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先日、あるワーキングマザーの方からこんなお悩みの声を聞きました。
「女性管理職として、下の世代が『私にもできるかも』と思えるようにするには、どんな働き方を心がければいいのでしょう?」
この方がそう考えたのは、あるツイートがきっかけだったそうです。
そのツイートとは、若いワーキングマザーが自社の管理職ワーキングマザーについてつぶやいたものです。夕方にいったん仕事を離れて家事・育児をし、夜中に仕事を再開して深夜にメールを送信するような働き方をしている女性管理職に対し、「恐ろしい」「憧れない」とコメントしていたのです。
そのツイートを目にした彼女は、こう思ったそうです。
「私もまさにこの女性管理職と同じ。こうする以外に方法がないので、いいとも悪いとも思わずやってきた。別に後輩たちに憧れてもらわなくてもかまわないけど、『ああはなりたくない』と思われているとしたらちょっとショック……」
確かに若い世代の女性たちからは、「上の世代のワーキングマザーを見ていると、大変そうで自分にはできないと思ってしまう」という声もよく聞こえてきます。
「そう思わせてしまう私たち世代にも責任の一端はあるのかも……でも、どうすればいい?」と戸惑っているとのことでした。
私も、リクルート社員時代には育児をしながらマネジャーを務めていた時期がありました。ですから、このツイートで槍玉に挙げられた管理職女性の状況がよく分かります。
子どもを育てながら働く管理職女性、あるいは管理職でなくてもキャリアを大切にしたいワーキングマザーがどうすれば働きやすくなるのか、どんなマインドセットを持てばよいか、私自身の体験も踏まえてお話しします。
「効率的な働き方」は人それぞれ
前提として、私がこのツイート内容を聞いた時に「ん?」と首をかしげたことがあります。
夕方にいったん仕事を離れて家事・育児をし、夜中に仕事を再開して深夜にメール送信する女性管理職に対する、「恐ろしい」「憧れない」というコメント。
でも、この働き方は、必ずしも「育児中の女性管理職だから」というわけではないですよね。
例えば、独身男性だって、夕方からビジネススクールに通ったり、趣味の活動をしたりして、夜中にやり残した仕事を片付けていること、よくあるのではないでしょうか。
逆に、夜は早く寝て、朝早く起きて仕事をする人もいるでしょう。ちなみに私は育児期間中、22時に子どもと一緒に就寝し、3時に起きて早朝に仕事をしていました。
その人が「この時間にやるべきこと・やりたいこと」に優先順位をつけ、最も効率的で生産性が高い時間の使い方をしているのであれば、第三者にとやかく言われる筋合いはないのでは……と思います。
もちろん、仕事量が多すぎて夕方までに業務を完了できず、夜の時間を使わざるを得ない人もいるでしょう。
しかし、それも人によって事情が異なります。
(1)会社側が与える業務量が不適切
(2)自分の意志で、主体的に多くの役割を担っている
(1)の場合は、上長と話し合って解決するほかありません。例えば、人員を増やす、ムダな業務を削減する、自身の担当業務を切り分けて他のメンバーに振る、など。
では、(2)自分の意志で、主体的に多くの役割を担っている場合はどうでしょうか。
自身が望むキャリアや人生を手に入れるためには、仕事に対してアクセルを踏まなければならない時期、背伸びをしてチャレンジをしなければならない時期もあります。
それは、子どもがいてもいなくても、既婚でも独身でも同じです。
例えば、冒頭に挙げたツイートで、「恐ろしい」「憧れない」と言われてしまった管理職女性。
もしかすると、「我が子が成長したら、やりたいことをやらせてあげたい。留学したいと言えば送り出してあげられるような経済力を持つ親でいられるために、私は今、キャリアを積み上げるんだ」と、納得のうえで今の働き方を選んでいるかもしれません。
「私はこうなりたい」というビジョンを描けているのであれば、部下や後輩の女性に「ああはなりたくない」と思われたところで、気にはならないのではないでしょうか。
そこで気になってしまうのであれば、「私はこんな中長期ビジョンを描いている」「そのために今これをやるべきだと考えている」と、しっかり伝える機会を持ってみてもいいかもしれませんね。
それを機に、部下・後輩女性も自身のキャリアを中長期で見据える視点を持てるようになると思います。
「キャリア自律」が求められるこれからの時代、先々に起こり得るリスクを伝え、考えるためのヒントを提供するのも、女性管理職の役割の一つなのではないでしょうか。
仕事量が多すぎて疲弊している場合の対処法
一方、自身の意志で大量の業務を抱えたものの、心身ともに疲弊してしまっているワーキングマザーがいるのも事実です。
世の中では「女性活躍推進」が叫ばれ、男性育休も含めて、女性を支援する制度・環境整備が進んできました。けれど、やっぱりまだまだです。
妻がキャリアを積みたいと願う時期、夫も同様にキャリア構築に大切な時期を迎えているもの。夫がアクセルを踏んでいると、どうしても妻が家事・育児を多く負担することになりがちです。結果、仕事と家庭のバランスを崩し、追い詰められてしまう女性が少なくありません。
そんな時、どのように対処して少しでも働きやすくするか——ここからは私の体験を踏まえて、2つの提案をしたいと思います。
1. 仕事を変えて、「元の自分の姿」の呪縛から解放される
「出産前の私は、あれだけの仕事をあのレベルでこなせていた。育児中であることを言い訳にパフォーマンスを落とすことはしたくない」
そんな思いに縛られてはいないでしょうか。
でも、どうしても時間に制約はあるし、体力も気力も育児に奪われてしまう。元通りのパフォーマンスを上げるのは難しいものです。
できない自分にもどかしさや苦しさを感じるなら、「できていた頃の自分」を一度リセットするのも一つの手です。
私もそれを実践しました。
私は長男を育てながら、マネジャーを務めていました。ハードな日々を過ごす中、次男を妊娠。育休中、「復職してやっていけるだろうか……」と不安を抱いていた時、夫に異動辞令が下り、週4日は全国出張することになったのです。つまり、私の「ワンオペ」になるということ。
さすがに、元の仕事に戻るのは難しいと思いました。戻ったとしても、「以前の自分」と比べてしまう。私自身はもちろん、周囲も。だからいっそ仕事を変える決断をしました。
上長と話し合い、マネジメントのミッションから外れ、プレイヤーに戻ったのです。
マネジャー職だと、部下の営業同行、チームミーティング、マネジャー会議など、自分の都合だけでコントロールできない業務が多数あります。しかし、専門職である「コンサルタント」なら、担当するクライアント企業や転職希望者の方と個別にスケジュール調整がしやすく、多くの業務を自己管理・自己完結できます。
こうしてミッションが変わったことで「以前の自分」と比較する必要もなく、精神的にとても楽になりました。
かといってキャリアダウンにはならず、むしろ「エグゼクティブ専門コンサルタント」として新たなセルフブランドを築くことができ、現在に至っています。
キャリアは、「掛け算」によって市場価値が高まっていくケースが多々あります。
これまでのキャリアから道を外れたとしても、そこで新たに得たキャリアが、結果的に強いキャリアにつながることもあります。
例えば「マーケティング一筋」より「マーケティング×営業」の経験が評価され、活かせる可能性もあるわけです。
一時的に職種や役割を変えることは、決してネガティブなことではありません。
2. 「第三の家族」をつくる
とはいえ、異動や職種転換は「会社都合でできない」「したくない」という方も多いでしょう。その場合は、第三者の力を借りて、家事・育児のサポート体制を強化してください。
まず、親御さんに頼れそうであれば、もっと頼ってしまいましょう。
自分の実家の近くに引っ越したり、二世帯住宅に住んだりすることも検討してはいかがでしょうか。
なぜそれを勧めるかというと、私の友人の「実家で暮らすシングルマザー」がとても幸せそうだからです。彼女が言うには……
「夫とは言い争いになることでも、実親なら娘のわがままを受け入れてくれて、何か頼むにしてもストレスがない。仕事から帰ると、食事もお風呂も用意されていて、明日の保育園の準備まで済んでいる。子どもも他人に預けられるより、家族の中にいることで安心していられる。今すごくハッピーなので元の結婚生活には戻れない」
もちろん、シングルマザーになることをお勧めするわけではありません。自身の負担軽減のためのインフラ整備として、やはり「親のサポート」はかなり大きなメリットがあるということです。
とはいえ、多くの方は、さまざまな事情から親に頼ることが難しいでしょう。
そこで、「第三の家族」をつくることをお勧めします。
近隣に住むママ友と協力体制を築く方法もありますが、私が頼っていたのは「シッターさん」です。
私は長男7歳・次男2歳の頃から、「沖さん」というシッターさんにサポートしていただきました。沖さんはプロの保育士やベビーシッターではなく、近隣に住む60代(当時)の女性。ご主人は他界され、娘さんは海外在住で、一人暮らしをされていました。
ママ友から沖さんを紹介され、週に何日か来ていただくことに。保育園のお迎えから、夕食を作って食べさせる(時には私も一緒に)、お風呂に入るのを見守る……などをお任せしました。
私も子どもたちも沖さんを信頼し、まさに家族のようなお付き合いをさせていただいたのです。おかげでとても安心して仕事に打ち込むことができました。
最近は、シッターサービスや家事代行サービスなどが安価で、気軽に利用できるようになっています。情報収集をして、ご自身の課題を解決できる会社や行政サービス、信頼できるスタッフさんを探してみてはいかがでしょうか。
あるいは、SNSなどで自身の状況やニーズを発信し、シッターさんの紹介をお願いする方法もあるでしょう。
「私でなくてもできること」をどんどんアウトソーシングしていけば、時間にも心身にも余裕を持てるようになると思います。
そうすれば、部下や後輩女性のロールモデルにもなれるのではないでしょうか。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひこちらのアンケートからあなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合があります。
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。