打ち上げられて上昇するロシアのソユーズ宇宙船。国際宇宙ステーションから撮影。
NASA/Christina Koch
- ロシアの衛星がアメリカのスパイ衛星をストーキングしているようだ。まるでネコとネズミの「追いかけっこ」のように。
- 「インスペクター」と思われるロシアの複数の衛星が、軌道上のターゲットの近くを通過している。
- 「インスペクター」が敵対する人工衛星をどれだけ詳細に把握できるか、下の画像を見れば想像できるだろう。
ロシアの謎の衛星とアメリカの衛星は、宇宙空間でネコとネズミのような追いかけっこをしている。
ロシアの衛星「Kosmos-2558」は、2022年8月にアメリカの機密軍事衛星「USA-326」と同じ軌道面に打ち上げられ、それ以来、定期的にアメリカの衛星の近くを通過している。
Kosmos-2558の動きについてロシアから正式な説明はなく、宇宙を観測する人々は、この探査機がUSA-326をストーキングしていると見ている。これは、他の衛星の詳細なデータの収集を目的とした「インスペクター」だと考えられており、ロシアが打ち上げたこの種の衛星では、少なくとも3機目とされる。
衛星が他のターゲットを撮影することで、どれだけ詳細な情報を得ることができるかを示したのが下の画像だ。これは、普段は地球を撮影しているマクサー(Maxar)の衛星が、日本のロケットの廃棄物とすれ違った際に撮影した。
地球周回軌道上を動く日本製H-IIAロケットのステージ間リングとペイロードアダプターが、マクサーの衛星によって撮影された。これは、衛星による撮影で、どれだけ詳細な情報を収集できるかを示している。
Satellite image ©2023 Maxar Technologies
「とにかくびっくりした」とハーバード大学の天体物理学者であるジョナサン・マクダウェル(Jonathan McDowell)は、マクサーが撮影した画像についてInsiderに語っている。
「他の衛星を見るために設計されたわけではない衛星が、ここまでできるとは。地球の観測のために設計された衛星なのに」
仮にKosmos-2558が、USA-326をストーキングしてデータを収集するために特別に設計されたインスペクターであるとすれば、さらに高画質の画像を得ているだろう。
人工衛星は何十年もの間、互いにスパイし合ってきた。観測したい衛星よりも高い軌道に自分の衛星を打ち上げるだけでそれが可能になる。しかし、ロシアは特定のターゲットをつけ狙う新しい方法を試みているようだ。その狙いは明らかになってない。
アメリカ宇宙コマンド司令官のジェームズ・H・ディキンソン(James H. Dickinson)大将は、ロシアがKosmos-2558を打ち上げた際に「これは本当に無責任な行動だ」とNBCニュースに語っている。
「この衛星は、アメリカ政府にとって重要な資産の1つと同じような軌道上にあることが確認された」
USA-326は、「オーバーヘッド偵察」という地球の観測によって情報を収集するスパイ衛星計画を支援するためのものだとアメリカ国防総省は説明していた。
アメリカはロシアの衛星を監視し続けるとディキンソンは付け加えた。
衛星をストーキングする方法
国際宇宙ステーションから見た、地球の地平線下に沈む月。
NASA
2つの衛星は同じ軌道面で地球を周回しているが、速度が異なるため、Kosmos-2558は定期的にターゲットであるUSA-326の下を通過する。
「もし、2人のアスリートが同じトラックの少し離れたレーンを走っていて、片方がもう片方より速いとしたら、片方がもう片方を追い越して再び近くを通過するということが度々起きる」とマクダウェルは説明する。その接近したときが、写真を撮るチャンスなのかもしれない。
マクダウェルの観測によると、Kosmos-2558は3月にUSA-326に4回接近通過している。ロシアの衛星は通常、ターゲットとするアメリカの衛星から約50km以内を通過する。衝突の危険があるほどの近さではないが、詳細な画像を得るにはおそらく十分な距離だ。
「攻撃的というより、むしろ詮索しすぎだと思う」とマクダウェルは言う。
ロシアは新たなストーキング技術を宇宙で実験しているのか
地球上空で分解していく衛星のイラスト。
ESA/ID&Sense/ONiRiXEL, CC BY-SA 3.0 IGO
ロシアは前にも同じようなことをやっている。
別のタイプのKosmosが、2014年の打ち上げ後にストーキングのような動きを見せたのだ。だがそれは敵の人工衛星ではなく、ロシア製ロケットを観察していたと、ロシアの宇宙開発を研究し、RussianSpaceWeb.comを運営するジャーナリスト、アナトリー・ザク(Anatoly Zak)が報告している。
そして2020年、アメリカ宇宙コマンド大将は、ロシアの謎の衛星2機がアメリカのスパイ衛星を尾行していると報告した。
「彼らはこの技術を実験するプログラムを実施しているようだ」とマクダウェルは指摘している。
USA-326が高度を上げたのは、定期的なブーストの可能性
USA-326は、Kosmos-2558が4月7日に再び近くを通過する直前により高い軌道に移動したと、衛星追跡の愛好者ニコ・ヤンセン(Nico Janssen)が、この軌道上の「追いかけっこ」の最新情報について報告している。
彼の計算では、Kosmos-2558は4月7日に約31kmの距離でUSA-326を通過する予定だったが、45kmまでしか近づけなかったという。
これは、アメリカがロシアの衛星の接近を回避するために行った作戦だった可能性があるとザクが報じている。しかし、アメリカの衛星が逃げたのかどうか、明らかではない。
「ただそれは無駄になるかもしれない。Kosmosもやろうと思えば高度を上げることができるのだから」とヤンセンはInsiderに宛てたメールに記している。
マクダウェルも同意見だ。
「これは接近を回避する動きだった可能性があるが、それで回避できるとは思えない」と彼もメールで述べた。
USA-326は、最近の太陽活動により高度が下がっていたため、それを補うために定期的なブーストを行っただけだとヤンセンは考えている。
太陽で爆発現象が起きると、荷電粒子が地球に流れ込み、人工衛星を低軌道に押しやることがある。
太陽の活動と軌道上のスパイ活動の狭間で「衛星は非常に脆弱だ」とヤンセンは述べた。