値上げしなかったワークマン、営業益10%減。社外取にYouTuber起用「消費者目線」と説明

服の写真

ワークマンは2022年9月、プライベートブランド商品の価格据え置きを発表した。

撮影:横山耕太郎

ワークマンは2023年3月期の通期決算を発表した。

積極的に新店舗の設置を進めるワークマンの営業総収入(直営店の売上にフランチャイズからの売上を加えたもの)は前年比10.3%増の1282億8900万円だった。

一方で円安の影響などで売上原価は、前年比19%と急増。営業利益は241億600万円(前年比10.1%減)、純利益は166億5600万円(同9%減)だった。営業利益が前年を下回ったのは8年ぶり、純利益の減益は13年ぶりだ。

売り上げ推移グラフ

営業利益が前年を下回ったのは2015年3月期以来。

(出所)村上茂久「快進撃のワークマン、ユニクロ超えの利益率の秘密は『人件費率』。身軽な財務体質をどう実現したのか」(2022年12月26日)をもとに編集部加工。

プライベートブランドは売り上げ増

2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、原材料の高騰や円安の影響を受けて、アパレルメーカーなど競合他社は相次いで値上げを発表した。

一方、ワークマンはプライベートブランド(PB)の主力製品について「2023年8月まで値上げしない」と打ち出して注目された。

通期の結果をみると、価格の据え置きが利益を圧迫した形だが、PBの売り上げ増加には貢献した。PB商品の売上高は前年比14.3%増えた。チェーン全店の売上高のうち、PB商品の構成比は65.9%で、前年同期比3.4ポイント増加した。

決算短信では以下のように説明している。

「PB商品の価格を据え置くことで、当社の存在意義である『機能と価格に新基準』を追求したほか、ご要望が多かったキャンプギアやゴルフ関連商品を拡充させるなど、お客様の『声』にお応えすることで新たな需要の創出に取り組みました」

5月10日の決算説明会でワークマンの小濱英之社長は、「9月以降もPBの主力商品については値上げはしない考えでいる」と説明。

またPB商品について小濱社長は「商品の作り替えなどに加えて、価格の高いプレミアム商品群も考えており、収益面での心配はなくなる」とした。

今期は「増収増益」目指す

土屋氏の写真

新商品の説明会で登壇したワークマン専務の土屋哲雄氏。

撮影:横山耕太郎

決算説明資料によると商品の調達に関する2024年の見通しは、原材料の高騰や運送費は「下落傾向にある」とし、「改廃を進め付加価値を高めた新商品の展開で収益性の改善を図る」としている。

商品の値上げについて土屋専務はBusiness Insider Japanの2022年の取材に対して、値下げをしない理由について次のように語っていた。

「ワークマンはリーマンショックのときに値上げして、当時908円だった作業用ズボンを1108円で売りました。そしたら売り上げが3割くらい減り、客数の減少は3年続いた。

今やるべきことはひたすら売り上げを増やすこと。利益を上げることよりも、とりあえず売り上げでシェアを取る」

土屋氏の発言の通り、各社が値上げを断行するなかで、踏み留まったワークマンの売り上げ自体は伸びた。ただ円安や原料高、運送費などコスト増などのリスクもあり、今後はどう収益性を上げていくかが問われている。

2024年3月期の通期計画は堅調な「増収増益」の見通しだ。

売上高に相当する営業総収入は1365億7600万円(前年比6.5%増)、営業利益は257億2000万円(同6.3%増)、純利益は175億6300万円(同5.4%増)を目指す。利益率は2023年3月期の18.7%とほぼ同じ、18.8%を計画している。

目標のグラフ

出典:2023年3月期決算説明資料

9月に「アパレル強化」の新業態

積極的な出店計画は変えない。

中長期の目標として「国内1500店舗体制」を掲げており、2023年3月期には合計39店舗を出店し、期末の店舗数は981店舗になった。

また今期はアパレル事業も強化する。9月には都内にファッション志向を強めた新業態店「Workman Colors」の旗艦店を出店し、顧客層の拡大を目指す。

新商品の写真

2023年春夏モデルのレインジャケット。これまでとは違い「デザイン性を全面」に打ち出しているという。

出典:ワークマンのプレスリリース

ユーチューバーを社外取締役に

消費者の声を開発に生かす姿勢も、これまで以上に打ち出した。

5月8日には、4万3000人のチャンネル登録者をもつYouTuber・サリーこと、濱屋理沙氏が、社外取締役に就任予定だと発表した。6月の株主総会の承認を得て正式に就任する。

「サリーチャンネル」を運営する濱屋氏。ワークマンの社外取締役に就任する。

濱屋氏はかつて、火花に強い溶接工用の「綿かぶりヤッケ」を、「バーベキューや焚火用のアウトドアウェアとして最適」とブログで発信し反響を呼んだ。

その後、濱屋氏はインフルエンサーとして商品開発に参加。作業服のイメージが強かったワークマンで、「女性でも着られる商品」という新しい方向性の開拓に貢献した。

ワークマンにはインフルエンサーに無償で製品開発に参加してもらう「アンバサダー制度」があるが、濱屋氏はその第1号。現在ワークマンのアンバサダーは、現在約50人いるという。

ワークマンによると、濱屋氏を社外取締役に起用することで、商品開発や情報発信面でのアドバイスをもらうとしている。

一方で、決算説明会の質疑応答では、経営に関する専門知識がない濱屋氏の起用について「経営を監督するという社外取締役の本来の役割を果たせるのか?」という質問もあった。

この質問に対し小濱社長は、他の社外取締役には財務に詳しい公認会計士と、法務に詳しい弁護士をそれぞれ起用しているとした上で、次のように説明した。

社外取締役としてそれぞれの役割がしっかり分担できている。濱屋さんは消費者面線の意見をいただける方だと考えてお願いした。

多様性を確保するという意味でも、新しい社外取締役への在り方にもチャレンジしていきたいと考えている」(小濱社長)

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