こんにちは。パロアルトインサイトCEOの石角友愛です。GAFAMの2023年1~3月期決算が5月上旬出そろいました。
グーグルの親会社アルファベット、メタ(旧フェイスブック)の2社の純利益が、前年同期と比べ減る一方、マイクロソフトは増え、アマゾンは純損益が黒字転換して明暗が分かれたと報道されています。この差には、大規模レイオフなどの戦略の違いやビジネスの領域の違いも挙げられますが、「会社としてどこに注力していくか」が浮き彫りになったという見方もできます。
4月にCEOのサム・アルトマンが来日したことが大きなニュースになったOpenAIですが、今回はOpenAIを取り巻く大手IT企業の位置付けと今後の動向を考察します。
マイクロソフト:圧倒的に有利? 「懸念」もアリ
REUTERS/Dado Ruvic
まず、OpenAIに投資をしているマイクロソフトです。
4月末に発表した決算では、クラウドコンピューティングとオフィス生産性ソフトウェア事業の成長により、四半期の売上高と利益の両面でウォール街の予想を上回りました。
具体的には、AI関連のプロダクトやクラウド事業が売り上げに貢献したことで、前年同期と比べて7%増収し、純利益も約183億ドル(およそ2兆4600億円)と昨年同時期から9%増え、増収増益で着地しました。
OpenAIとの提携で、B2B系のオフィスアプリのAI機能拡充やゲーム領域でのAI活用など、マイクロソフトには今後も多くの機会が期待できそうです。しかし、将来の方針に疑問がないわけではありません。OpenAIが独自に進める事業やビジネスモデルとの競合が懸念点として挙げられているのも事実です。
OpenAIのサム・アルトマンCEO。マイクロソフトの対話型AIを組み込んだBing検索の発表会見で壇上に登場した。マイクロソフトとの距離の近さを感じさせる。
REUTERS/Jeffrey Dastin
例えば、GPTのライセンスを取得して文章作成ツールや検索サービスなどを提供しているAIスタートアップPerplexity AIの創業者兼CEOのアラビンド・スリニバス(Aravind Srinivas)氏の発言は興味深いものでした。
Srinivas氏はThe Informationの取材に対し、現在、マイクロソフトからの助成金で25万ドルのAzureクレジットが得られたため、主に同社のAzure OpenAI Serviceを使っているが、OpenAIのライセンスも別途持っており、どちらかがオフラインになると2つのサービスを切り替えて利用している、と言います。
同記事によると、両社が提供するサービスの価格は同じで、クエリ1件あたり数セントほどだそうです。
一方で、OpenAIの技術はすべて、マイクロソフトのAzureクラウドインフラ上で無償で稼働しています。そのため、今後、同じ顧客をめぐって営業上の住み分けや利益分配モデルなども考えながらサービスを展開しなければならないだろう、という懸念が挙げられます。
グーグル:ChatGPT対抗「Bard」を洗練させられるか
グーグル(Google)のサンダー・ピチャイCEO。
Getty Images/JOSH EDELSON
ChatGPTの根幹技術となるトランスフォーマー(Transformer)を開発し、今後も生成系AI開発に大きな投資をしていくことが期待されるグーグル(アルファベット)は、売り上げが697億ドル、日本円にしておよそ9兆4000億円(前年同期比3%増)で増収を確保したものの、純利益は150億ドル、日本円にしておよそ2兆円と前年同時期から8.4%減り、増収減益となりました。
景気減速への懸念から企業が動画投稿サイト、YouTubeなどへの広告の配信を控える傾向が続き、ネット広告収入が減少したことや、およそ1万2000人の社員の人員削減にともなうコストがかさんだことが背景にあります。
しかし、マイクロソフトと同様にクラウド事業は好調。グーグルはアマゾンと競合するクラウドコンピューティング事業でようやく利益を出すようになり、今後もAI事業との親和性が高いクラウドビジネスを強化していくことが考えられます。
REUTERS/Andrew Kelly
また、ChatGPTの対抗馬として話題の「Bard」についても注目したいところです。
Bardは、グーグルが2021年に開発した言語モデル「LaMDA(Language Model for Dialogue Applicationsの略)」を活用して開発されています。情報をWeb上から収集することで、タイムリーで高品質な情報を回答することを目指し、大規模な言語モデルの力と、世界の知識の広さを組み合わせようとしています。
グーグルのさまざまなアプリケーションにこのBardを組みこむことで、例えば以下のような機能が可能になると、米Forbesは報じています。
- テンプレートやカスタム指示に基づいてメールを生成する
- Docsで文書を書いたり、書き換えたりして、品質を向上させる
- 情報をより早く理解するためのドキュメントサマリーを生成する
- 会議のサマリーの作成、メモの作成、フィードバックの提供を行う
- マルウェアやフィッシング攻撃に対する防御、悪意のあるメールの特定とブロック、詐欺の可能性に関する警告の提供を行う
グーグルとマイクロソフトは、インターネット上のエンタープライズ市場でも競争を繰り広げており、ChatGPTやBardのような生成系AI技術を活用したサービスを展開しています。
これらの企業は、オフィス関連のアプリケーションで既に市場を獲得しており、そこにAI技術を組み込むことで、さらなる市場シェアを獲得できると考えられています。
アマゾン:新サービス「Bedrock」登場、クラウドへの一層の投資も
アマゾンのアンディ・ジャシーCEO。
DFree / Shutterstock
同時に、アマゾンは、生成系AIに関して「Amazon Bedrock」という新サービスを発表。今後の動向に注目が集まります。
Amazon Bedrockを利用することで、開発者はAI21 Labs、Anthropic、Stability AIといったサードパーティのスタートアップからの事前学習済みモデルを使用してAI搭載アプリケーションを構築できるようになるとのことです。
米TechCrunchによると、アマゾンは、すべてのアプリケーションを生成系AIに適したものにすることを目指しており、エンタープライズ規模のAIアプリ構築を目的とする大型の顧客を対象として同サービスを発表しました。
アマゾンの場合、これまで培ったリテール(小売り)業界での強みがあり、その分野でもAI技術活用が期待されています。例えば、既存のAIコンビニ「Amazon Go」や、手のひら認証決済「Amazon One」といったサービスを音声認識AIと組み合わせることで利便性が増し、さらなる顧客体験の向上なども長期的には期待できるでしょう。
もっとも、最高財務責任者のブライアン・オルサフスキー氏は先日の決算説明会で、ChatGPTのようなアプリケーションをサポートするために必要なインフラに投資するため、小売り事業からAWSに支出をシフトする予定だと投資家に語っていたため、短期的にはリテールビジネスにおけるAI活用より、クラウドビジネスの強化をすると考えられます。
アップル:ほぼ沈黙を守っている
アップルのティム・クックCEO。2023年、北京にて。
REUTERS /cnsphoto
アップルについては、iPhoneやiMacといったハードウェアにおいて他社と比べて非常に強い存在感を持っていることから、独自のAI技術を組み込んだプロダクトに期待が寄せられています。
将来的には、Appleシリコンが進化し、デバイス上でGPTのようなニューラルネットワークを実行できるようになる可能性も考えられます。CEOであるティム・クック氏は「AIは大きな領域だが、慎重にならないといけない」と発言しており、現時点では生成系AIに関する大きな動きは発表されていません。
※編注:アップルは2022年末にAppleシリコン上で画像生成AI「Stable Diffusion」を動かすコードを発表している
しかし、かつて音声AIの先行モデルであったSiriをIPhoneに搭載しユーザー体験を向上させていった経緯から、アップルが生成系AIに関して何もしないことは想像できません。
実際に、現在同社のAI事業の責任者であるジョン・ジアナンドレア氏は、かつてグーグルのチーフAIサイエンティストを務め、AI技術の監修を担っていた人物です。ジアナンドレア氏がアップル入社後にSiriをはじめとする同社のAI関連サービス全般の開発をリードしてきたことからも今後何かをリリースするのではないかと思われます。
メタ:「メタバース」より「AI」を頻繁に発するザッカーバーグ氏
メタのマーク・ザッカーバーグCEO。
Facebook/Meta
また、メタバースで期待されていたメタに目を向けてみると、CEOのマークザッカーバーグ氏は、決算発表では「メタバース」という単語よりも「AI」という単語を頻繁に発していました。 従来のメタバース中心の戦略から生成系AIにギアチェンジをしたのではないかと推測され、投資家の期待値が高まっています。
編注:Meta AIの公式Twitterアカウントでの情報発信は活発に進めている
レイオフの一方でAI開発のインフラやチップ投資は惜しまず
REUTERS/Florence Lo/Illustration
メタ、グーグル(アルファベット)、マイクロソフトといったハイテク企業は、景気後退への懸念などから、ここ数カ月間支出に慎重になり、それぞれ大規模なレイオフを実行に移しています。
一方で3社いずれも、より多くのAIツールを構築し収益化する基盤を作るために、サーバーやその他の技術インフラへの支出を増やしているという共通点もあります。
また、アマゾン、マイクロソフト、グーグルは一斉に数十億ドルを費やして、サーバーやAIを動かすマイクロチップを開発・製造していることも報道されています。各社のAIやクラウドのライバルが増える中、チップを内製化して開発することで、コスト削減とビジネス顧客の獲得に向けた取り組みを強化しているのです。
この3社は、データセンター用に2種類のチップを開発しており、標準的なコンピューティングチップと、ChatGPTのようなチャットボットを動かす大規模言語モデルをトレーニングして実行するための専用チップとのこと。
AMDやインテル、NVIDIAのように成功するかはまだ未知数ですが、内製化することで獲得できるであろうコスト競争力や規模の経済の効果は無視できません。
このことから、人員を削減しつつも、AI開発やクラウド事業に必要な設備投資に積極的な姿勢が見られ、今後AI関連サービスが拡大されることは間違いありません。
生成系AIをめぐる巨大IT企業の競争の構図は、単純に生成系AIモデルをどこが多く作れるかだけではありません。
指数関数的に増えるユーザーを支え、さまざまなマルチモーダル化(テキストのほか、画像や動画など複数の要素で学習させること)を実現させる。そして、サービス内容を拡張するための、「クラウドインフラ」と「その根幹にあるチップ開発」という、2つのハード的要素をより早く内製化できる会社が、最終的に勝つのではないでしょうか。