「理想のキャリア」とは、どのようなものでしょうか。
よく言われるのは「Will/Can/Must」が重なっている仕事でキャリアを積んでいくことです。
- Will……自分のやりたいこと
- Can……自分にできること
- Must……会社や社会から求められること
編集部作成
しかし、30代や40代になっても「Will/Can/Must」のバランスがとれていない人が多いのが現実です。
今回は、学生~20代のうちに自身の「Will/Can/Must」の方向性をつかむための方法、そして「Can/Must」に偏りがちな30代以降でも「Will」を見つけてキャリアチェンジが叶うケースについてお話しします。
今回のテーマを取り上げたのは、こんなお話を聞いたのがきっかけでした。40代近いマーケティングのスペシャリストの談話です。
「学生時代、『マーケターってなんかカッコよさそう』というイメージだけでマーケティング職に就き、以来15年ほどマーケ畑でキャリアを積んできた。けれど、心のどこかで『この仕事、自分には向いてないかも』という思いがある。先日軽い気持ちで適性診断を受けてみたら、やはりマーケターとはかけ離れた、むしろ『研究職』に向く特性だという診断が出た。自分でも『確かにそうかも』と思った」
このようなお話は、これまでさまざまな職種の方からお聞きしました。誰かに話さなくても、自身の中でこんな思いを抱えている方は少なくないと思います。
その方はこうもおっしゃいました。
「もっと自分が得意なことを把握した上で就活をすればよかった……と、今になって思う」
これから就活を始める学生のみなさんは、自分に何ができるか、向いているかがよく分からず、「やりたいこと(≒憧れていること)」に比重をおいて職業を選ぼうとしている方が多いのではないでしょうか。
また、新卒入社してまだ数年以内——いわゆる「第二新卒」のみなさんの中にも、「希望の会社に入ったものの、何だかしっくりこない」とモヤモヤ感を抱えている方がいらっしゃると思います。
そこで、学生~第二新卒のうちから「自分にできること(Can)」が何なのかを把握するための方法をご紹介しましょう。
第三者と「壁打ち」をする
一人で考え続けていても、かえって迷路にはまることがあります。そこで、第三者と「壁打ち」することをおすすめします。壁打ちとは、自分の考えや気持ちを第三者に話し、相手から返ってくる反応から気づきを得て、さらに考えを深めていく……という作業です。
友人が相手でも、話すことで頭の中を整理する効果は得られますが、やはり人生経験が長い人のほうが適切に導いてもらえる可能性が高いでしょう。
大学のゼミの先生、バイト先の先輩・上司などでもいいですし、より客観的視点と人材マーケットの知識を持っているという点では、転職エージェントのコンサルタント、キャリアコーチ、キャリアメンターなどとしてサービスを提供している人々も、相談相手として適しています。
大学のキャリアセンターもぜひ活用してください。実はリクルートなどの転職エージェントでキャリアアドバイザーを務めた経験を持つ人が、アルバイト的に学生の相談に乗っていたりします。
彼らはさまざまな職業の知識とともに、キャリアカウンセリングの資格も持ち、「思考を整理する方法」を知っています。そうしたプロのサポートを受けるのも有効です。
では、壁打ち相手とどんな対話をするか。「Must」は必然的に生まれてくるものなので、「Can」「Will」について話をしてみましょう。
「Can」の見つけ方:「人より得意な役回り」を整理する
ゼミ、サークル、アルバイトなど、みなさん何らかのコミュニティに所属して活動していると思います。大学だけでなく高校時代にさかのぼってもいいので、まずは「日々、自分が何をしていたか」を書き出してみましょう。
それらの活動の中で、「他のメンバーよりも少し得意なこと」「自然と担っていた役回り」などを洗い出します。それを「汎用スキル」に置き換えます。
例えば、同じゼミやサークル活動の中でも、役割やスキルはさまざまです。
- 「会計を担当していた」→「数字に強い」
- 「外部機関・企業に協力を依頼していた」→「交渉力がある」
- 「メンバー同士の意見の対立を仲裁していた」→「調整力がある」
このように、それぞれ得意とすることから、自身の汎用スキル=ポータブルスキル(業種・職種にかかわらず持ち運びできるスキル)を探ってみましょう。それがあなたの「Can」と言えるものです。
「Will」の見つけ方:漠然とした憧れに対して「なぜ」を深掘りする
冒頭では、「カッコよさそう」というイメージだけでマーケティング職に就き、ずっとモヤモヤ感を抱いている方のお話をしました。
仕事選びにあたって「Will」を軸にすることは大切ですが、漠然とした憧れだけで飛び込むと、遅かれ早かれ行き詰まってしまうことは多いようです。
そこで、壁打ちの中で、「なぜ憧れるのか」「どういう部分に憧れるのか」を深掘りしていきましょう。
私はこれまで多くのマーケティング職の方々とお話ししてきましたが、同じような仕事をしている方でも、「世の中に必要とされているものを提供し、困っている人を助けたい」という志向の人もいれば、「トレンドやブームを生み出したい」という志向の人もいます。
その背景には、「誰かに喜ばれた」「こんなものを作った時に達成感を得た」など、何らかの原体験があるものです。
それを壁打ち相手と一緒に振り返るうちに、自身が大切にしたいものが見えてきて、目標となる「Will」が明確になるかもしれません。
世の中にどんな仕事があるかを知ることも必要
「Can」と「Will」を接続させて適職に出合うためには、世の中にどんな仕事があるかを知ることも大切です。存在を知らなければ、自分に合う仕事かどうかをイメージすることもできません。
「業界研究」「職種研究」などの書籍や情報サイトはたくさんありますから、ぜひ仕事に関する知識を広げてください。さらには、いろいろな人に話を聴き、「リアルな声」を知ることが大切です。
興味を持った業界・職種があれば、その仕事に就いている人たちが集まるSNSなどにアクセスし、どんな会話が交わされているかを覗いてみてもいいでしょう。
OB・OGに話を聞いてみるのもおすすめです。ゼミやサークルの先輩にアプローチするほか、最近ではOB・OGを紹介してくれるサービスもあるので、「ロールモデル」になりそうな人を見つけてみてはいかがでしょうか。
「川流れ」式でキャリアを築いていく道もある
私たち転職エージェントは、「中長期でキャリアプランを立てるサポートをしてほしい」と依頼を受けると、「未来の自分」を描いてもらうことから始めます。「60代になった時、どんな自分になっていたいですか」というように。
その姿に到達するために、50代・40代・30代の段階でどんな経験をしておくか……と逆算していくのです。
しかし、「将来のことは分からない」「まったくイメージができない」という方もたくさんいらっしゃいます。
その場合、無理に将来像を決める必要はありません。
「目の前にあるものに、とにかく一生懸命に取り組む」
「自分が必要とされていたら、それに応える」
それでいいのです。
大手企業で役員クラスにのぼり詰めた人、経営者として成功した人などにお話を伺っていると、「やりたいことなんて特になかった」「目の前の仕事に本気で取り組んでいたら、成果が挙がり、今の自分がある」ということは多々あります。
目の前の仕事をがんばって結果を出すことで、新たな役割が与えられる。その繰り返しによってキャリアを築いていくことを、「川流れキャリア」「キャリアドリフト」などと呼びます。
やりたいこと(Will)がなくても、目の前の仕事に全力で取り組んでいれば、「ポータブルスキル」が磨かれます。
そしてそのポータブルスキルは、30代・40代・50代になってから「Will」を見つけた時、その実現に役立ちます。
最近転職されたAさん(30代/女性)の事例をご紹介しましょう。
ブライダル業界でウェディングプランナーとして働いていたAさん。コロナ禍を機に今後のキャリアと人生を見つめ直し、転職活動を開始しました。
Aさんの「Will」とは「人の人生に寄り添いたい」。そのWillにマッチする選択肢を探った結果、人材サービス業界のキャリアアドバイザーに転職を果たされました。
結婚式のプランニングと転職活動のサポート。まったく異なる仕事に見えますが、「これまでの人生を丁寧にヒアリングして志向や価値観を理解し、それにマッチするものを提案する」という点では共通しています。
Aさんが培ってきた「Can」が、「Will」を実現するためのキャリアチェンジに活きた好事例と言えるでしょう。
Aさんのような転職事例は、40~50代になった方でも多数見られます。
とはいえ、やはり「Can」と「Will」の両方を活かしていきいきと働ける期間は、少しでも長いほうがいいですよね。
今、モヤモヤ感を抱いている人は、すぐにでも自身の「Can」「Will」を見つめ直してみてはいかがでしょうか。
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森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。