インスタカートのショッパー。米ニュージャージー州のShopRiteの店舗で。
Michael Loccisano/Getty Images
インスタカート(Instacart)、ウォルマート(Walmart)、クローガー(Kroger)、ベストバイ(Best Buy)などの小売業者が、ロク(Roku)やディズニー(Disney)などのストリーミング企業と提携している。
小売業者やディズニーのような新しいストリーミング配信事業者は、広告ビジネスの立ち上げ段階にあり、購買データによってストリーミング広告のターゲットを絞り込み、売上が促進できることを証明しようしている。小売業者も配信事業者も、この価値あるアイデアをもとに、広告主からより大きな予算を獲得したいと考えているのだ。
Insider Intelligenceは、広告主がこうした取引に今年8億ドル(約1080億円、1ドル=135円換算)を投じ、2027年にはその額は56億ドル(約7560億円)にまで成長すると予想している。
インスタカートとロクは2023年4月26日に提携を発表し、広告主がインスタカートのデータを利用して、ロクでの商品広告を見て購入したかどうかを確認できるようにするとしている。
また4月初め、クローガーはディズニー傘下のHuluの広告ターゲティングと測定のために同社の購買者データを使用することを許可すると発表し、ペプシコ(PepsiCo)がアルファテスターとして参加している。
3月には、ロクがベストバイの購買者データを利用して広告のターゲティングと測定を行うと発表し、ウォルマートはトレードデスク(Trade Desk)およびロクと協力してターゲティング広告を販売している。
インスタカートの広告製品担当部長であるアリ・ミラー(Ali Miller)氏は次のように述べている。
「広告キャンペーンが実際に消費者の行動にどのような変化をもたらしているかをローファネルや斬新なインサイトに結びつけることができる方法は、何であれ、非常に強力なものになるでしょう」
例えば、パーソナルケアブランドのパイロットキャンペーンで、広告を見て商品を購入した人の60%がそのブランドの新規購入者だったと、インスタカートとロクは述べている。
小売業者の成長にはテレビ広告費が必要
フォレスター(Forrester)のシニアアナリストであるニヒル・ライ(Nikhil Lai)氏は、ブランドの多額のテレビ広告予算を扱う会社と提携することが、小売業者がより大きな予算を獲得するための鍵になると述べる。
フォレスターのデータによると、リテールメディアの収益の60%は、広告主が小売業者に対して長年費やしてきた従来の取引およびマーケティング予算によるものだ。残りの40%はデジタルおよびこれまでの広告予算から得られるものだ。
「小売企業は、取引や購買に関するマーケティング費用への依存を減らす必要がある。彼らは、収益をデジタルなどの広告予算から得ることを望んでいる」(ライ氏)
そうした収益は、自動車メーカーやエンターテインメント企業など、小売業者を通じて商品を販売することはないが、大きな広告予算を持っている広告主からも出てきているとライ氏は述べる。
ストリーミング企業も小売業の持つ広告主を必要としている
スパロー・アドバイザーズ(Sparrow Advisers)の代表兼共同創業者のアナ・ミリチェヴィッチ(Ana Milicevic)氏は、ストリーミングテレビ広告の販売業者もそれらの広告を軌道に乗せるために小売業者との提携を必要としていると述べる。
小売業者と提携することで、ストリーミング広告の販売業者は、消費財ブランドがこれまでのテレビ広告に費やしてきた大きな予算を狙うことができると彼女は言う。
ストリーミング広告は、リニア広告よりもターゲットが絞られ、測定可能であることがよく喧伝される。また、同じ広告を繰り返し見ないように広告の表示回数を制限する「フリークエンシー・キャッピング」など、視聴者の体験を向上させる機能を備えていることもアピールしている。これらの機能を小売業者のデータとともに販売することで、売り込みを強固にすることができるとミリチェヴィッチ氏は述べる。
小売業者との提携は、広告主がキャンペーンに付随するデータに追加料金を支払うため、広告価格を引き上げるのにも役立つとフォレスターのライ氏は話す。
ストリーミング広告は広告主にとって分かりにくいものになる可能性も
表面的には、配信事業者と小売企業のこうした提携は、膨大な購買者データを広告に活用できるようになるため、広告主にとってメリットがあると考えられている。
ウォルマートとアルバートソンズ(Albertsons)は、トレードデスクと連携してストリーミング広告のターゲットを絞っている。クローガーはディズニーともロクとも契約している。
ロクの広告収入マーケティングソリューション担当部長アリソン・レヴィン(Alison Levin)氏は、複数の小売業者とのパートナーシップにより、広告主がさまざまなタイプの購買者を見つけるのに役立つと話す。
しかし、こうした提携により、広告主がリテールメディアのプロバイダーやストリーミング広告の販売者にまたがる支出を管理しにくくなる可能性もある。
スパロー・アドバイザーズのミリチェヴィッチ氏は次のように述べる。
「誰もがほとんどの企業と提携したいと思うでしょう。結局、何が有効かを判断するのは広告主なのです」