メタはアップルのプライバシーポリシー強化によって大打撃を受けた際、広告ビジネスをより強固なものにするためにAI投資を強化していた。
Arnd Wiegmann/Reuters
2021年にアップルが「App Tracking Transparency(ATT)」を導入し、ウェブサイトやアプリでユーザーの行動をトラッキングする場合にユーザーに許可を求めるよう義務付けた際、メタ(Meta、旧フェイスブック)は同社の広告ビジネスが100億ドル(約1兆3500億円、1ドル=135円換算)の打撃を受けるだろうと述べた。
実際、ほとんどのユーザーはトラッキングを拒否したため、メタの広告主は広告ターゲットを絞り込み、効果を測定することが難しくなった。
広告ビジネスの利益の源泉となっていたユーザー指標を失うと知ったメタは、AI(人工知能)に多額の投資を行った。こうしてリリースされたAIツール「Advantage+」は、広告主がターゲットを見つけることを支援し、広告を配置する場所を自動的に選択することで、広告キャンペーンのパフォーマンスを最適化するものだ。
パフォーマンスを回復させたAdvantage+
メタは5月11日、生成AIを採用した新しい機能を発表。同社マネタイズ担当バイスプレジデント、ジョン・ヘゲマン(John Hegeman)は、Advantage+はアップルのATT機能や他のプライバシーポリシーに対応したものではないと語った。
だが、広告代理店WPromote社のペイドメディア担当シニア・バイスプレジデント、デビッド・ドゥエック(David Dweck)氏は、Advantage+は広告主をつなぎ留めることに役立っていると話す。
広告代理店Tinuitiのペイドソーシャル担当バイスプレジデント、アヴィ・ベン・ズヴィ(Avi Ben-Zvi)も、広告費1ドルあたりの売上といった重要な指標を測定できるため、広告主のメタに対する信頼が回復したと語る。同氏は広告主の顧客獲得コストも改善されたと続け、広告主は他のソーシャル・プラットフォームやディスプレイ広告に割く予算を削減し、メタへの支出を増やすだろうと予想した。
「Advantage+は、基本的には負担を軽減してくれていて、広く効率性の向上を後押ししています」
米投資銀行モルガン・スタンレーの文書によると、こうしたAIへの投資によって、メタはグーグルやアマゾンよりも、継続的な広告費下落をうまく乗り切れる有利なポジションにもあるという。
「MetaのAIにおけるアドバンテージは、トレーニングデータにおけるアドバンテージだ」と、Chalice Custom AlgorithmsのCEO、アダム・ハイムリック(Adam Heimlich)は語る。
「自社のウェブサイトやアプリにメタのタグを設置している広告主はすべて、データを提供することでメタのアドバンテージに貢献している。わずかなデータを送るだけで、大企業と同様の予測力を手にすることができる、新興ブランドにとっては素晴らしい取引だ」
AI投資を強化するメタ
メタは、AI関連の攻勢をさらに強めている。
5月11日には、Advantage+の新機能を発表。ニュースフィード、ストーリーズ、リールの中から、広告主にとって最適と思われる場所に動画広告を配信できるようになるという。また、広告主がこれまで考慮しなかったオーディエンスを発見できるようになる。スポーツブランドに対して、女性をターゲットにした広告を出していないことで新規顧客を逃していると示唆するようになるかもしれない。
メタは近日中に、広告キャンペーンにAdvantage+を使った場合と、手動で設定した場合のパフォーマンスを比較するレポートも提供する予定だ。
また生成AIを採用した新しいツール「AIサンドボックス」を発表。画像やテキストのさまざまなバリエーションを作成し、テストできるようになると述べた。
広告主にはデメリットも
だが、AIへの移行は、一部のマーケターにとってトレードオフとなっている。
例えば、過去1年間でキャンペーンのパフォーマンスを向上させたとはいえ、アップルがATTを展開する前に比べて、広告のパフォーマンスはまだ10〜15%低いとWPromoteのドウェック氏は述べた。
また広告主たちは、Advantage+はブラックボックスであり、どのように機能するかが分からないと考えている。Advantage+が広告キャンペーンに使用するクリエイティブやテキストをコントロールすることはできず、キャンペーンのインサイトを得ることはできず、今後のキャンペーンのパフォーマンス改善に活用することもできない。
広告主たちは、自分たちのデータが競合のキャンペーンのパフォーマンスを向上させる可能性があることを懸念しているとChaliceのハイムリックCEOは述べる。
「メタが回復できたことは、彼らのコアアドバンテージを考えれば、納得できる」とハイムリックCEOは続けた。
「何千もの大手広告主がいつの間にかAIに対面し、購入に関する何十億ものきわめて貴重なデータを無意識に提供していることがメタのアドバンテージの源泉となっている」