メタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)は「ツイッター似」の分散型SNSの開発を進めている。
Meta, Tyler Le/Insider
メタ・プラットフォームズ(フェイスブックやインスタグラムの親会社)がテキストベースの分散型ソーシャルネットワークの開発を進めていることはすでに「公然の秘密」だ。
同ソーシャルネットワークについては、すでにいくつかのメディアが報じており、「P92」「Project 92」、もしくは「Barcelona」といった複数の社内コードネームが判明している。
最初にスクープしたインドの金融メディア「マネーコントロール」(3月10日付)の記事によれば、P92はインスタグラムとの統合が計画されており、ユーザーはインスタグラムのアカウントからログインできるようになるという。
開発プロジェクトの指揮を取るのは、2018年10月からインスタグラム責任者を務めるアダム・モッセーリ。
デザイン部門からプロダクトマネジメント部門を経てモバイルアプリやニュースフィードの開発に携わってきた人物で、フェイスブック時代からの通算社歴15年を数えるベテランだ。
テック専門メディアのインフォメーション(4月26日付)によれば、短尺動画共有機能「リール」やクリエイター向けツールを担当するプロダクト別の社内部門「シェアリング」グループがP92開発プロジェクトの中心的役割を果たす。
メタは直近わずか数カ月の間に、テキストベースの新機能をいくつもインスタグラムに追加してきた。
12月は、最大60文字のテキストおよび絵文字による短いダイレクトメッセージで相互フォローしているユーザーや「親しい友だち」リストのユーザー向けに気持ちや近況をシェアできる「ノート(Notes)」機能を発表した。
2月には、(当面は限られた)クリエイターがテキストや画像、動画などを複数のフォロワーに対してダイレクトに発信できる「ブロードキャストチャンネル(Broadcast Channels)」機能も追加した。
インスタグラムのソースコードをリバースエンジニアリングして社内テスト中の新機能を発見することで知られるイタリアの開発者、アレッサンドロ・パウルッツィ氏によれば、P92を端的に表現するタグラインは「インスタグラム・フォー・ユア・ソート(あなたの考え、インスタグラムで伝えてください)」とされている。
メタの広報担当はInsiderの取材に対し、次のようなコメントを寄せた。
「当社は、テキストメッセージをシェアできるスタンドアロン(単独で機能する)の分散型ソーシャルネットワークの可能性を模索しています。
クリエイターや著名人がその時々の興味関心や考えをそれぞれの望むタイミングでシェアできる(一般公開とは別の)限定されたスペースを生み出すことができれば、そこに新たな可能性が生まれるのではないでしょうか」
競合に対する優位性
開発中のP92は理論上、ツイッターはもちろん、その創業者であるジャック・ドーシーが在籍中に考案した「ブルースカイ(Bluesky)」など他の分散型ソーシャルネットワークと競合することになる。
この競合を制するのはどこか。金融サービス大手シノバス・ファイナンシャルのトラストポートフォリオマネージャー、ダニエル・モーガンはメタが抱える数十億人規模のユーザーを理由に、勝者を目指す上で良いポジションにいると分析する。
「メタはこうしたプロダクトのマーケティングに強みを持っています。(メタバースなど)ここしばらくメタが発表してきたいくつものアイデアよりは優れていると言えるでしょう。
ご存知のように(競合相手となる)ツイッターは過渡期を迎えており、その空白を埋める形で参入するには絶好の機会です」
メタは4月26日に第1四半期(1〜3月)決算を発表。売上高、利益、さらには第2四半期(4〜6月)の売上高見通しまで市場予想を上回り、立会時間終了後の時間外取引で一時12%近い株価上昇を記録した。
前出のモーガンは、3四半期に及ぶ売上高減少の暗いトンネルを抜け出したメタの現在地を「再出発」の始まりと位置付けており、開発中のP92は「この新たなチャプターの一部」だと評価する。
「登録会員のマネタイズ(収益化)の観点から考えて、P92は短尺動画の『リール』に続くメタの新たな『次の一手』になり得ます。P92とバルセロナ、どっちの名前がメタにとってふさわしいのかは何とも言えませんが、この分散型ソーシャルネットワークに需要があることだけは間違いありません」
ただし、現時点でメタが「勝ち組」になると断言するのは時期尚早とモーガンは付け加える。
「この新たなプロダクトの抱える最大の課題は、ツイッターと同じように、エンゲージメント時間が非常に限られるという事実に起因するいくつかの弱点を克服できるかというところです」
P92は、マストドンなど他の分散型ソーシャルネットワークも使っているプロトコル(共通規約)「ActivityPub(アクティビティパブ)」を採用しており、それを支えるブロックチェーン技術については、インスタグラムやフェイスブックが採用したノンファンジブルトークン(NFT)機能を通じてメタもこれまで開発に取り組んできた。
ただ、その取り組みは長続きせず、メタのコマース・金融サービス責任者ステファン・カスリール氏は3月13日のツイートで「クリエイターや人々、企業をサポートする別の方法に注力する」と発表。2022年5月のNFT機能テスト開始から1年も経たないうちに撤退を決めている。
P92も同じように市況などの影響で早期に開発を断念する可能性は十分にあるだろう。