テックスターズ・ロンドンのマネージングディレクター、サリーム・チョードリー。
Techstars
ヨーロッパのスタートアップのエコシステムは、2023年、厳しいスタートを切った。
2年前にはかなりの額に及んでいたベンチャーキャピタル(VC)のスタートアップへの投資額が一転して激減し、年初からの5カ月はレイオフが相次いだ。
アメリカの著名アクセラレーターであるテックスターズ(Techstars)によると、この不況のなか厳しい投資環境を乗り切ろうと、アクセラレーター・プログラムへの応募が増えているという。
テックスターズは2006年に設立され、ウーバー(Uber)、チェイナリシス(Chainalysis)、クラスパス(ClassPass)といった企業へ早い段階から投資したことでその名が知られるようになった。コロラド州ボルダーに拠点を置く同社は、世界中でアクセラレーター・プログラムを展開しているが、そのプログラムに参加できる企業はほんの一握りだ。
「テックスターズが常に求めているのは、解決しようとしている問題を実際に体験している人たちです」と語るのは、同社のイギリスにおけるマネージングディレクターであるサーリム・チョードリー(Saalim Chowdhury)だ。
「私たちが面接でいつも尋ねるのは、『どのように今のビジネスにたどり着いたのか』ということ。どうやって、それが自分たちのやりたいことだと決めるに至ったのかということです」
テックスターズのロンドンのプログラムに送られてくる約1400件の応募書類にはチョードリーも目を通している。このプログラムでは、メンター制度、株式の6%と引き換えに最大12万ドル(約1600万円、1ドル=136円換算)の現金、AWS(Amazon Web Service)やストライプ(Stripe)へのアクセス権など100万ドル(約1億3600万円)相当の特典のほか、有名企業や著名人へのネットワークへのアクセスなどが提供される。
Insiderはチョードリーに、数々のユニコーンを輩出してきたこのプログラムに参加しようと必死になっている応募企業や創業者へのアドバイスを聞いた。
鍵は強力でバランスのとれたチーム
10〜20分程度の短時間で応募書類に記入するようなファウンダーは「このプログラムに最適かもしれない」とチョードリーは言う。また、締め切り日よりも早く応募してくるファウンダーほど、関心の強さ、意識の高さが伝わってくるという。
同社の審査チームは、応募者を評価する際、スタートアップのチームがどれだけ「結束」しているか、プロダクトや意思決定にまつわる議論をうまく乗り切ることができるチームかを見極めたいと考えている。
また、ファウンダーはWeb3やブロックチェーン、AIなどニュースでよく取り上げられる現在進行形のテクノロジーに自社の事業がどう関係してくるかを理解することも重要だと、チョードリーは言う。
これは、単に「ChatGPTを使って○○をした」というだけではない。
「それが世の中でどのような位置づけにあるのか、自社にどんな競争優位性をもたらすのか、ということを認識することです。いま私たちが審査している応募書類の中で優秀だなと思うのは、今のAIのトレンドに乗らず、AIが実際には苦手とするような分野に挑戦しているスタートアップです」
不況下での資金調達はエグジット戦略が鍵
不況下での資金調達に関するチョードリーのアドバイスは、多くのVCが新進気鋭のファウンダーらに授けるアドバイスと何ら変わりはない。つまり「財務状況を把握し、その仕組みを理解すること」だ。
また、ファウンダーは確実に需要のある確かなビジネスだということを示す必要がある、とチョードリーは言う。「資金をどう使い、どのように展開するのか、そしてその資金で何を作るのかを説明する必要がある」ということだ。
なぜ市場がこのプロダクトを必要としているのか、審査チームにアピールすることも重要だ。収益性がよりいっそう注目されるなか、ファウンダーは「KPIや財務モデルを深く理解し、会社経営の仕方を理解していることを示すこと」も必要だという。
このところのエグジット市場の動きは鈍いものの、チョードリーがファウンダーを見極める際に重視しているのは、付加価値があってスケーラブルな、真に優れたビジネスを立ち上げられて、資金を調達でき、「何より重要なのは、エグジットできる」ことだという。
「エグジットできるかどうかは気にしますね。投資家は、虚栄の指標を手にすることよりも、資金回収を重視していますから」
明らかな赤信号は回避
応募書類の中で質問にきちんと答えていないファウンダーは、チャンスを逃す可能性が高いとチョードリーは言う。
「テックスターズでは特にピッチデックやデモを求めてはいませんが、こうしたものがあれば、プロダクトや事業内容を理解するうえで大いに役立ちます」
LinkedInのプロフィールがない応募者も、少し問題があるという。「もちろん応募書類には目を通しますが、なぜプロフィールがないのか疑問が残ります。もし採用されたら、公開市場で資金調達しなければならない可能性が高いわけですから」と彼は言う。
最後に、スペルミスは赤信号だ。時間をとってスペルチェックをすれば、それだけファウンダーが応募書類に細心の注意を払っていると審査チームに伝わるものだ。
「パワーポイントの資料で資金調達し、高いバリュエーションと大きなエネルギーを手に入れられた時代はもう終わったんです」(チョードリー)