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- バークレイズは、S&P500が狭い取引幅から抜け出せないでいる中、投資家からの主要な質問について説明した。
- 「相場が上昇または下落に転じるターニングポイントは?」などの質問があった。
- バークレイズによると、短期的に見ると、株価は下落する可能性が高いという。
アメリカの大型株が実質的に蛇行し、連邦準備制度理事会(FRB)が政策の岐路に立たされているように見える中、40兆ドル(約5410兆円)規模の株式市場は次にどうなるのだろうか。バークレイズ(Barclays)は2023年5月9日のメモの中で、S&P500が第1四半期半ば以降、一定の値幅を上下し続ける中、顧客が抱くであろう5つの疑問に言及した。
FRBがインフレ対策として10回連続の利上げを実施したことで、2023年5月1日以降の株価は下落傾向にある。バークレイズの米国株戦略部門の責任者であるヴェヌ・クリシュナ(Venu Krishna)氏は、2023年5月9日に発表した顧客に宛てたメモで、政策当局者は2023年6月の会合での利上げ停止の可能性を示唆したが、必要であればさらに利上げする可能性もあると述べている。
また、クリシュナ氏はS&P500は短期的には一定の変動幅の中で推移する可能性が高いと述べた。
「しかしながら、短期的には、株式のリスクとリターンは非対称であり、アップサイドポテンシャルは限られているが、ダウンサイドリスクは大きいと考えている」
ここでは、投資家が知りたい5つの質問を紹介する。
1) 株式市場を上昇または下落させるターニングポイントは何か?
市場の方向性を左右する可能性のある「不測の事態」は、大きくは次の3つに分類される。1つ目は、何かが「壊れる」、つまりテール・イベント、2つ目は、ネガティブな修正サイクルの底打ち、3つめはFRBの行動指針だ。
あるテール・イベント(稀にしか発生しないが、いったん発生するとその影響が極めて大きい事象)のリスクに関する確率を推定するのは難しいが、市場は過去数回のリスクイベントに「驚くべき冷静さ」で対処してきたとクリシュナ氏は言う。それらのリスクには、結果的には株価が予想よりも早く弱気相場から回復した新型コロナウイルスの流行も含まれている。
「このことから分かるのは、政策当局者が政策を定め対応力を高めれば、(真の流動性危機がない場合)テール・イベントが株価を大きく狂わせ、市場を下落させる可能性は低いということだ」と同氏は述べている。
テール・イベントのリスクはともかく、現在の不況と同様、市場は記録的な速さでこのハードルを解消できると考えているのかもしれない。
「収益成長率が依然としてマイナスであることや、業績が混迷していることを考慮すると、2023年度が底だとするのは時期尚早だと考えている」とクリシュナ氏は言う。
「収益の底打ちは市場を上昇させる合理的な触媒であるが、マクロ環境の悪化を考慮すると、まだ底には到達していないと考えている」
2)FRBはいつ利下げを開始し、株式市場はどう反応するのか
金融市場は、景気後退によってインフレが急速に低下し、金利が低水準で維持される一方で、企業の収益は比較的ダメージを受けないというありそうもないシナリオを想定しているようだ。
「現在のイールドカーブ(FRBが2023年下半期に利下げを開始して2024年に加速する)が正しいとみなされる唯一の結果は、FRBがかなり深刻な不況に対応することだが、これは明らかに株価に良い結果はもたらさない」とクリシュナ氏は述べている。
バークレイズのエコノミストらの基本的な見方は、経済は2023年後半に緩やかな景気後退に入り、インフレの上振れリスクが潜んでいるため、FRBは2023年末まで主要政策金利を据え置くというものだ。
「『2023年の方向転換』のシナリオと比べて、『より高い金利をより長く』というのは、2つの悪のうちの害の少ない方だと見ている」とバークレイズは述べている。このシナリオでは、リスクバランスは緩やかな景気後退とS&P500の目標値3725に向かっていく。直近のS&P500は4136だった。
3)買い手はおそらく我々の予想EPSの200ドルに近いと思われるが、もしそうであればなぜ株式は上昇しているのか。
「買い手は底値をつかむことに過度に熱心で、複数の事業への拡大を推進していると考えている」とクリシュナ氏は述べている。超大型のインターネット株は2023年第1四半期決算を経て値上がりし、いくつかの分野で回復の兆しを見せている企業もある。
「我々はS&P500の2023年の先取り分は再びリセットされると確信しているが、EPS(1株当たり純利益)の修正サイクルの底値に近いセクターに対する需要は他のセクターよりも明らかに高く、偏ったポジショニングによって増幅されている」
PER(株価収益率)は2022年10月の最低水準から回復し、15.5倍からおよそ18.5~20.5倍となり、S&P500企業のEPSの現在のコンセンサス予想は221ドルだ。バークレイズは同社のトップダウン評価の枠組みでは、インフレが後退して経済成長が回復している場合にのみ、その先のEPSは18.5倍になるとしている。
4)株式のボラティリティー(価格変動)がこれほど小さいのはなぜなのか? それはリスクについて何を示しているのか?
1つには収益が低迷していること、2つ目にコンセンサスがマクロデータを推定する上で良い仕事をしていること、そして3つ目の理由は相関関係が低いことだと述べている。
「マクロ経済は依然として根本的な課題を抱えているため、株式のボラティリティーが小さいことを、森を抜け出した決定的なサインとする解釈には注意が必要だ」とクリシュナ氏は話す。
株式市場のいわゆる恐怖指数であるCBOEボラティリティー指数(CBOE Volatility Index)は、2023年5月9日の取引中に17.39となり、2023年の最低値である15をわずかに上回り、長期平均値の20を下回った。
5)現在の状況をどのように扱えばいいのか?
テーマ別の投資はより高いリスクとリターンをもたらすとバークレイズは述べている。それは、小型株よりも大型株、割安な優良株、コアサービスのインフレに敏感な銘柄、中国への価格変動リスクにさらされているアメリカ企業などがある。
「最近のハイテク業界と金融業界の不安定さは、マクロの不確実性と金融引き締めが支配する景気サイクル後期での各セクターのリスクを浮き彫りにしており、特にこの先のEPS(1株あたりの利益)の伸び悩みが評価額の乱高下を引き起こしている」とバークレイズは述べている。