供:フジイサミ

これから整えていきたいこと

最後に、これからのことを聞いた。

「将来的には広い土地に、一軒家を建てて住めたら。キャンプ場みたいに、自然豊かなところがいいですね。この家は賃貸なので限界があるのですが、もう少し壁をいじれたらいいなぁと。検討中です(笑)。

仕事では、服を作りたい。『銀、真鍮』のようにブランドを立ち上げたいと考えていて……。また詳しいことが決まったらSNS等でご報告すると思うので、楽しみにお待ちいただけたら嬉しいです」

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撮影:野口羊

なんだかんだとやっぱり手を動かして、モノをつくることが大好きなのだと伝わってくる。イサミさんにとっては、ドライブやキャンプでただただ無心になることも、新しいアイデアでモノをつくり達成感を得ることも、日々の喜びをもたらす欠かせない要素なのだろう。

ぜひいつかは、この涼やかな昼間の姿からは想像できない、夜更かし好きで、ビール党なイサミさんが一心不乱にモノづくりに向き合う“B面”の現場も見てみたい—— 。そんなことを思いながら、まだほんのりとコーヒーの香ばしい香りが漂う部屋を後にした。

フジイサミ

主にシルバーと真鍮を使ったシンプルな指輪を、何年後も同じラインナップで提供しつづけることを目指すアクセサリーショップ「銀、真鍮」の店長であり、作り手。

モノづくりのテーマは「持続可能」であること。生涯作り手。腰を大事にしている。

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