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これから2024年の大統領選挙にかけて、アメリカの政党政治の歴史を一変させるような状況が生まれるかもしれない。アメリカでは自らを「無党派」と位置付けている人々が過去最高レベルの5割近くまで増えているためだ。
今のところ、2024年の大統領選挙の有力候補は、民主党・バイデン、共和党・トランプと代わり映えしない顔ぶれだ。そんななか、「無党派」や「第三の選択肢」が改めて注目されるようになっている。
これは大きな変化が起こる予兆と言えるのだろうか。今回はこの点について考えてみたい。
いまや半数近くが「無党派」
各種世論調査ではここ20年ほど、アメリカ国民の間で「無党派」を選ぶ層が着実に増えている。例えば、支持政党の調査では最も歴史のあるギャラップの2023年3月の調査では、民主党支持者と共和党支持者がいずれも25%だったのに対し、無党派は49%とほぼ倍の数字を記録した。これは過去最大を記録した2021年1月末から2月はじめの50%に次いで2番目に大きい数字だ。
2023年はまだ3度の調査しかないが、それでもここまでの年平均では44%が「無党派」を選んでおり、ギャラップが党派別支持調査を毎年継続的に行うようになった1957年以来、最大の数字である。
図表1はギャラップが行っている党派別支持調査の過去20年(2004〜2023年)の年平均の数字を示している(2023年は3月までの平均)。明らかに「無党派」を選ぶ層がほぼ右肩上がりで顕著に増えている。
特に2010年代からは「無党派」が40%以上となることが多く、「民主党支持」が30%弱、それよりも数ポイント低いのが「共和党支持」という形で、「無党派」と「民主党・共和党支持」の差は次第に開きつつある。
党派別支持の変遷に見る3つのフェーズ
過去の動向を見ると、政党支持と政治の変化の関連がさらに明確になる。ギャラップが党派別支持調査を毎年継続的に行うようになった1957年までさかのぼったのが図表2だ。
1950年代後半から1980年代初めまでは民主党優位の時代が続く。民主党支持はずっと40%を超え、1960年代には国民の半数を超える年も3度あった(1961年の51%、64年の51%、65年の50%)。
「分極化」という言葉が象徴する現在の状況から考えると、いかに当時がリベラル派優位の時代だったかが分かる。民主党は1983年代まで40%以上の支持を崩さなかった。一方、共和党支持は20%台、無党派も20%後半から30%台だった。
この間、大統領は共和党からも選ばれたことがあるが、議会では圧倒的に民主党優位の時代が続いた。例えば下院では1952〜1994年の実に42年もの間、民主党が多数派だった。
しかし1980年代半ばから2000年代半ばにかけて民主党の支持が陰りを見せ、代わって共和党支持と無党派が増えていく。
当初は無党派が増えたことで、民主党でも共和党でもないという「政党離れ(dealignment、もしくはpartisan dealignment)」が本格化したという見方が研究者やジャーナリストから出ていた。しかし今から考えると、むしろ共和党支持が徐々に増えていったというように見える。多少のタイムラグはあるものの、レーガン政権(1981〜1989年)以降のアメリカの保守化現象が図表2を見ても分かる。
この間、全体としては「民主党支持者30%前後」「共和党支持者30%前後」「無党派30%前後」で、残りの10〜20%については、この3つのうちのどれかが増えるといった形で推移していた。「3割、3割、3割」というのは分かりやすい割合である。
そして、その次のトレンドが、上述した無党派の増加となる。図表2の中の無党派だけを取り出したのが図表3だ。無党派の数は1950年代以降、着実に増えていく。2010年代には無党派が40%を超え、その数は上昇傾向にある。
この数字だけを見ると、かつての民主党優位の時代のように無党派が主導権を握る時代が遠くないようにすら見える。
なぜ「無党派」が増えているのか
それではなぜ「無党派」と答える人たちが増えているのだろうか。
さまざまな説が考えられるが、何といっても現在の政治の膠着状況に対する不満感が挙げられる。
アメリカの政治は激しい分極化の時代にあり、既存の政党の支持者であると胸を張って言いにくい状況が続いている。共和党はより保守に、民主党はよりリベラルになる傾向にある。
あまりにも党派性が強いなか、共和党支持者と民主党支持者は拮抗し、議会では両党の勢力がほぼ同じであるため、常に泥沼の膠着状態に陥る。新しい政策は進まず、国民全体の不満が高まっていく。
また、大統領選挙は投票前から大半の州の結果が見えているため、最終的な勝者を決めるのは両党の支持者が拮抗する5〜7程度の数の激戦州である。全体ではわずか数%の得票率の差で勝者が決まるとすれば、敗れた候補の政党の支持者たちにとっては不満が残る。
図表4は、1958年から2023年までのアメリカ国民の政治に対する信頼度だ。
ニクソン辞任のようなスキャンダルが目立った1970年代半ばには信頼度は下がり、1990年代後半の好景気の時代や9.11直後は信頼度が高くなるというように、景気や安全保障環境なども大きく影響する。また、民主党が長年の多数派を失った1994年の中間選挙では、共和党側が政府の非効率などを政治の争点にしたこともあって、政治に対する信頼度も低くなっている。
このようにさまざまな要因はあるものの、一見して見て取れるのは、政治に対する信頼度の長期低落傾向である。この何とも言えない不満感の増大と無党派支持は、無関係ではあるまい。
さらに、現時点での2024年の大統領選挙の動向を考えると、今後も無党派の数字は増えるかもしれない。
5月9日、トランプから性被害を受けたとする知人女性の訴えに対し、連邦地裁の陪審はトランプによる性的虐待と名誉毀損を認めた。
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目下の有力候補は民主党・バイデン、共和党・トランプだ。まったく新味のない組み合わせだが、分極化の時代ゆえにいずれも指名候補に残れば本選挙ではそれぞれの政党支持者の間で圧倒的な得票率となるだろう。だが、本音では「他の人の方がいい」と思っている層がかなりいる。
NBCの世論調査によると、「バイデンは再選出馬すべきではない」とするのが全体では70%、民主党でも51%にのぼっている。また「トランプは大統領選に出馬すべきではない」とするのも全体では60%、共和党でも30%ある(NBCニュースの調査の8ページ目を参照。ただし党派別の数字はこちらの記事などを参照)。
仮にバイデン対トランプになった場合、どちらも高齢で、新しさに欠ける。バイデンは史上最高齢で、トランプはすねにさまざまな傷がある。
有罪者が大統領になることもかなりの現実味を帯びている。5月9日には知人女性に対する性的暴行の民事訴訟で、地裁の陪審はトランプによる性的虐待と名誉毀損を認めた。トランプは控訴するとみられている。
トランプの場合、選挙期間中に不倫相手に口止め料を渡したことに関連する容疑でニューヨーク州がすでに4月はじめに起訴したほか、2021年1月6日の議会議事堂襲撃を扇動した容疑や、ジョージア州の選挙妨害疑惑についても捜査が進んでいる。
そんな「党の代表」ではなく自分を「無党派」と主張したい層も増えていく可能性があるだろう。
民主党でも共和党でもない「第三政党」
「無党派」の増加とともに、「第三の選択肢」が改めて注目されるようになっている。
ギャラップの調査によると、「第三政党が必要」と答えた人は2022年9月の段階で56%となっている。ギャラップが2003年に同じ調査を開始して以来、多くの調査で50%以上が「第三政党が必要」と回答している(最も高かったのは2021年1月の62%)。
アメリカでは共和党でも民主党でもない政党については「第三政党(third parties)」という呼称を使う。そのため、partiesと複数形である。弱小政党(minor parties)を全部まとめて「第三のグループ」という扱いだ。
過去の大統領選挙でも第三政党は出馬し、得票を続けてきた。2020年の大統領選挙では「小さな政府」を主張する「リバタリアン党」が、民主党や共和党と同様に「全国」政党として扱われている(全国政党になると、全米50州とワシントンでの投票の際、投票用紙や投票用タッチパネルの候補者一覧リストに記載される)。
また、気候変動対策などを訴える「緑の党」、右派の「憲法党」、共産主義を掲げる「社会主義と解放党」などが10を超える州での候補者一覧リストに入った。
ただ、このような既存の第三政党は、特定の争点を掲げる「単一争点(シングルイシュー)政党」ばかりである。これに対し、さらにより広範な中道無党派の取り込みに特化した政治団体も登場している。
その代表格が、2010年に発足した「ノーレーベルズ(No Labels)」だ。いまのところアリゾナ州、コロラド州、オレゴン州では政党として登録されているが、中道的な政治活動をさまざまな角度から支援するために献金を受け付け、寄付を続ける政治団体といった方が的確であろう。
ノーレーベルズのPR動画。1:08あたりからホーガン前メリーランド州知事も登場する。
No Labels
ノーレーベルズの注目すべき点は、超党派の議員協力の場として、共和党と民主党の議員をつなぐ働きかけを行っていることだ。実際、下院ではノーレーベルズの働きかけによって2017年に「問題解決議連(Problem Solvers Caucus)」が立ち上がった。この議連には両党の中でも穏健派とみられる議員約60人が所属し、銃規制やインフラ整備など、共和党・民主党どちらも歩み寄れる内容の法案作成を続けてきた。
ノーレーベルズは2024年の選挙において、二大政党が受け入れがたいほど極端な候補者を指名した場合に、第三政党として候補者を擁立する準備を進めている。これは「ユニティチケット(Unity Ticket:団結できる正副大統領候補)」と呼ばれ、共和党穏健派で2024年に共和党からの出馬を断念したばかりのホーガン前メリーランド知事を大統領候補として担ぎ出すのではないかと指摘されている。
第三政党は「期待」か「ぶち壊し屋」か
無党派の増加と第三政党への期待はあるものの、それが本当に大きな変化へとつながるのだろうか。
実際のところ、前途はかなり多難だ。
まず、アメリカの選挙は「第三政党」の躍進を阻む構造になっているという問題がある。
大統領選挙を例にとれば、候補者一覧リストに載るまでのプロセスは50の州ごとに異なる。このリストに入るためには、過去の選挙において各州でどれだけ得票したかなどの実績が必要だが、新参の場合、一定数の署名を集めないと立候補もできない。署名の数などのルールは、既存の二大政党から選ばれた議員や実務者が牛耳っている。
ノーレーベルズもまずはこの署名活動からの挑戦となる。もしうまく立候補できたとしても、この分極化の時代にどれだけ新政党の候補に票が集まるかはまったくの未知数だ。
2020年大統領選挙では、得票数の98%をバイデンとトランプが占め、全米での立候補が認められたリバタリアン党のジョーゲンセン候補の得票率は1.18%、30州での立候補が認められた緑の党のホーキンス候補に至っては0.26%にとどまった。いずれも538の大統領選挙人は1人も獲得できていない(バイデンは306、トランプは232)。
この数字は残酷だが、それでも近年の第三政党や無党派の候補者の中にはそれなりの成功例もある。
1992年、1996年の大統領選挙で善戦したペロー。左手には、実際はトルーマンが当選したのに対立候補の勝利確実を伝えた1948年の大統領選挙翌日の新聞を掲げている。世論調査での劣勢をはねのけ、大統領に当選したトルーマンに自分を重ね、有権者に支持を訴えた。
REUTERS/Sam Mircovich
1992年の大統領選挙では、実業家のペローが無党派として出馬した。初夏の段階ではトップの支持率を記録し、その後、一時選挙戦を撤退するなどで失速したが、それでも本選挙の一般投票では18.9%もの票を得た。ペローは翌1996年の大統領選挙では自ら立ち上げた改革党の候補者として出馬し、本選挙では8.4%を得票した。
いずれの選挙でも選挙人獲得までは至らなかったものの、大健闘したのは間違いない。1996年のペローの得票率は、第三政党・無党派としては、現在の民主党と共和党による二大政党制となった19世紀半ば以降では2番目の高さである。
ちなみに、過去最大の得票は1912年に出馬した革新党のセオドア・ルーズベルトの27.4%〔大統領選挙人88〕だ(このように大統領選挙を通じて第三政党が二大政党の一つになることがある。例えば1856年の共和党がそれであり、第三政党だった共和党がホイッグ党に取って代わった)。
ただし、比較的有力だった近年の第三政党や無党派の候補者の場合、躍進したがゆえに二大政党のいずれかの足を引っ張る結果も招いている(「スポイラー(ぶち壊し屋)」と呼ばれるゆえんだ)。
2000年選挙の開票状況を伝える様子(ニューハンプシャー州)。大統領候補には、第三政党のネーダー(緑の党)、ブキャナン(改革党)の名前も。
Reuters
例えば2000年大統領選挙では、世界的な消費者運動家であるネーダーが緑の党の候補となり、本選挙では2.74%の票を得た。この選挙は史上最も僅差となった大統領選挙であり、G・W・ブッシュ(共)が47.86%、ゴア(民)が48.38%と大接戦だった。
特に再集計となったフロリダ州ではネーダーの票が雌雄を決し、ブッシュが勝利することとなった。ネーダー票の多くはリベラル派によるものと見られるだけに、ゴアを勝たせることができなかった民主党支持者にとっては後味が悪いものとなった。
また、前述のペローは1992年、1996年の大統領選挙で徹底した「小さな政府」を主張した。そのため保守票が割れ、民主党のクリントンを利する結果となった。
やがてさみしき無党派?
アメリカでは、党派性が強ければ強いほど投票に行く傾向にある。そのため、無党派が増えたとしてもこの層の実際の投票率はおそらく低いはずだ。実際、2022年の中間選挙の主要テレビネットワークの共同出口調査では、投票した中では民主党支持者(33%)、共和党支持者(36%)、無党派(31%)と、増加しているはずの無党派の数が投票には反映されていない(図表5参照。図表1の党派別支持では無党派が近年40%を超していたことを思い出していただきたい)。
(出典)The Washington Post, “How different groups voted according to exit polls and AP VoteCast,” ‘Party identification’をもとに編集部作成。
さらに、そもそも「無党派は本当に無党派なのか」という指摘もある。「無党派」と主張する人を詳しく調査したところ、「民主党寄り無党派」と「共和党寄り無党派」が3分の1ずつで、本当の無党派はほとんどおらず、「無党派の数の多さは神話でしかない」と結論付けた1990年代の有名な研究もある。
あれから30年経った今もその傾向がみえる。2022年の中間選挙でAPが実施した出口調査では、さらに政党支持を細かく聞いており、「民主党支持、民主党寄り」が43%、「共和党支持、共和党寄り」が49%で、「無党派」はわずか8%だった。
(出典)The Washington Post, “How different groups voted according to exit polls and AP VoteCast,” ‘Party leaning’をもとに編集部作成。
それでも、政党支持の中で無党派が増えつつあるという傾向は、アメリカの政治を見る上で大きな変化だ。
これが大きな政治的な意味を持ってくるのかどうか、今後の動きに注視したい。
前嶋和弘(まえしま・かずひろ):上智大学総合グローバル学部教授(アメリカ現代政治外交)。上智大学外国語学部卒業後、ジョージタウン大学大学院政治修士過程、メリーランド大学大学院政治学博士課程修了。主要著作は『キャンセルカルチャー:アメリカ、貶めあう社会』『アメリカ政治とメディア』『危機のアメリカ「選挙デモクラシー』『現代アメリカ政治とメディア』など。