ツイッターを買収、大規模な人員削減など急ピッチの改革を進めるイーロン・マスク氏。
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Insiderがすでに報じたように、イーロン・マスク氏買収後のツイッター(Twitter)で育児休暇制度が突如変更され、多くの従業員から怒りの声が上がる中、同社の人事部門責任者はメールを通じて事態の収拾を図ろうと試みた模様だ。
内情に詳しい複数の関係者によれば、人事部門シニアディレクターのウォルター・ギルバート氏は5月6日、従業員向けにメールを送信し、4月に実施された育児休業制度の変更について「はっきりさせておきたい」として、新たな方針を示したという。
ギルバート氏は投稿型ソーシャルサイト運営のレディット(Reddit)から4月に移籍したばかり。マスク氏が創業した宇宙開発企業スペースX(SpaceX)にも2年間勤務経験のある人物だ。
Insiderは5月9日付の記事(日本語版)で、ツイッターが正式な発表や従業員への連絡なしに育児休業制度を変更したことについて、以下のように報じた。
「4月に従業員たちは、上司を通じてこの休暇制度の変更を知った。その後、福利厚生の概要を記した会社の文書が変更されていることに気づいたが、社内でこの変更についての正式な発表はなかったという」
具体的な措置としては、有給の育休規定が突如として変更され、従来20週間取得できた有給休暇が一気に2週間まで削減された。この措置は、マスク氏による買収後、同社で進められているコスト削減をはじめとした改革の一環とみられる。
マスク氏率いる「新生」ツイッターでは、大規模なレイオフ(一時解雇)や急進的な社内改革に反発する自主退職が相次いだ結果、この半年間で従業員総数が約9割減少した。
そして、残る1割の従業員からは、今回の「乾いた雑巾(ぞうきん)を絞る」ような休暇制度変更に対し、怒りの声が高まっている。
内情に明るい関係者によれば、退職の意思を社内でおおっぴらに口にする従業員も複数いるようだ。
マスク氏を取り巻く経営チームからも、従来の1割まで減った従業員数をこの水準で維持できるか、さらなる離脱者が出るのではないかと、懸念の声が出始めている。
マスク氏が別途経営するトンネル掘削会社ボーリング・カンパニー(The Boring Company)の最高経営責任者(CEO)で、ツイッターのコンサルタントを兼務するスティーブ・デイビス氏もそうした懸念を共有する幹部の一人だという。
なお、マスク氏は2023年末までにツイッターの経営トップを退く意向を示しているが、仮にCEO交代が実現した場合、後任の有力候補の一人がデイビス氏だと噂される。
人事責任者からの届いた週末のメール
さて、前出の人事部門責任者ギルバート氏が週末に送ったメールからは、一度は強行した育児休業制度の変更を撤回しようとする意図が感じられたと、関係者は説明する。
同メールには、州法など「(各従業員が在住する)地域の定める要件」を満たすことを前提に、「出産・育児期の両親(birthing parents)」に12週間の有給休暇を付与するとの記載があった。
しかし、内情に詳しい関係者の証言によれば、ギルバート氏がメールで示した方針が制度として具体的にはどんなものなのか、もしくはどんなものになるのか、現時点では見えてこないため、従業員たちの間にはいまだに深い「混乱」があるという。
メールの全文を以下に掲載しておく。
チームの皆さん
育児休業制度に関して、不明な点がいくつもあるかと思います。
来週、追加情報をお送りした上で、出産・育児期の両親(に該当する従業員の方々)には直接ご連絡を差し上げる予定です。
取り急ぎはっきりさせておきたいのは、出産・育児期の両親には、地域の定める要件を満たすことを前提に、最低12週間の有給休暇が付与されるということです。
ギルバート氏のメール以降、休暇制度に関する追加情報はまだ提供されていない。
いずれにしても従業員の怒りは収まっていないようだ。
関係者に取材したところ、メール文面にあった「出産・育児期の両親」との表現を、多くの従業員は「出産する女性」を指すものと認識している。しかし、現時点でツイッター従業員のほとんどは子供のいる男性なので、ギルバート氏の提示した新たな方針の恩恵を受けられないかもしれない。そうした認識が、怒りの収まらない背景にありそうだ。
別の関係者はInsiderの取材にこう語った。
「従業員の多くは(今回の休暇制度改悪で)もう我慢の限界なのです」
マスク氏による買収を支持する従業員でさえ、労働時間がこれまで以上に増えただけでなく、福利厚生が相次いで削減され、前年分のボーナス支払いなどマスク氏の約束がいつまでも履行されない状況に不満を募らせている。
マスク氏およびツイッターの担当者にコメントを求めたが、返答は得られなかった。