職場のメンバーが「創造性」を発揮するためには、リーダーに何が求められるのだろうか?
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この4月から組織のリーダーとして活躍しはじめた管理職たちは、そろそろメンバーの特徴が見えてきた頃ではないだろうか。
3月のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)では侍ジャパンの躍進とともに、栗山監督がメンバーを信頼し続け、お互いの良さを引き出したリーダーシップに注目が集まったことも、まだ記憶に新しい。
いったいどうすればチームメンバー1人1人が創造性を発揮できるようなチームづくりができるのだろうか。ここでは、メンバーの創造性を引き出し合う場を作るためのリーダーの役割を考えてみたい。
企業の課題は「イノベーション」
「イノベーション」に課題を感じている管理職は多い。
出典:リクルートマネジメントソリューションズ「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2022年」
よそ者、若者、バカ者。この3者はイノベーションを起こす時に必要な人材だと言われてきた。
「よそ者」は既存の組織で当然だと思われていたことに素直な違和感を持てる。「若者」はエネルギーをもって未来に向かって推進できる。そして「バカ者」は常識に捕らわれない発想や行動力で物事を変えていく。
不確実で先の見えない社会においては、これら「素直な違和感」「未来の推進」「常識にとらわれない発想」の3点セットが必要だ。ところが、この3点セットを発揮できる環境にある組織はそれほど多くない。
というのも、旧来型のヒエラルキーのある組織では、命令は上から降りてくるものであって、メンバーからの「素直な違和感」や「未来を見据えた発言」「常識にとらわれない発想」には、耳を傾けてこなかったからだ。
とはいえ、企業にとってイノベーションを起こす人材を育成することは、死活問題になっている。実際、企業の人事担当者と管理職層に対し、「企業の組織課題」について尋ねたリクルートマネジメントソリューションズの調査よると、人事担当者では「新たな価値の創造・イノベーションが起こせていない」との回答が1位、管理職層では3位にランクインしている(注1)。
「メンバーの主観」をどう育てるか?
今村拓馬
いきなり「イノベーションを起こせ」と言われても難しいが、イノベーションに求められる「率直な違和感」や「常識にとらわれない発想」などの要素は、すべてメンバーの「主観」から生まれる。
つまりリーダーには多様なメンバーの「主観」をいかに育て、引き出し、組織の価値に変えていくか、そのための場づくりが求められている。
とはいえ、誰しも最初から自分の主観を持っているわけではない。
最初のうちは、自分の考えがまだ確立しておらず、他者や世の中のルールなどに適応することが優先されるため、「個人の主観」は出てこない。この段階では個人の主観や考えは固まっていないため、一般的な「べき論」を基準にした発言をしたり、上司や声の大きい人になびいたりする可能性が高い。
この状況からどのようにして「自分の考え・主観を持つ」に進ませたらよいのだろうか。リクルートワークス研究所では、「創造性を引き出す職場の研究」の中で、この手前のプロセスを使うことを提案している。
ここでの創造性とは、誰もが発揮しうる「身近」で「日常的」な個人の「素直な違和感」を指す。
以下の図にあるように、創造性発揮のモデルとは、問題に気づき自分事化する「レディネス」を通じて、萌芽的なアイデアを思いつき、思いついたアイデアを違った角度から育てることで提案へと変わる。
アイデアを思いつくためには、まず「問題に気づき、自分事化する」必要がある。
出典:リクルートワークス研究所『創造性を引き出す職場の研究』
つまり最初は個人の「気づき」でしかないが、それを職場で磨きあうことで、提案としての価値につながる主観を持つことができるようになるモデルだ。
創造性には「準備体操」が必要
そもそも諸外国と比較すると日本は「創造性」を大事に考えるスコアは低い。
特許、知的財産、人材、技術移転、研究開発、製品市場、ビジネス環境などを基に算出されるWorld Intellectual Property Organization(WIPO)のGlobal Innovation Indexの総合順位を見ると、日本は総合順位で16位。上位はヨーロッパの各国が占めている。
日本においてはオリジナリティを発揮すること、素直な違和感を口にすることは、学校教育において禁じられることが多かったのではないだろうか。私たち日本人は、学校でも社会に出てからも個人の創造性に蓋(ふた)をすることで環境に適応してきたとも言える。
ただし、そのような状況の中で、いきなり創造性は発揮されない。創造性の発揮には「準備体操」が必要なのだ。
ここまでして「主観」を育てる企業もある
民間企業では「創造性」を高めるために具体的な行動を起こしているケースもある(写真はイメージです)。
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カリフォルニア州に本社を置くコンサル企業・IDEOでは、個人の主観を引き出すための「ウチソトの準備体操」が充実している。
「ウチの準備体操」の具体例としては、メンターやチームのミーティングを通じたアイデア出しの場がある。
すぐには事業につながらないアイデアの種を少しずつ仲間と一緒に育てる取り組みで、個人の小さいアイデアをメンターが引き出しながら少しずつ形にしていく。
定期的なランチミーティングの場でアイデアを共有し、他部署の仲間から意見をもらう時間を設け、ある程度企画が固まってきたところで事業化に向けた具体的なフィードバックを行う。
「ソトの準備体操」では、職場仲間と共通の体験をする。オフィスのスペースを「アートギャラリー」に変え、社員がアーティストとして出展したり、観客にもなったりと体験を共有する。
これらはいずれも「エクスペリエンス・スペシャリスト」という体験を専門的に設計する役割を持った社員が存在し、個人の主観を育て引き出す場を作っているのだ。
個人の主観を育てるために、ここまで体系化された仕組みを持つ企業はそれほど多くないだろう。
創造性に蓋(ふた)をしてきた我々日本人が、主観を口にしながら仲間と一緒に磨き上げ、事業として価値あるものするためには、ここまで徹底した仕組みがなければ実現しないとも言えるかもしれない。
未熟な主観をどう受け入れるか
「創造性の芽」を潰してしまう要因は身近にある。
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あらためて今の職場に求められるリーダーの素質とは何か考えてみたい。
30歳未満の若者から積極的に学ぼうとしている大人は2割という、リクルートマネジメントソリューションズの調査結果がある。
女性よりも男性の方が、30代よりも50代の方が、「若者から学んでいる」スコアは低く、「若者に教えている」スコアは高くなる。
年齢を重ねるほど、若い世代から学ばなくなると言われれば、ある意味では当然の結果なような気もする。
だが、こうした傾向こそが、「創造性の芽」を摘み取ってしまっているのではないか?
この数字を見る限り、職場の先輩が若手の未熟な主観を受け入れることは難しいのかもしれない。
ただしこれまで検討してきたように、自分の考えに固執することなく「よそ者」「若者」「バカ者」の意見に耳を傾けることこそが、創造性を発揮できる職場につながる。
職場のリーダーが自分のやり方を手放すこと。それこそが「素直な違和感」を職場に増やすための近道なのかもしれない。