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2023年の春闘では、満額回答も続出し、異例の賃上げを実施する企業が相次いだ。連合が発表した「2023春季生活闘争 第5回回答集計結果」でも、正社員の平均賃上げ率3.67%と、1994年以来初の3%台を更新した。
そんな約30年ぶりの賃上げは、2023年度の新卒社員の初任給にも影響している。
労務行政研究所は、5月9日に「2023年度 新入社員の初任給調査」を発表した。過去10年で最大の賃上げとなった賃上げの実態を見ていこう。
調査概要
調査・集計対象:東証プライム上場企業1784社のうち、回答のあった157社。
調査項目:2023年度に賃金が見直しされた2023年4月入社者の学歴別決定初任給。時間外手当と通勤手当を除き、諸手当は含んでいる。
調査時期・方法 :3月下旬に調査票を発送、併せて電話による取材。4月11日までに回答のあった分を集計。
東証プライム企業70.7%が前年度3割増で「初任給引き上げ」へ
今回の調査では、回答があった157社中、初任給「全学歴引き上げた」と回答した企業が、前年度比28.9ポイント増の70.7%と、過去10年で最大となった。
過去にさかのぼり「初任給の全学歴引き上げ」の割合の推移を見てみると、2015年以降はおおむね30%〜40%で推移してきた。この数字に比べると、2023年度の「70%超え」がいかに大きな数字かがわかる(2021年度はコロナによる業績悪化の影響を受けており大幅に減少している)。
産業別にみると、製造業における初任給の引き上げが顕著で、8割を超えていた。
一方、非製造業で「全学歴引き上げ」と回答したのは 56.2%。非製造業では、全学歴「据え置き」と回答があった企業も41.1%(製造業:13.1%)だった。
撮影:今村拓馬
また、大企業の大胆な初任給引き上げも注目されている。
例えば、サイバーエージェントは34万円から約24%引き上げの42万円(年俸制、残業代込み)、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は、23万円から約28%引き上げの29万5500円、ファーストリテイリングは、25万5000円から約18%引き上げの30万円と、破格の賃金アップが目立つ。
ただ、今回の調査で分かった学歴別の初任給の引き上げ幅は、高校卒、短大卒、大学卒、大学院修士卒で、平均3.1〜3.7%アップにとどまる。金額にすると、6500円〜7500円ほどだ。2万円以上の給与アップを提示している企業は、大学卒で9.3%程度であることから、上記のように大幅アップしている企業は限定的だ。
なお、学歴別の引き上げ幅の分布を見ると、高卒・短大卒で5000円台(高卒:23.9%、短大卒:19.4%)、大卒・院卒で1万円台(大卒:18.6%、院卒:15.7%)の賃金アップが最も多かった。
春闘だけが理由ではない。約半数が人手不足に悩む新年度
撮影:今村拓馬
労務行政研究所は、「賃上げの流れは、急激な物価上昇や、若年労働力人口の減少に伴う新卒採用競争の激化などを背景に進んでいる、初任給の決定をめぐる状況は大きな転換点にある」としている。
実際、日本経済新聞が3月に発表した調査(上場企業および日本経済新聞社が選んだ有力な非上場企業で合計5097社が対象。回答企業数は1987社)では、初任給引き上げの理由として、「人材確保」を挙げる企業が68.3%で最も多く、「在籍者のベアを実施した」(48.2%)や「インフレ対応」(27.6%)がそれに続いていた。
撮影:今村拓馬
帝国データバンクも、アフターコロナ以降の需要の急回復で加速する人で不足について調査をまとめている。
全業種1万1108社向けに2023年4月の従業員の過不足状況を尋ねたところ、正社員が「不足」と感じている企業が、同月過去最高の 51.4%に上っていた。
業種別に見ると、インバウンドや観光需要の回復で盛り上がる観光業の「旅館・ホテル」が75.5%がトップに。ただ、「情報サービス」(同74.2%)や「メンテナンス・警備・検査」(同67.6%)、「建設」(同65.3%)など、観光以外の業種でも広く人手不足に陥っている様子が見て取れた。