アサヒ飲料社長の米女太一氏が手にしているものが、CO2吸収材。自販機の形状によって異なるが、1台あたり約6キログラムを容器に入れて庫内に設置するという。
撮影:湯田陽子
アサヒ飲料は5月9日、自動販売機の庫内に大気中のCO2のみ吸収する粉末状の特殊材(CO2吸収材)を搭載した「CO2を食べる自販機」を開発、6月から実証実験を開始すると発表した。
これにより、従来型の自販機に比べ、1台当たりの稼働電力由来(自販機を稼働させるために系統電力を使うことで排出される)のCO2の排出量を最大20%吸収できると見込んでいる。2023年度は関東・関西エリアを中心に屋内外含めさまざまな環境で約30台稼働させ、吸収量やスピードなど検証したうえで、2024年度の本格展開を目指す。
また、吸収したCO2を肥料やコンクリートなどの建材に活用する資源循環モデルの構築に向け、自治体や企業などのパートナー募集も開始。2024年からパートナーとの協業に着手したい考えだ。
左から、自販機に搭載するCO2吸収材、CO2吸収済みの肥料、CO2を吸収・固定化したコンクリート。
撮影:湯田陽子
吸収材は自販機内の空きスペース、具体的には商品取り出し口の裏側の真下にあるスペースに設置する予定だ。
撮影:湯田陽子
コンセプトは「都会の中に森を作る」
「CO2を食べる自販機」は、自販機を稼働させるために使う系統電力由来のCO2を最大20%吸収できる、つまりCO2排出量を最大20%削減できるという。
出典:アサヒ飲料
アサヒ飲料が開発した「CO2を食べる自販機」は、CO2削減技術としていま世界中で開発が進められている「DAC(Direct Air Capture、直接空気回収技術)」の超ミニ版とも言える。
コンセプトは「都会の中に森を作る」。
アサヒ飲料CSV戦略部長の相田幸明氏は、「1台1台(のCO2吸収量)は小さいが、仮に(アサヒ飲料が保有する)26万台すべてに搭載するとなればかなり大きい活動になる」と述べ、
「社会インフラとして位置づけている自販機が(大気中のCO2を吸収することで)木を植えているのと同じようなイメージ(の存在)になれば、社会的な価値が高まってくる」
と、その意義を語った。
日本自動販売システム機械工業会によると、国内の自販機の台数は約268万台(2022年末)。その8割強を飲料系の自販機が占める。
自販機1台あたりのCO2排出量はここ20年弱で約6割減った。ただ、近年は下げ止まりが続いており、さらなるCO2排出削減が飲料メーカー各社共通の課題となっていた。
出典:アサヒ飲料
自販機1台から排出されるCO2は、2005年に年間700キログラムを超えていたが、飲料メーカー各社は省エネタイプの自販機を投入。現在は当時から約60%減の300キログラム程度に低下している。
アサヒ飲料も2008年から、冷却時に発生する熱を回収して加温時に活用する省エネ型のヒートポンプ式自販機を導入。国内に保有する約26万台のうち、2022年時点で約95%を切り替えた。また、2022年6月からは、グリーン電力証書の活用によって使用電力を再生可能エネルギーに変更した「カーボンオフセット自販機」を400台超設置している。
しかし、「急激に省エネが進んだために、ここ数年はあまり(CO2削減量に)変化がない状況で、さらなるCO2排出削減が、飲料メーカー各社共通の課題となっていた」と、アサヒ飲料社長の米女太一氏。そこで、消費電力を抑える省エネやグリーン電力証書といった手法から一歩踏み込み、「大気中のCO2を吸収するという新たな価値を提供する」(米女氏)ことにしたという。
2030年に自販機のCO2排出量ゼロを目指す
吸収材の設置・回収を通常の商品補充と同時に行うことで、新たな輸送時のCO2排出を避けられる。
出典:アサヒ飲料
吸収材は、国内で最もCO2吸収能力の高い素材を採用。現時点では、粉末を何らかの容器に入れて庫内に据え付け、自販機に商品を補充する際に設置し、CO2を吸収済みの粉末を月に2度回収するというオペレーションで実証実験を行う。商品補充のタイミングで設置・回収することで、輸送に伴うCO2排出の増加を避けられる。
吸収したCO2は、肥料やコンクリートなどの建材に活用し固定化。従来品と比べ、肥料で40%、建材で60%程度CO2を削減できるとしている。
CO2を吸収した肥料では従来の商品と比べてCO2排出量を40%削減、コンクリートなどの建材では同60%削減できるという。
出典:アサヒ飲料
加えて、CO2を原料にした肥料では一部の植物で生育促進効果が見られ、CO2吸収材入りコンクリートブロックを使った実験では、藻の着藻率が非常に高く、ブルーカーボン(海洋生物の働きによって海洋環境内に吸収・貯留される炭素)の醸成にも役立つといった、副次的な効果も期待できるという。
CO2の吸収性能については、今後さらに高めていくことも視野に入れている。
「自販機の稼働由来のCO2は現時点では約20%吸収できるスペックだが、2030年をメドに、稼働由来のCO2と吸収するCO2がニュートラル(プラスマイナスゼロ)になるくらいまで高めていければと思っている」(相田氏)
CO2を吸収するという自販機そのものの付加価値もさることながら、それを再利用する循環モデルの構築も大きなカギとなる。
「資源循環のモデルについては本日からパートナーの募集を始め、一緒に共創できる方々を探し、2024年にはスモールでもいいから資源循環を開始し、2025年には本格展開を始めたい」(相田氏)
「CO2を食べる自販機」とそれを使った資源循環モデルに関する展開スケジュール。
提供:アサヒ飲料
なお、CO2を食べる自販機の製造から輸送、廃棄までを含めたLCA全体のCO2排出削減量については、「後半の工程(吸収したCO2の活用)の用途が確定次第、順次LCAの測定を行う計画」(相田氏)。
CO2資源循環まで含めたスキーム全体が固まっていないためにまだしっかり計測していないものの、吸収したCO2を活用しない場合のCO2排出削減量は「20%よりも低い数値になる」(同)見込みだが、建材、肥料として活用すると「カーボンマイナスになりそうだ」(同)としている。