米国財務省がデフォルトすれば、経済と金融市場は深刻な混乱に陥るだろう。
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- アメリカの債務上限をめぐる議論により、同国の財務省がデフォルト(債務不履行)に陥る可能性が高まっている。
- そのような事態は、アメリカ人のパーソナルファイナンスにも壊滅的な影響を与える可能性が高い。
- もし本当にデフォルトに陥ったらどうなるのか? 専門家たちに聞いてみた。
消費者としてローンを滞納すると、家計に重大な損害を与える可能性がある。あなたの信用情報を毀損し、ブラックリストに載るからだ。そうなった場合、クレジットカードが利用できなくなるだけでなく、場合によっては新たな借金を組むことすらできなくなる。こうした状態を債務不履行という。
しかし、もしアメリカ政府が債務不履行——つまりデフォルトになったらどうなるのか? その場合、年金だけでなくクレジットカードの利息、さらには雇用状況に至るまで、あらゆるものに影響を及ぼし、経済的にさらに壊滅的な打撃をもたらす可能性がある。
現在、ワシントンの議員たちが連邦政府の債務上限をめぐって議論を続けている。そうしたなか、アメリカ財務省のデフォルトの見通しと、それが我々の家計に与える潜在的な影響がより鮮明になってきた。
米国債とはなにか?
アメリカは、一般に「国債」と呼ばれる政府保証証券を販売することで、資金を調達している。国債には、債券、短期証券、紙幣などが含まれる。米国債は長い間、最も安全な投資の一部と考えられてきた。他の多くの債券と比べて利回りは比較的低いが、米国債は満期まで保有すれば確実なリターンをもたらす。
「米国債は、世界で最も無リスクな証券として扱われている」と、資産管理会社グレンミード(Glenmede)の投資戦略担当VP、マイク・レイノルズ氏は指摘する。さらに米国債は、他のリスクの高い資産の価格を決めるベンチマークとして使われることが多いと、彼は付け加えた。
米国の債務上限とはなにか?
連邦政府は、税金やその他の財源を上回る支出を定期的に行っており、その差額を国債の販売で調達した借入金でまかなっている。
1世紀以上前、議会は米国の債務の上限を定めた。この債務上限の背景には、政府に借り入れのペースを緩めるよう促す狙いがある。上限に達すると、議員は最終的に上限を引き上げるか、一時的に借り入れを停止しなければならない。これを怠ると、政府がすべての債務を返済できなくなった場合、米国債の債務不履行、つまりデフォルトにつながる可能性がある。
「債務上限は、予算調整や赤字削減に関する政策を推し進めるために利用する、民主・共和両党による政治的フットボールのようなものになっている」と、ミシガン州 サウスフィールドのコアキャップ・インベストメント(CoreCap Investments)とコアキャップ・アドバイザー(CoreCap Advisors)のプレジデント、ジェイソン・スティーノ氏は語る。
議会は1960年以降、共和党と民主党の両大統領の下で70回以上債務上限を引き上げてきた。これは、両党の指導者が財務省のデフォルトという結果を理解し、避けたいと考えているためである。
「債務上限を引き上げられないために発生するこの種のデフォルトは、前例のないものになるだろう」 と、スティーノ氏は言う。
米国債のデフォルトがもらたす6つの悪影響
アメリカ財務省がデフォルトした場合に、アメリカ市民に及ぶ最大の経済的影響は次のとおりだ。
1. ローンやクレジットカードの金利が高くなる
デフォルトが市民のパーソナルファイナンスに与える影響としては、住宅ローンからクレジットカード、自動車ローンまで、あらゆるものの金利が上昇することが考えられる。
「デフォルトが起きると、金融機関は購買力を他の金融商品や通貨に向けるようになる」と、ジョージタウン大学マクドノー・スクール・オブ・ビジネス(Georgetown University's McDonough School of Business)の准教授、ジム・エンジェル氏は指摘する。「これにより米国の金利は上昇し、ドルは下落するだろう」
このような金利上昇は、住宅購入や大学進学、年金などの短期および長期の経済的目標の達成をより困難にする。また、米国市場がすでに経験してきた金利上昇を考えると、さらなる痛手となるだろう。なにしろ、2023年半ばまでの2年間で、30年ローンの平均金利は2倍以上に上昇。クレジットカードの金利は、2022年半ばから5%近くも上昇した。
2. 個人や企業が利用できる融資が減る
また、デフォルトが発生すれば、金融機関はより慎重になり、最終的には新たなローンや信用枠の発行に消極的になる。
「この前代未聞の出来事が起こった場合、どのような展開になるかは誰にもわからない。だが、ひとつ考えられるのは、個人や企業が利用できる融資が減ることだ」と、カリフォルニア州ラホーヤのコーストワイズ・キャピタル・グループ(Coastwise Capital Group)の最高投資責任者、スコット・カイル氏は言う。「混乱期には、金融機関は不確実性を理由に融資を控える傾向にある」
このような事態が発生した場合、住宅ローンや自動車ローンの承認を得ることが難しくなる。また、事業主が新規事業や設備などの資金を調達する能力も制限される可能性があるのだ。
3. 年金や投資の価値の減少
また、デフォルトは株式市場やさまざまな資産・投資の価値に大きな影響を与える可能性がある。
「株式市場の投資家は、投資判断を行う際に安定性と確実性を求める」 とカイル氏は言う。「米国がデフォルトに陥った場合、とてつもない不安定性が生じ、株価の急速な下落につながる。そして、株式を保有する投資家や年金利用者に影響を与えるだろう」
デフォルトが長期化した場合、売りが連鎖して、さらに株価を押し下げる可能性もある。すると、事態は大きく悪化するかもしれない。
「売りが売りを呼ぶ 」と、カイル氏は説明する。「株価が下がると、目先の資金を必要とする人が現金を調達するために株を売る。すると、さらに株価の下落圧力がかかるのだ」
4. 個人消費と経済活動の減少
米国債のデフォルトは、最終的に消費者心理を揺さぶる。特に借り入れコストの上昇と年金ポートフォリオの縮小を目の当たりにして、アメリカ人を財政的に警戒させるだろう。彼らは安全のために現金を保持し続けるかもしれず、それは支出の減少と経済全体の弱体化を意味する。
「景気の先行き不透明感から、消費者は支出を控え、企業も投資を削減するだろう」と、エンジェル氏は言う。「これは景気を押し下げ、我々を不況へと追い込むはずだ」
また、企業がコスト削減と収益維持を迫られることで、雇用が失われる可能性もあるとスティーノ氏は言う。
「これらの要因がビジネスに悪影響を及ぼすと、雇用喪失は当然の副産物である」
5. インフレとコストの増加
FRB(連邦準備制度理事会)の政策担当者は、フェデラルファンド金利を引き上げることでインフレ抑制へ積極的に取り組んできた。しかし、財務省のデフォルトは、これまでの進歩を台無しにする可能性がある。
「債務不履行は米ドルの価値を下げる可能性がある」と、ユタ州ジョーダンにあるリフト・ファイナンシャル(Lift Financial)のパートナー、アラン・フレッチャー氏は言う。「これにより輸入品がさらに高価になり、インフレの上昇につながる可能性がある」
ガソリン代はもちろん、食料品や医療費、その他の生活必需品も値上がりし、多くの世帯の家計が圧迫されるかもしれない。
「それは非常に危険な状況であり、できる限り避けなければならない」と、デンバーにあるシェルトン・キャピタル・マネジメント(Shelton Capital Management)の最高投資責任者、デレク・イズエル氏は話す。
6. 政府サービスと給付金の削減
さらに、デフォルトになると、社会保障制度やメディケア、軍人年金など、政府が国民に支払うべき給付金のやりくりが困難になる。
「社会保障やその他の給付金が滞りはじめると、事態はさらに悪化する」と、エンジェル氏は言う。「これは、生き延びるためにそれらの恩恵に依存している人々へ深刻な困難をもたらす」
連邦政府職員も影響を受ける可能性がある。給与を受け取れなかったり、職務から得られる他の利益を失う可能性がある。
「多くの消費者は、基本的な行政サービスはもちろん、さまざまな金融支援を政府に頼っている」と、カイル氏は語る。「そのため、一般消費者への影響は計り知れない」