「独身お断り」35歳記者が直面した保護猫を飼うまでの厳しいハードル

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私が迎え入れた保護猫のクロエ。1歳のメス。

撮影:杉本健太郎

「ペットといえば?」そう聞いて多くの人は犬や猫を思い浮かべるのではないだろうか。

一般社団法人ペットフード協会が2022年に発表した「2022年(令和4年)全国犬猫飼育実態調査」によると、猫は883万7000頭、犬は705万3000頭が飼育されている。SNSで見かけることも多い猫画像だが、どうやら実際に飼われている数も猫に軍配が上がるようだ。

猫を飼ってみたいと夢想したことがある人は多いのではないだろうか。私もその一人。野良猫を見つけると嬉しくなってじっと見つめる日々を送っていた。

そんな私が猫を飼おうと決意したのはコロナ禍の日々。外出を制限され人と会うことが難しくなり、一人部屋に閉じこもる日々は私を落ち込ませ、「小さな友人」との触れ合いを渇望するようになった。

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左耳の切り込みは不妊手術済みであるという印。譲渡の際に手術にかかった費用を払う必要がある。

撮影:杉本健太郎

私はいま、保護団体から1歳の黒猫を引き取って飼っている。名前をクロエといい、この子との日常は私に安らぎと刺激、そしてときどき小さな破壊をもたらしてくれている。

クロエとの日常については後述するが、先に保護猫たちが置かれている状況について説明したい。

ペットショップという選択肢はなかった

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ペットショップでは猫たちが数十万円単位で売られている。

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私達が「小さな友人」と出会うためにはどうすればいいのだろうか? ペットショップに行く?

だが、それは金銭的な面でも倫理的な面でもあまりオススメできない。一頭数十万円という価格設定が妥当なものか否かはあなたの年収によっても変わってくるだろうが、私にはその余裕はなかった。

倫理面においては、アメリカではカリフォルニア州、ワシントン州、イリノイ州などで、ペットショップでの犬・猫の販売を禁止する法律が制定されている。フランスでも動物愛護に関する法改正案の可決により、犬と猫はペットショップでの販売を2024年から禁止される予定だ。

悪質なブリーダーを排除しようという動きが国際的にも出ているのだ。

猫は余っている

私が向かったのは保護団体だ。ペットショップでキレイな毛並みの動物たちが並べられている一方、捨てられたり、多頭飼育崩壊で保護された猫たちも数多くいる。

保護団体に保護された猫たちはまだ幸運だ。環境省の「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」(2021年4月1日~2022年3月31日)によると、公的機関が引き取った猫の数は3万4805頭、殺処分された数は7407頭に上る。そう、猫は余っている。

保護団体は殺処分される前に動物たちを新たな飼い主に譲渡するために奮闘している。

「ご家族はどこに住んでいますか?」

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私が仕事をしている時は、だいたいこんな顔でじっと見つめている。

撮影:杉本健太郎

私が住む街の駅前では毎週土日に譲渡会を開いている。私は足繁く譲渡会に通い、運命の出会いを待った。そして、その日が来た。

光沢のある黒々とした毛並みとクリクリした黄色い目に私の目は吸い寄せられた。

「あの、この子をトライアル飼育したいんですが」。私は団体の女性に声をかけた。女性は私を見て「ああ、じゃあこちらでお話しましょう」と案内した。

「お兄さんはご結婚されていますか?」

「いえ、独身です」

「ああ......、じゃあ同居者は?」

「一人暮らしです」

「うーん、近くに家族はいらっしゃいますか?」

「両親は愛媛にいます」

「あー、それだと難しいですねえ」

「猫を飼っている友人ならいますが駄目ですか?」

「いえ、ご家族でないと駄目なんです。あなたに何かあった時に猫の面倒を見てくれる人が近くにいないと......」

なんということだろうか。いきなり出鼻をくじかれてしまった。

団体にもよるが保護猫を引き取るためには厳しい条件がある。一部を紹介しよう。

  • 独身はNG
  • 一人暮らしはNG
  • 18歳以下、60歳以上はNG
  • 6歳以下の子どもがいる場合はNG
  • 安定した収入と猫を養うだけの経済力があること
  • 緊急時の後見人がいること

などなどだ。

猫の譲渡条件は不動産契約の審査に似ている

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キャットタワーでくつろぐクロエ。猫は高いところが好きというのは本当で、とにかく登れるところは何でも登ろうとする。

撮影:杉本健太郎

ほかにも「妊婦がいる場合NG」「妊娠する可能性のある若いカップルはNG」というものもある。赤ちゃんが猫アレルギーになる可能性があるからだ。

60歳以上の高齢者が不可なのは孤独死を警戒しているためだ。保護団体の人に話を聞くと、実際に高齢者がペットを残して孤独死し、遺体とともにペットが残されているような事例があるという。

また、どの団体にも共通するのが「経済力があること」だ。ペットの飼育にはお金がかかる。特に病気などをした場合、高額な治療費がかかるので、ペット保険に加入することを義務付ける団体もある。勤め先や年収を聞かれる場合もある。

感覚としては不動産契約のときの審査に似ている。私はフリーランスで働いていたこともあり、新しい物件を契約する時に勤め先がないこと、年収が安定しないことで嫌な思いをしたことがあった。

仕方なくその日は家に帰ることに。後日、他の団体も訪れてみたが、どこも似たような対応だった。「独身」「一人暮らし」と言った時点で門前払いなのだ。

とある団体では「じゃあ、ペットショップで猫を買う以外に一人暮らしの人はどうすればいいんですか?」と問うと、「そのへんで拾ってくるしかないですね」と返され愕然とした

こんなときのための「猫フォルダ」

悶々としながら、それからも駅前で譲渡会を見かけると近づいてじっと猫を眺める日々を過ごしていると、団体の女性に声をかけられた。

「あなた、この前も来てた人よね。ちょっと話しましょう」

その女性は保護団体の代表だった。

「あなた、そんなに猫が好きなの? 猫を飼ったことあるの?」

と問われた私はスマホを取り出して「猫フォルダ」を開いた。猫を飼っている友達たちの家で猫と遊んでいるときの様子や、撮りためた野良猫写真を見せながら、猫を飼うために1LDKのペット可のアパートに引っ越したことなどを熱弁した。

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友達の家で兄妹猫と遊ぶ。

撮影:友人提供

「あらー、かわいいわねー。本当に猫が好きなのね。分かった。私があなたの保証人になってあげるから、うちの猫をトライアルしてみなさい」

こうして私は1歳のメスの黒猫を迎え入れた。団体では黒猫はみんな「くろちゃん」と呼ばれていたらしいので「クロエ」という名前にした。

それから順風満帆な日々を......というわけにはいかないのが、生き物を飼う難しさだ。

全ての猫が「ちゅーる」を好きなわけではない

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テレビ前のローテーブルの下がお気に入りの場所だ。暗くて何かに囲まれているところが落ち着くらしい。

撮影:杉本健太郎

クロエは警戒心が強く、最初の3日ほどはなぜか人間のトイレに籠城し、そこから一歩も出ようとしなかった。正直、猫の視線を後ろに感じながら用を足すのはこちらも気まずかった。

3日経ってようやくお腹がすいたのかリビングに入ってきてくれた。用意していた餌と水に口をつけてくれて、私はどっと肩の荷が下りたような気分になった。

それからはリビングのローテーブルの下がクロエの定位置となった。猫は暗くて狭いところを好むのは本当らしい。

私がリビングでくつろいでテレビやパソコンを見ている様子を、机の下からクロエはじっと見つめている。とりあえず近くにいても警戒しなくなったのは大きな前進だ。

私はクロエとの距離を縮めようと猫が好きな「ちゃおちゅ~る」を鼻先に近づけたりしたが、全くの無反応だった。「ちゅ〜る」を嫌いな猫がいるということに私はショックを受けた。これまでどんな猫とでも「ちゅ〜る」で仲良くなってきたからだ。

クロエの食の好みは他の猫と少し変わっているようだった。猫の餌には小魚が入っていることがあるが、クロエは小魚だけ餌皿の外にポイッと放り出してしまう。魚が嫌いな猫、そんな猫が存在するのか......。私は衝撃を受けた。

クロエが来て2週間ほどが経ち、転機が訪れた。私が布団で横になっていると枕元にクロエがやってきて枕にチョコンと座ったのだ。高まる気持ちを抑えながら私はゆっくりとその様子を自撮りした。

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一気に距離が縮まった瞬間。以来、私が布団に寝転がると枕元にくるようになった。

撮影:杉本健太郎

それからクロエは私の近くに寄って来るようになり、手のひらに頭をゴツンとぶつけてスリスリするようになった。ずいぶん当たりが強い。撫でてほしいのかと思い体を撫でていると、いきなり猫パンチを食らわせてくることもある。一体何なんだ!

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私が床に座ったり寝転んだりすると、遊んでもいいサインだと思っているらしい。スマホ操作を妨害される。

撮影:杉本健太郎

猫との暮らしが私にもたらしたもの

今では私がテレビを見ながら寝っ転がっていると、チャンスとばかりに体の上に乗ってきて顔に頭突きを食らわせてくる。毛むくじゃらの顔で私の顔をワシャワシャにして毛だらけにすると満足そうに去っていく。いつかメガネが壊れるのではないかと心配だ。

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このようにソファーにもたれると上に乗っかってきて頭突き攻撃が始まる。顔が抜け毛だらけになるので毎回顔を洗わないといけない。

撮影:杉本健太郎

我が家が自分の縄張りであると認識したクロエはそれからやりたい放題になった。高いところがあれば登る。物は落とす。カーテンに飛びついてボロボロにする。私のご飯にくしゃみをして鼻水でベトベトにする(その日は一日無視した)。

抜け毛が酷いので掃除が大変だ。床をコロコロすると毛でいっぱいになる。

猫との暮らしは私にも変化をもたらした。なんとなく惰性で行っていた飲み会や友達とだらだら過ごす時間がなくなった。必要な人間関係の整理が自然と行われていくようだった。

生き物との生活は楽しくもあり、大変でもある。だが、朝目を覚ました時にクロエがチョコンと枕元に座っているのを見ると何とも言えない嬉しさに包まれる生活に私は満足している。


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いたずらをしても「私何も悪いことしてませんけど」という表情をよくする。

撮影:杉本健太郎

猫はかわいさと不条理の塊である。日々私も翻弄されているが、その大変さを引き受けるのも楽しいものだと思えるようになった。

また、人間観察をするときにも猫との生活が役に立っている。目の前の人が急によく分からないことを言い出したり、無茶苦茶なことをやり出しても、「猫も急にひっかいたり噛みついたりするから同じようなものか」という視点で見られるようになった。たぶん家ではゴロゴロ喉を鳴らしているのだろう。かわいいやつじゃないか。

保護猫を譲渡してもらうことも飼うことも大変だ。私の場合はたまたま幸運だったに過ぎない。補足しておくと、今は保護動物の里親マッチングサイトやアプリもあり、なかには独身、一人暮らしでも譲渡可能というオーナーさんもいる。こちらも運の要素は大きいが試してみる価値はある。

また、東京都は定期的に保護動物譲渡会のお知らせを掲載している。まずは一度譲渡会に顔を出して相談してみるのがいいだろう。

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