ヘリオンエナジーの核融合エネルギー反応実験用プロトタイプ「Polaris」の一部。
Helion Energy/Handout via REUTERS
アメリカの核融合スタートアップHelion Energy(ヘリオン・エナジー、以下ヘリオン)は5月10日、2028年までに稼働開始を目指している同社初の核融合発電所で発電した電力をマイクロソフトに供給する契約を締結したと発表した。この契約は「世界初の核融合発電によるエネルギー購入契約」だという。
核融合とは、2つの原子の原子核を融合させてより「重い」原子核を作る反応のこと。核融合は太陽が光り輝き続ける原動力にもなっていることから、核融合炉は「地上に人工の太陽を再現する技術」と言われることもある。
近年注目の核融合。創業10年のヘリオンとは何者か?
Helionが開発している核融合炉で使われている電磁コイル。
出典:Helion Energy
核融合炉による発電は、ここ数年で次世代エネルギーとして世界的に注目されてきた。国家レベルで研究が加速していることはもちろん、米核融合産業協会(FIA)と英国原子力公社(UKAEA)がまとめた共同レポートによると、すでに民間投資も47億ドル(約6300億円)を超えているという。日本でも国家戦略が策定されたばかりだ。
ヘリオンは、2013年に設立した核融合スタートアップ。これまでに、約5億8000万ドルの資金を調達し、プロトタイプを6基製造してきた。同社のプレスリリースによると、現在7番目のプロトタイプを建設しており、2024年にも発電能力を実証。2028年までに、50MW(メガワット)以上の発電能力をもつ核融合発電所の稼働を計画している。
マイクロソフトとの契約では、この同社初となる核融合発電所で発電された電力を供給する予定だ。
核融合の商業化は本当にできるのか?
撮影:三ツ村崇志
ヘリオンのCEOを務めるDavid Kirtley氏がプレスリリースで
「この提携は、Helionと核融合業界全体にとって重要なマイルストーンです」
と語るように、この契約が本当に実現されれば、2050年とも言われていた核融合発電の実現までの時計の針を大幅に短縮することになる。
ただ、気になるのは「本当に実現できるのか」という点だ。現時点で核融合発電が実証可能であることを証明した企業が存在しないことなどを考えると、「2028年までに商業化を実現する」という目標は、いささか強引な感は否めない。
実際プレスリリースでは、
「まだやるべきことはたくさんありますが、世界初の核融合発電施設を提供する能力に自信を持っています」(David Kirtley氏)
とコメントを寄せていることからも、今回の発表を受けて「2028年に確実に核融合発電が実現できる」と楽観的に考えるにはまだ早いといえるだろう。
「電磁誘導の法則」で発電する
南フランスのサン・ポール・レ・デュランスで建設中のITER(撮影:2022年4月)
出典:ITER機構
核融合炉といえば、日本では特に磁力(正確には磁場)を利用してプラズマ化した水素原子(重水素と三重水素)を閉じ込め、ぐるぐると回転させながら「連続的」に衝突(核融合反応)を起こす方式がよく知られている。フランスで建設が進んでいる実験炉である国際プロジェクトのITERが採用している手法もこれだ。
この手法を使った核融合発電所では、最終的には従来の発電機と同じようにボイラーを回す仕組みを想定していることが多い。ただ、核融合反応を連続的に起こす(プラズマを長時間維持する)技術はもちろん、核融合反応を起点に熱を取り出す技術など、まだ課題が山積している。
核融合の手法としては、他にも2022年12月にアメリカエネルギー省(DOE)から「歴史的成果」として発表された、レーザーを用いて核融合反応を発生させる手法も比較的よく知られている。ただ、ヘリオン・エナジーが採用する手法・発電原理は、そのどちらとも異なるものだ。
Helion Energyの発電原理。
HelionのYouTubeチャンネル
まず原料には、重水素とヘリウムの同位体である希少なヘリウム-3を使用。原料をそれぞれプラズマ化したあと、装置の両端に設置した二つの加速器で時速100万マイル(時速約160万キロメートル)にまで加速し、装置中央で衝突させることで核融合反応を「非連続的」に発生させる。
ヘリオン・エナジーのウェブページにある説明によると、核融合反応によって生じたエネルギーの影響でプラズマが膨張し、装置内の磁場が変化。この時、中学理科でも登場する「ファラデーの電磁誘導の法則」(磁石をコイルに近づけたり離したりする際に電流が生じる現象)によって電流(誘導電流)が発生する。この電流を取り出すことで、電力として利用しようというわけだ。
ヘリオン・エナジーによると、この方式は炉の小型化が可能で低コストで済む点がメリットだという。
ただ、商業電源として利用する上で重要といえる核融合を発生させる頻度(電力の継続供給に関係する)には課題が残る。同社6番目の試作機であるTrentaでは10分に1度の頻度で核融合反応のパルスを発生させることに成功。現在建設中の7番目の試作機Polarisでは、より高頻度で核融合反応を発生させることを目指すとしている。