撮影:竹下郁子
吉野家の本社に勤務する50代男性が、上司から人事評価を改ざんされ、同僚からパワハラをうけたと主張していた問題で、吉野家は事実を認めて男性に謝罪し、解決金を支払った。
男性は精神疾患で休職していたが、これを機に退職する。
「生娘シャブ漬け発言」や、就活生の説明会参加を外国籍であることを理由に拒否するなど、世間を騒がせた不祥事から約1年。吉野家は変わったのだろうか。
吉野家「事実を真摯に受け止める」
吉野家社員でパワハラを受けた男性が、この1年間の闘いを振り返った。
撮影:竹下郁子
男性は吉野家に謝罪や社内風土の改善などを求め、東京管理職ユニオンを通じて団体交渉を続けてきた。詳しい経緯は以下の記事を参照して欲しい。
参考記事:吉野家社員「シャブ漬け発言に違和感ない」、暴言が常態化したリアル語る
約1年間の協議の末、5月に和解協定を締結した。
吉野家は人事評価を修正したこと、そして語気が強い発言があったと認めた上で、謝罪。「事実を真摯に受け止め、今後さらに全社的に法令遵守に努める」として、男性に解決金を支払った。金額は非公表だ。
加えて、ハラスメントや人権侵害、差別の禁止を就業規則や社内規定などに具体的に明記すること。またこれらに関する行動原則などを定めて従業員や取引先と共有し、ハラスメントには毅然とした対応を取ること。社内の実態把握や分析を定期的に行うこと、相談があった場合は被害者保護や行為者への措置を適切に行い、再発防止に努めることなどを誓約した。
精神疾患で休職、退職へ「定年まで働きたかった」
団体交渉を率いた東京管理職ユニオンの神部紅さんは言う。
「謝罪、そしてかなり高い水準の解決金を勝ち取ったことは意義があると思います。
また通常は会社、組合員、労働組合という当事者間のみの問題完結が一般的ですが、従業員のみならず取引先も絡めた会社の再発防止策まで誓約させたことにも意義があった。吉野家における一連の不祥事を踏まえると、こうした誓約が必要でした。
吉野家にはハラスメントの相談があった時に何をヒアリングすべきかなどの規定すらなく、驚きました。厚生労働省の相談シートを参考にひな型を作成するよう団交で指摘しましたが、これまでどれだけのケースが放置されてきたのかと思います」(神部さん)
男性はハラスメントなどをきっかけに精神疾患と診断され休職しており、この和解協定を機に退職する。
「復職するつもりで団交していましたし、定年まで勤め上げたかった。金銭的な解決は考えていませんでした。悔しさもありますが、これが落としどころかなと。
今私と同じような目にあっている方、これからあうかもしれない方のためにも、一石を投じることができたのは良かったと思います。
外食産業は古い風土があり、まだまだ変化が必要です。働く人もおかしいと思ったら、もっと声を上げて欲しい」(男性)
吉野家HDは5月25日に株主総会を控えている。2022年は「生娘シャブ漬け発言」や、就活生が外国籍であると一方的に判断して会社説明会への参加を拒否するなどの不祥事が続き、株主から厳しい批判の声が上がった。
今回の和解協定も、株主総会前にトラブルを解決したいという吉野家側の思惑が見え隠れすると男性は言う。