中国の習近平国家主席。
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- 中国の「反スパイ法」が改正され、外国人投資家を心配させている。
- 改正された法律は、何が中国の国家安全保障や利益を構成するのかを明確に定義していない。
- 最近中国では、外国企業への制裁や調査、外国人の拘束が相次いでおり、今回の改正はそれに続くものだ。
中国で活動する外国企業は、知的財産の保護やアメリカとの地政学的緊張など多くの課題に直面してきたが、今後彼らの中国での事業展開はより困難になるかもしれない。
2023年4月26日、中国政府は反スパイ法の大幅な改正を可決した。スパイ行為の定義を拡大し、国家安全保障に関連するあらゆる情報伝達を禁止するなどの変更が加えられたのだ。
拡大されたこの改正反スパイ法は2023年7月1日に施行される。
DWニュース(DW News)やCNNの最近の報道では、中国の国家安全保障や国益となるものが明確に定義されていないため、この改正は外国企業の間で懸念を引き起こしていると学者やアナリストが述べている。
Insiderが確認した政治リスクコンサルティング会社ユーラシア・グループ(Eurasia Group)のアナリストが2023年4月28日付で書いたメモによると、同法はこれまで国家機密の不正取り扱いに焦点を当てたものだったが、すでに「定義があいまいな用語」で書かれていたという。
ユーラシア・グループは、現在でも国家の安全保障や利益に関しては、「明確に定義されていない」と記している。
「すでに非常に厳しい状況だった。今後はさらに厳しくなるだろう」とシンガポール国立大学リー・クワンユー公共政策学院のアルフレッド・ウー(Alfred Wu)准教授はInsiderに話している。この法律の拡大について、習近平国家主席の一人支配によるものだとウー准教授は考えている。習近平国家主席は、中国の厳格な「ゼロコロナ政策」でも見られるように、懸念事項に対処する際、やり方に「行き過ぎた」傾向があるという。
北京の全米商工会議所(US Chamber of Commerce)でさえ、今回改正された法律の影響を懸念している。
全米商工会議所は2023年4月28日の声明で、「ビジネスに不可欠なサービスを提供する企業への監視が強化されれば、中国でビジネスを行う際の疑念やリスクが劇的に増大する」として、「これは投資家コミュニティにとって深刻な懸念事項であり、中国の現地ビジネスパートナーにとっても同様である可能性が高い」と述べている。
アメリカのニコラス・バーンズ(Nicholas Burns)駐中国大使は、2023年5月2日にワシントンD.C.を拠点とするシンクタンクが主催したイベントで、この法律は企業に対する「脅迫」戦術の懸念も投げかけると述べている。
「この法律では、大きな投資案件に合意する前に企業調査を行ったり、中国で合理的な経済的な意思決定を行うために経済データを入手したりする日常的な活動が違法になる可能性がある」
また今回の法改正は、中国における外資系企業を取り巻く最近の動向から、特に注目されるものとなっている。
中国の外国企業の取り締まり強化が懸念を高めている
2023年4月、中国警察は上海にあるアメリカの大手コンサルタント企業ベイン・アンド・カンパニー(Bain & Company)の事務所を家宅捜索し、従業員に事情聴取を行っている。
2023年4月28日付の日本経済新聞によると、中国政府は日本の製薬会社アステラス製薬の従業員を「中国の国家安全保障に触れるスパイ行為」に関連するとして拘束したと中国の呉江浩駐日大使が明らかにした。2014年に中国が「反スパイ法」を成立させて以来、日本人として逮捕されたのは17人目だと2023年3月28日付のジャパンタイムズ(The Japan Times)は報じている。
2023年3月には、中国当局はニューヨークの企業調査会社ミンツ・グループ(Mintz Group)の北京事務所を家宅捜索し、現地社員5名を拘束した。また、中国サイバースペース管理局(CAC)は、アメリカのメモリー半導体大手マイクロン・テクノロジー(Micron Technology)に対し、サイバーセキュリティ上のリスクがあるとして調査を始めた。
それ以前の2023年2月には、中国が自国の一部と主張する台湾への武器売却に関与したとして、アメリカの民間防衛請負会社で兵器メーカーのロッキード・マーチン(Lockheed Martin)とレイセオン・ミサイルズ&ディフェンス(Raytheon Missiles & Defense)に制裁を加えている。
この動きは、3年間の新型コロナウイルスの規制を終え、中国が経済開放を行った矢先のことだった。だが、中国国営中央テレビ(CCTV)が2023年3月に報じたように、外国企業が「中国に投資し、中国に根付く」ことを歓迎する新首相の李強新とは対立しているように見える。
中国の政治経済を専門とするウーは、「外国人のビジネスマンは非常に心配している。結局のところ、次に誰が逮捕されるかは誰にもわからない」と述べている。
ウー准教授によると、企業はこのような懸念があっても、利益という名の報酬とこの新たなリスクを天秤にかけて判断するのだという。
「金儲けに熱心な企業は『中国のための中国製』の戦略を実行するかもしれない」とウー氏は話す。
「高収益という魅力があれば、たとえリスクを伴っても企業は中国に向かうだろう」
InsiderはワシントンD.C.の中国大使館に業務時間外にコメントを求めたが、回答は得られなかった。