VR集中部屋アプリとして2022年に紹介した「Immersed」。順調にバージョンアップを続け、機能強化が続いている。
撮影:Business Insider Japan
2023年に入ってリアルでのミーティングも増えてきた。とはいうものの、2019年に戻ったというより、リモートとリアルを使い分けるように変わった、というのが多くの人の感覚ではないだろうか。
リモートミーティングといえばZoomなどのビデオ会議が中心だが、ヘッドマウント・ディスプレイ(HMD)を使ったやり方もある。その中でも「Immersed」というサービスが面白い。
こうしたミーティングが今どこまできているのか、実際に使いながら説明してみよう。
なお、本記事執筆のための「打ち合わせ」は、すべてImmersedの中で進めている。
メーカーの垣根を超える「Immersed」の良さ
HMDを使った「仕事スペース」は、以前から存在するものだ。Business Insider Japanでも、メタの「Horizon Workroom」などで仕事する様子をレポートしてきた。
今回使うのは、冒頭でも紹介した「Immersed」だ。
Immersedは、仮想空間の中に「集中部屋」をつくるVR仕事ツール。カフェや会議室などを模した3D空間の中に入り、そこに複数のディスプレイを表示して作業ができる。
必要なものは、いつも使っているPCと、対応するHMD、そしてインターネット環境だ。
HMDとペアリングしたPCの画面をそのままVR空間に持ち込むので、PCのアプリや機能はほぼどれでも使える。HMDを使い慣れたPCのディスプレイとして拡張するためのツール、という言い方もできる。
ディスプレイを二つ、三つと持ち運ぶことはできないが、Immersedで仮想空間に表示する形なら、出張先などでも同じ仕事環境を維持できる。
この種のツールは複数あるが、特にImmersedは、仕事向けには利点が多い。
例えば、使えるHMDの選択肢が広いことは大きな利点の一つ。冒頭に挙げたメタの「Horizon Workrooms」は、メタのHMD(Meta Quest 2やMeta Quest Pro)でしか使えない。
一方、Immersedの場合、複数のメーカーのデバイスに対応している。特に大きいのが、ByteDance傘下のPICOシリーズにも対応していることだ。特に「PICO 4」は、Meta Quest 2同様に5万円を切る比較的安価な価格で、付け心地も軽い。
PICO 4は、装着中でも周囲の様子を内蔵カメラのカラー映像で確認できる機能がある。Immersedもこの機能に対応しているので、キーボードやマウスなどを確認しながら仕事ができる。
画面はPICO 4版のImmersed。少々わかりづらいが、仮想空間の中に「現実世界が見える窓」を配置して、手元をシースルーで見えるようにしている。空間全体をシースルーにすると、空中に画面が浮かんでいるような体験もできる。
撮影:Business Insider Japan
カラーでのシースルー表示は「Meta Quest Pro」や「VIVE XR Elite」など、15万円近い高級機が採用しているもの。PICO 4は実売4万4000円程度ながら、カラーシースルーに対応している。表示品質では高級機に劣る部分があるものの、価格面での優位性は大きい。
フルにシースルー表示にすると画面(この設定では3画面)が空中に浮かんでいるように見える。まるでSF映画の世界だ。
撮影:Business Insider Japan
今回のImmersed上での打ち合わせも、筆者はMeta Quest Proを、Business Insider Japan側はPICO 4と、別々の機器を使った。
このように、プラットフォームをまたいで、「仕事部屋」に人を呼べるVR会議ツールはまだそう多くはない。VRChatのようなSNS型のツールは、コミュニケーションはほぼ完璧だが、PCの画面を持ち込んで快適に仕事をする……というような用途も兼ねるならImmersedが向いている。
今回はPICO 4(左)とMeta Quest Pro(右)を装着してImmersed上でディスカッションした。
撮影:西田宗千佳
もう一つ、Immersedにはとても重要な点がある。
それは「無料で使える」ということ。特別な装飾の部屋は無料の場合使えないが、3画面での利用、4人までのコラボレーション作業は無料で使える。
光源も音声も「リアル」なVR部屋で話すと……
パブリックルームで3人で話しているところ。アバターを設定していなかったり、表示できないアバターだとこのようにアイコン表示になる。手元にノートPCが見えるのは、キーボードが見えるように手元だけシースルーに設定しているため。
撮影:Business Insider Japan
コラボレーション自体は簡単だ。
Immersedには自分だけのプライベートルームと、誰でも入れる「Public(パブリック)」、そして、招待した人だけが入れる「Invite Only」の3種類がある。
「パブリック」ルームは街中のカフェやホテルのラウンジのようなものだ。誰でも入れて、自由に話せる。
BI編集部のImmersed愛用者によると、多い時では5〜6人の知らない人たちがパブリックルームで「働いて」いる(ほとんどが英語圏)という。こうなってくると、VR上のコワーキングスペースに近くなる。
ある日のImmersed上の風景。宇宙ステーションを模したスペースにいる4人はすべて海外の見知らぬImmersedユーザー。
撮影:Business Insider Japan
実際、Immersedで用意される部屋は現実に近い。
椅子がいくつか用意されておりそこに腰掛けて仕事をしたり、仲間と話したりする。自分のアバターは、外光や照明に合わせてライティングされ、声は「相手のいる場所」から聞こえてくる。自分の正面にいれば正面から、横にいれば横から聞こえてくるわけだ。
アバターの顔に、外からの光が自然に重なっているのに注目。
撮影:Business Insider Japan
アバターは自分が見ている方向を向くし、手やコントローラーを認識し、手の動きとして再現する。この辺は、先行するメタの「Horizon Workrooms」と似ている。
顔の動きや身振り手振りは「ちょっとしたこと」だが、自然なコミュニケーションにとってはプラスだ。
話している人はこのように名前の周りの色(画面ではオレンジ色になっている枠部分)で分かる。
撮影:西田宗千佳
Immersed上で1時間以上ミーティングをしてみたが、音声の遅延は少なく、音質も良好。HMDのマイクで音質が決まるため「高音質」とまではいえないのだが、大きな不満はない。
話している最中には、アバターの名前にマークがつき、周囲から見て分かるようになっている。これもスムーズな会話のためにはプラスだ。
プライベートVR空間で画面共有も
話している人の横にシェアされた画面を配置することで、視線を合わせながら話せる。この左右の画面は、相手側からはまったく見えない。
撮影:西田宗千佳
ちょっとした会話だけならパブリックルームで大丈夫だ。ただし、落ち着いて秘匿性のある会話をするときや、資料を見ながら会話をする時などは「Invite Only」(=招待者のみ)の部屋がいい。
一人が部屋に入り、そこからメールやフレンドリストから会議の相手を呼ぶことで、「Invite Only」の中で会議ができる。
「Invite Only」とパブリックルームの大きな違いは、「自分の画面を同じルームの中にいる人に見せられる」というところだ。
自分の見ている画面の上に表示される「シェア」ボタンを押すと、その画面が他人にも見えるようになる。
ただ、現実とは異なり、この「シェアされた画面」は現状、室内にいるメンバーそれぞれが、別々の仮想画面を見るような仕様になっている。つまり、部屋の中に固定されたホワイトボードのようなものではない。
Immersedでは、自分の画面を好きな位置に配置できる。シェアされた画面は、「好きな位置に配置できるディスプレイが一つ増えた」ような形になる。自分が見やすいよう、好きなところに配置して会議が続けられる。
上の画像のように、相手の顔の横に起き、目線を合わせながら話すことだって可能なのだ。
Zoom会議に「VRからアバターで参加」もOK
一方、「画面のシェア」には若干の問題があったのも事実だ。シェアできるはずなのだが、なぜかうまくいかない時もあった。いまだに頻繁なバージョンアップを続けているが、原因は分からない。
Immersedは一人で使う仕事スペースとしてかなり完成度は高いが、コラボレーション用の空間として、共有機能の安定度の面でもうひと声……という印象はある。
ただ、参加する各自はなんらかのPCとセットで使っているはずだから、各自のPCに別途画面をシェアするサービスを使うなど工夫してしまえば良い話ではある。例えば「WEB SCREEN」という無料サービスを使うような方法だ。
こうした補助的な機能を使うと、トラブルは回避可能である。
ちなみにImmersedの中には「ウェブカメラ」も配置できる。そのウェブカメラをZoomなどのビデオ会議サービスで使うと、「Immersedの中からビデオ会議に参加」できる。自分の姿は実写ではなくアバターになるが。
中央のZoom画面に注目。上に見えているのは、Immersed内から参加した人。右下にあるのがImmersed内で使う「バーチャルウェブカメラ」だ。
撮影:Business Insider Japan
こうした仕組みも使い、現実と仮想をつないでコミュニケーションできるようにもなってきているのだ。