楕円銀河「M87」の中心部にある巨大ブラックホールから噴出する物質が撮影された画像と、ブラックホール周辺の「降着円盤」を拡大した画像。
R.-S. Lu (SHAO), E. Ros (MPIfR), S. Dagnello (NRAO/AUI/NSF)
- 太陽の65億倍の大きさのブラックホール付近から噴き出すジェットが撮影された。
- この画像は巨大ブラックホール周辺の降着円盤の撮影に初めて成功するとともに、噴出するジェットをこれまでで最も高い解像度で捉えたものだという。
- 銀河系で最も明るい物質のひとつであるプラズマジェットが、どのように生成されるのかという謎が解明するかもしれないと期待されている。
超巨大ブラックホールが噴出する強力なプラズマジェットの様子を、初めて科学者たちが直接撮影することに成功した。
5500万光年離れた楕円銀河「M87」の中心部にあるこの巨大ブラックホールは、太陽の約65億倍もの大きさがある。
ときには数十万光年にもわたって流れ出ることもある、ブラックホールから噴出されるジェットは、宇宙最大の謎のひとつだ。
天文学者たちは、今回の撮影によって銀河やジェットがどのように形成されるのかという謎が解明されることを期待している。
ブラックホールは物質を飲み込むだけでなく、放出することも
我々のいる天の川銀河を含むほとんどの銀河は、超巨大ブラックホールを中心に渦を巻いている。ブラックホールの中心は、光さえも封じ込めてしまうほど重力が強く、物質はその中に吸い込まれてしまう。
そのため、この最新の画像では、銀河「M87」の中心にあるブラックホールは、暗い穴の周りに物質が渦を巻いている明るいリングのように見え。
しかしながらジェットは、ブラックホールから噴出した物質が作り出すものだ。
ブラックホールの周囲で渦巻く物質はブラックホール内へ落下する前に速度を落とし、エネルギーを失う必要がある。しかし、あまり速度を落とさず磁力線に沿ってブラックホールから離れていく物質もある。
NASAによると、この物質が細いビーム状になって外に飛び出し、ジェットが発生するのだという。
これらのジェットは信じられないような性質を持つ。ジェットは銀河系で最も明るい物質のひとつであるだけでなく、これまでの研究では、その粒子は光速に近い速さ(時速約6億7000万マイル、約10億8000万km/h)で移動できることが示唆されている。
ブラックホールから吹き出すジェットのイメージ画像。
NASA
ジェットの根源はどこなのか
地球規模の電波望遠鏡ネットワーク「グローバル・ミリ波VLBI観測網(Global mm-VLBI Array)」、チリの電波望遠鏡群「アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)」、「ヨーロッパ南天天文台(European Southern Observatory)」、グリーンランドの電波望遠鏡「グリーンランド望遠鏡(Greenland Telescope)」が共同体制で捉えた「M87」のブラックホールの新たな画像は、ブラックホール周辺のリング状構造とジェットの根源を同時に観測した初めてのものだ。
撮影できたこと自体が偉業ではあるが、これまではジェットやブラックホールを個別に撮影することしかできなかった。だが、今回初めてジェットとブラックホールを1枚の画像に収めることに成功したのだ。
2023年4月26日に公開された査読付学術誌「ネイチャー(Nature)」に掲載されたこの新しい画像は、ブラックホールの端からジェット噴射が伸びている姿を捉えたもので、前例のない洞察をもたらすものとなった。
この論文の筆頭執筆者で中国・上海天文台の主任研究員であるルーセン・ルー(Ru-Sen Lu)氏はプレスリリースで「ブラックホールの周辺領域からジェットが放出されることは分かっているが、実際その仕組みはまだ解明されていない」と述べている。
「これを研究するためには、ブラックホールにできるだけ近づいてジェットの根源を観測する必要がある」と彼は話している。
ブラックホールを可視化するための画像処理ソフトを開発したマサチューセッツ工科大学(MIT)ヘイスタック観測所(Haystack Observatory)の秋山和徳氏は、「この画像で初めて、リングの位置と中央のブラックホールから噴出する強力なジェットの位置を特定できた」とザ・ガーディアン(The Guardian)に語っている。
「これで粒子がどのように加速・加熱されるのかといった疑問や、ブラックホール周辺の多くの謎により深く取り組めるようになった」