アマゾンは同社の家庭用ロボット「アストロ」のアップグレード版を開発中だという。
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アマゾン(Amazon)は、家庭用ロボット「アストロ」が観察したものをよりよく理解し、よりインテリジェントに反応できるようアップグレード版を開発中だ。Insiderが入手した内部文書から明らかになった。
内部文書によると、これはアマゾン社内で「Burnham(バーナム)」というコードネームの付いた新しいAIロボットの極秘プロジェクトの一環で、アストロに「知能と会話型の音声インターフェース」のレイヤーを追加するというものだ。
「文脈理解(Contextual Understanding)」と呼ばれるこの新技術について、アマゾンは文書の中で「ロボットをよりインテリジェントに、より便利に、そしてより会話しやすくするために設計された、我々の最新にして最先端のAI技術」と説明している。
アマゾンではよく、未来のプレスリリースを書くように開発中の新技術について説明することを社員に求める。Burnhamに関連する内部文書の1つには、995ドルのアストロ製品に関する説明も記載されている。それによると、標準的なホームモニタリング機能を利用する「Burnham Plus」には月額24.99ドル、アマゾンのリング(Ring)ドアベルカメラと組み合わせるには月額34.99ドルの追加料金がそれぞれかかるとしている。
Burnhamは他にも、さまざまな製品をサポートすることができる。文書によれば、この技術は「見たこと、理解したことを記憶」し、それらの相互関係から意味を導き出すという。また、ChatGPTなどにも用いられている大規模言語モデル(LLM)を使って、見たこと、理解したことについて質疑応答形式で対話し、それをもとに適切な行動をとることもできる。
文書には次のような使用例が記載されている。
- ストーブの消し忘れや水道の蛇口の締め忘れを見つけると、Burnhamはオーナーを探して注意を促す。
- お年寄りがキッチンで足を滑らせた場合、Burnhamはその人の状態を確認し、誰かに助けを求める。緊急を要する場合には自動的に911に通報する。
- Burnhamに鍵の置き場所を聞く。
- 昨晩キッチンの窓が開けっ放しになっていなかったか確認できる。
- 子どもが放課後に友達を呼んだかをモニタリングできる。
文書の1つには次のように記されている。
「端的に言うと、我々のロボットには堅牢なボディがある。次に必要なのは頭脳だ。Burnhamを搭載したロボットは、言語モデルが学習したデータにその『常識的な』知識が暗黙のうちに含まれているため、毎日家庭内で起こる何千もの事柄を、人間が理解するのと同じように、それぞれを明示的にコーディングすることなく理解することができる」
この動きは、アストロの次の成長段階を意味している。
アストロにはこれまで多額の投資が行われてきた。アレクサ(Alexa)を搭載した家庭用モニタリングロボットでありながら、アマゾンの高い期待に応えられていなかった。何年もの歳月と何百人もの人的リソースが投じられてきたにもかかわらず評価はパッとせず、社内では冷たい目で見られており、発売から1年半経った今でも招待制のままなので購入することすら困難だ。
Burnhamはまた、マイクロソフト(Microsoft)やグーグル(Google)といった競合他社がAIチャットボット市場で先行するなか、アマゾンが生成AIやLLM技術を既存の製品・サービスに取り込もうという最新の事例でもある。
Insiderの既報の通り、アマゾンはアレクサの音声技術をChatGPTのような機能でアップグレードすることを計画している。一方インフォメーション(The Information)は、アマゾンが広告主向けに写真や動画を自動生成するAIツールの開発を計画していると報じている。
アマゾンのCFOであるブライアン・オルサフスキー(Brian Olsavsky)は4月、同社の中核をなす物流事業からAIやLLM技術へと投資資金をシフトさせつつあると述べている。
アマゾンの広報担当者はInsiderの取材に対し、アストロは「非常に有望なスタートを切った」とメールで回答している。招待リクエストは「依然として好調」であると述べるにとどめ、具体的な数字は示さなかった。
「当社は生成AI技術の可能性に期待を寄せており、これらの技術を活用してアストロの新しい体験を生み出すことで、お客様に喜んでいただき、将来的にお客様の生活をより便利なものにしたいと考えています」(同広報担当者)
「うまくいくと確信」
Burnhamの構想は、LLMの分野の研究論文に触発されてスタートした。アマゾンの内部文書によると、LLMの規模が大きくなるにつれて、「推論と問題解決双方における創発的な能力」を示すようになったという。推論とは、AIモデルが新しいデータから推測を行うことだ。
例えば、アマゾンでは家庭用ロボットにLLMの技術を組み込むことで、照明の消し忘れはないか、ドアが開けっ放しになっていないかといった単純なオンオフや開閉の検知にとどまらず、床に割れたガラスが落ちているのを検知し、危険だから誰かが踏む前に掃除する必要があるといった、より複雑なタスクを実行できるようになった、と文書には記されている。
アマゾンでは、新しい家庭用ロボットの推論と問題解決能力をテストするためにコンセプトデモを実施している。結果は満足のいく内容で、内部文書には次のように書かれている。
「これが我々のロボットにとって何を意味するのかを理解したとき、我々がどれほど興奮したかは想像に難くないだろう。
Burnhamを製品に落とし込むにはまだ長い道のりがあることは承知しているが、うまくいくと確信するに足る学びを得た」
匿名を条件に取材に応じた情報筋によると、アストロ部門も他の部門と同様、過去1年は厳しいコスト圧力に晒されてきたという。2022年には廉価モデルをリリースする計画を中止し、代わりに中小企業向けのセキュリティに新たに注力することを発表している。
Burnhamプロジェクトの今後
Burnhamは、1つの製品に限定されるものではないのかもしれない。内部文書では、Burnhamは「コア技術のセットであり、それ自体が製品ではない」と定義されており、「将来的に一連のロボットに組み込まれる形で登場する」ことになるだろうと書かれている。
このようにアマゾンは、デジタル領域から抜け出し現実の物理環境(この場合は家庭内)にAI技術を持ち込もうとしていることから、BurnhamはLLMの限界を試すことになりそうだ。
内部文書によれば、アマゾンはBurnhamが「家の中は万事正常であるという安心感を家族にもたらす」ホームモニタリングの飛躍的な改良版になると確信しているようで、次のように記されている。
「その親しみやすさや社会性の高さ、そして優れた対話能力により、Burnhamの有用性は際立っており、どの家庭にも家族の一員として迎え入れられるだろう」