クルーズ船の乗務員たちが明かした、海の真ん中で仕事を辞めた時に起こること

クルーズ船

Cameron Spencer/Getty Images

  • クルーズ船の乗務員が仕事を辞める時は、家に帰るための飛行機代を自分で払わなければならないという。
  • 一度退職した乗務員は、船旅会社に再就職できない場合もある。
  • あるクルーズ船の乗務員は、メンタルヘルスの問題で仕事を辞めた際、1400ドル(約19万円)近く借りなければならなかったと話している。

クルーズ船の上では、"退職"は誰にでもできる贅沢ではない。

4人の元乗務員および現乗務員へのインタビュー、Insiderが入手した会社の資料や会議の記録によると、契約満了前に仕事を辞めたクルーズ船の乗務員は、家に帰るための交通費を自己負担しなければならず、将来的に再就職できない可能性もある。

中には月給600ドルという低賃金の乗務員もいて、帰国するための費用を乗務員本人の負担にすると、メンタルヘルスの問題や労働条件の悪さといった理由で退職することが難しくなると、乗務員たちは話している。

「船旅会社は乗務員を飛行機で帰国させますが、その分を乗務員の給料から差し引くんです」とクルーズ船の乗務員や乗客の代理人を務める、アメリカのフロリダ州マイアミを拠点とする弁護士のジム・ウォーカー氏はInsiderに語った。

「仕事を辞めて家に帰ろうとする乗務員にとっては、非常に懲罰的な措置です」

クルーズ船の仕事を辞めようとすると起こること

自宅から遠く離れているという点を除けば、クルーズ船の仕事を辞めまでの流れは他の仕事と変わらないように思える。厄介なのは上司に話し、いくつかの書類に記入し、人事部の面談を受けた後、船から降りて自分の国に戻るところだ。

大手船旅会社2社の手続きに関する内部文書によると、退職した乗務員は帰国するための費用(航空運賃を含む)を負担しなければならず、その会社に再就職できない可能性もあるという。家族の緊急事態といった場合には、忌引休暇を与える会社もある。

Insiderは世界3大船旅会社のロイヤル・カリビアン、ノルウェージャン・クルーズ・ライン、 カーニバル・クルーズ・ラインに乗務員の退職手続きや忌引休暇について質問したが、回答は得られなかった。

3月に退職した大手船旅会社の元バーテンダーの男性は、33時間かけて自宅に帰るために月給の倍以上、1400ドル近くを借りることになったとInsiderに語った。

人事部との面談の音声記録によると、この男性は会社の昇進制度を批判する嘆願書を作成したことで懲戒処分を受けた後、不安発作や睡眠障害といったメンタルヘルスの問題が理由で退職した。

男性が高額な航空運賃を支払う余裕がないと経営陣に伝えると、上司からもう1カ月仕事を続けるよう勧められた。その後、男性は医療休暇を申請したものの、クルーズ船の医師がそれを却下した。

男性は、今はうつ症状や自殺願望はないものの、精神的に苦しんでいること、過去に自殺未遂の経験があることを医師に打ち明けた。すると、この医師は男性に自殺願望があるなどと申告したら、今後この会社では働けなくなると警告した。

音声記録によるとこの医師は「下船させるのは海に身を投げようとしたり、自殺しようとする患者だけだ」と語った。

「君は自力で家に帰る必要がある」

クルーズ会社に再就職できない可能性も

乗務員

James D. Morgan / Getty Images

弁護士のウォーカー氏によると、船旅会社は解雇された乗務員には帰りの飛行機代を支払うが、退職した乗組員には支払わないケースが多いという。帰国するための費用は、雇用されたばかりの乗組員には特に重くのしかかる —— 船に乗るにあたって、制服を購入したり、出航地までの交通費を負担させられることもあるという。

そもそもクルーズ船に乗るために費用がかかるため、仕事を始める前に借金を背負ってしまう人もいる —— つまり金銭的に辞める余裕のない人もいるのだとウォーカー氏は話している。

2022年に仕事を辞めたロイヤル・カリビアンの元乗組員の女性は、「トラウマになるような」「軍隊のような」職場環境のせいで5カ月の契約満了を待たずに3カ月で辞めた際、帰国するための飛行機代を自分で払わなければならなかったとInsiderに語った。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のせいで10日間、窓のない船室に隔離されたことが転換点になったと女性は話している。

「日の光も差さない部屋を出ることも許されませんでした。食べ物もほとんどありませんでした」と女性は振り返った。Insiderは従業員のCOVID-19関連のルールについてロイヤル・カリビアンに尋ねたが、回答は得られなかった。

「家族や友人に電話をかけることはできましたが、わたしが泣いているので話をするのは難しかったと思います。皆、とりあえずそこから抜け出すべきだと言いました。でもわたしは、自分には行く場所がない、海の真ん中で八方ふさがりだという感じで…」と女性はInsiderに語った。

女性によると、2週間後に船から降りたいと伝えたところ、会社からは契約満了前に辞めれば今後、船旅会社で働くことはできなくなるだろうと言われた。女性がそれでも船を降りたいというと、会社は女性の退職理由を「COVID-19関連」とした —— そうすれば女性は再びロイヤル・カリビアンで働けるのだという。

「契約満了前に船を降りれば、戻って来られなくなると会社は言いました。多くのスタッフにとって、それは恐怖なのです」と女性はInsiderに語った。

「マイアミで降ろしてもらうまで、もう1週間働かなければなりませんでした。精神的にとてもきつかったですが、会社は引き続きわたしの仕事の予定を組んでいました」

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