カバーは上場後初となる2023年3月期(2022年4月〜2023年3月)の通期決算を発表した。
COVER公式サイト
2Dや3Dのキャラクターをアバターに用い、ネット上で活動するVTubeのプロダクション「ホロライブプロダクション」を運営するカバーが5月12日、上場後初となる2023年3月期(2022年4月〜2023年3月)の通期決算を発表した。
売上高は前期比で49.7%増となる204億5100万円だった。営業利益は34億1700万円、経常利益は33億8500万円。純利益は25億800万円で前期比101.6%増となった。
なお、5月12日の終値ベースでの時価総額は1038億5000万円となっている。
出典:2023年3月期 決算説明資料
カバーの2023年3月期決算。純利益は25億800万円で前期比101.6%増と大きく成長した。
カバーの2023年3月期決算短信より。
躍進するカバーの主な事業領域は、「配信・コンテンツ」「ライブ・イベント」「マーチャンダイジング」「ライセンス・タイアップ」の4つの柱から構成される。
出典:事業計画及び成長可能性 に関する事項(2023年5月12日)
出典:2023年3月期 決算説明資料
1:「配信・コンテンツ」63億4200万円(前期比+20.8%)
「配信・コンテンツ」は、VTuberにとって活動のホームグラウンドとなる。主にYouTubeを中心とした動画配信プラットフォームでの活動がある。
カバーでは、ライブ配信や動画コンテンツ、音楽ストリーミングサービスでの楽曲コンテンツを積極的に展開。今期、配信・コンテンツ分野の売上高は63億4200万円(前期比+20.8%)となった。
この分野の主な収益源は、視聴者から受け取る“投げ銭”の「スーパーチャット」や月額コミュニティ(YouTubeメンバーシップなど)会員費用、動画配信プラットフォーム上での広告収益、 音楽ストリーミングサービス上での楽曲販売の収益などだ。
出典:2023年3月期 決算説明資料
今期の取り組みとしては、各タレントの活動の基礎となるYouTubeでのライブ配信に加え、ショート動画やオリジナル楽曲なども発表。所属VTuberのYouTubeチャンネル登録総数は2023年3月末時点で7558万人(前期比+23.1%)に伸長した。
2023年は新規音楽プロジェクト「Blue Journey」も始動し、所属タレントによるユニット活動の拡充も図る。
出典:事業計画及び成長可能性 に関する事項(2023年5月12日)
海外での活動も拡大している。2022年7月と2023年1月には英語圏向け男性VTuberグループ「ホロスターズEnglish」より合計8名をデビューさせた。
ホロライブプロダクションは他社に先駆けて英語圏に進出しており、海外におけるファンの熱量の高さも特徴だ。YouTubeの配信における月間の再生数比率でも、海外が41%(2022年12月現在)を占めている。
2:「ライブ・イベント」34億2900万円(前期比+55.6%)
「hololive SUPER EXPO 2023」の様子。
撮影:吉川慧
2つ目は所属VTuberのライブやフェス、ファンミーティングなどのイベントだ。
主な収益項目はオフライン・オンラインでのチケット販売の収益、イベントにおける物販やイベントを収録した映像販売の収益などだ。今期の「ライブ・イベント」分野の売上高は34億2900万円(前期比+55.6%)となった。
カバーでは、2020年1月にホロライブ初となるフェス「ノンストップ・ストーリー」を開催。以降、オンライン・オフラインを問わずステージ経験を重ねてきた。
直近でも、メジャーデビューを果たした所属タレント「星街すいせい」さんの2ndライブをはじめ、2023年3月には幕張メッセで実施した大型イベント「hololive SUPER EXPO 2023」と全体ライブ「hololive 4th fes.Our Bright Parade 」を開催。
海外でのイベント開催も積極的に図り、2022年は北米、ヨーロッパ、オーストラリア、アジア等での出展やファンミーティングイベントを開いてきた。
出典:事業計画及び成長可能性 に関する事項(2023年5月12日)
以上のように、各タレントの活動とともに、国内外で熱量の高いファンコミュニティが成長。このことが「模倣困難な競争優位性を構築」しているとカバーは説明する。
出典:事業計画及び成長可能性 に関する事項(2023年5月12日)
3:「マーチャンダイジング」80億300万円(前期比+65.6%)
出典:hololive production OFFICIAL SHOP
所属タレントの日々の配信活動や音楽活動、ライブやイベントへの出演とともに、ホロライブプロダクションが持つIPの価値は日を追うごとに向上。こうしたIPの価値を活かし、コマースビジネスの規模も急成長を遂げている。
出典:事業計画及び成長可能性 に関する事項(2023年5月12日)
所属VTuberのキャラクターグッズなどが中心の「マーチャンダイジング」は、自社ECサイトを通じ、国内外で商品を展開している。
これまではタレントの誕生日や記念日などに展開される受注生産・販売を前提にした商品構成がメインだったが、今期は中価格域でファンが年間を通じて購入できる新商品を企画。「マーチャンダイジング」分野の今期売上高は80億300万円(前期比+65.6%)をマークした。
4:「ライセンス・タイアップ」26億7600万円(前期比+94.2%)
出典:2023年3月期 決算説明資料
4つ目が「ライセンス・タイアップ」分野。企業の商品やゲームなどのコンテンツとのタイアップ広告やメディア出演など。いわゆる「案件」と呼ばれるPR活動や出演で得られる収益だ。
主には新作のゲームの宣伝や、食品会社やコンビニとのコラボなどがメインになっている。日清食品の「カレーメシ」や、ブシロードのトレーディングカードゲーム「ヴァイスシュヴァルツ」とのコラボは代表的な一例だ。
上場時の資料でも、カバーは「VTuberの直接の稼働無しに商品パッケージやポスター等で活用される事例」があることで、「演者稼働を伴う一般的なインフルエンサー広告の事例よりも効率性の観点から収益性が高くなる」と説明。一案件あたりの収益性が高いことは特筆すべきかもしれない。
主な売り上げを構成する4つの分野のうち最も成長を遂げたのが「ライセンス・タイアップ」で、今期の売上高は前期比94.2%増の26億7600万円だった。
2024年3月期は「売上高265億円超、純利益32億超」を予想、さらなる“増収増益”見込む
出典:2023年3月期 決算説明資料
来期の業績予想について、カバーは売上高265億6200万円(前期比+29.9%)、経常利益を46億2300万円(前期比+36.6%)、純利益32億3600万円(前期比+29.0%増)の増収増益を見込む。
2023年度からは新規に取得した大型モーションキャチャー・スタジオを稼働。カバーはVRを祖業とする企業でもあり、業界内でも3Dの技術力・演出に定評がある。得意とする3Dモデルでのコンテンツ提供を今後もさらに広げていく方針だ。
出典:2023年3月期 決算説明資料
出典:事業計画及び成長可能性 に関する事項(2023年5月12日)
海外展開では、従来のファンミーティングやイベント出演に加えて、2023年夏にはロサンゼルスでホロライブENのイベントを計画。「国外のライセンシー企業に対するライセンスビジネスの拡大も推進」するとしている。
また、上場時にも注目された新規事業のメタバースプラットフォーム「ホロアース」は2024年内のリリースを目指して開発を進める。今後は、ベータ版において課金機能のテスト実装や、ホロアース上のバーチャルライブの機能検証を目的としたライブイベントなどを計画している。
参考資料: