楽天の三木谷浩史会長兼社長。
出典:楽天モバイル プレスカンファレンス中継より
楽天グループは5月12日に、2023年12月期第1四半期の決算を発表した。売上高は4756億3500万円で前年同期比9.3%増となったものの、モバイル事業の損失が重荷となって、本業のバロメーターにあたる営業損失は761億9400万円と巨額の赤字が続く。
三木谷浩史会長兼社長は、連結EBITDAが前四半期で黒字に転じ、同期ではさらに74億円の黒字と改善が続いていることから好調と説明。今後モバイル事業の損失改善と売り上げ成長を実現することで、目標達成できれば2030年には「フィンテック、インターネット事業を上回る収益が実現できる」との見方を示した。
三木谷氏の舵取りが注目される楽天の四半期決算を解説する。
モバイル事業成長への道筋
楽天グループの連結業績。売上収益は順調に伸びたが、Non-GAAPは改善したものの、大幅な営業赤字が続いている。
出典:楽天決算資料より
楽天モバイルの収支改善は楽天グループにとって急務の状態が継続している。
グループ全体のNon-GAAP営業損失は約690億円で、前年同期比では301億円の改善(決算短信より)となったが、モバイル事業におけるセグメント損失は、今期も1000億円を超える。前年同期比では300億円近い改善だが、それでも楽天グループ全体の赤字体質は、モバイル事業が作り出している構図になっている(下図)。
営業損失の構造。モバイル事業の重い赤字が、現在の赤字体質を作りだしている。
出典:楽天決算資料より
インターネットサービス事業は、売上収益が2711億円(8.7%増)と「大変好調」(三木谷氏)。
だが、モバイル事業にあった楽天チケットやRakuten TVなど、負担の多いメディア&コンテンツ事業をインターネットセグメントに移管したこともあって、セグメント利益自体は減少した。セグメント利益は前年同期比17.1%減の118億円となった。
それでも、グループ全体としての成長は継続していると三木谷氏は強調する。日本の月間アクティブユーザー(MAU)は4000万人を超えて、前年同期比10.3%増、2つ以上のサービスを利用するユーザー比率は76.1%と拡大している。
「キーとなる」(同)楽天ポイントの発行数は、直近12カ月では約6400億ポイントを突破した。SPU(スーパーポイントアッププログラム)も年平均成長率が20%を超えて順調だとしている。
モバイルは苦しい状況が続くが、それ以外の「主要指標」は順調な拡大をアピールする。
出典:楽天決算資料より
楽天としては、こういった前提を踏まえて今後モバイル事業をうまく成長させていく必要がある。
楽天モバイルが新たに「最強プラン」を発表したのは既報の通りだ。
5月12日、決算説明会の直前のカンファレンスで「Rakuten 最強プラン」を発表する三木谷氏。
撮影:小林優多郎
楽天は、新たにKDDIと交わしたローミング契約で、基地局建設コストなどを抑制する。2023年においては1000億円以上の設備投資額が削減でき、2025年までの3年間では計3000億円規模の削減を目指すという。
KDDIとの新たなローミング契約によって、懸念だった屋内を中心としたエリアをカバー。プラチナバンドの割り当てや低軌道衛星によるエリア化を図るASTスペースモバイルによってさらなるエリア拡大を目指すとする。
出典:楽天決算資料より
結果として、楽天が支払うローミング費用は増加するものの、設備投資額などの減少によって月間約150億円の削減目標に変更はないという。
設備投資額を大幅に削減し、ローミングコストの増加を吸収。トータルで費用削減しつつ、顧客満足度を向上させて契約増を狙う。
出典:楽天決算資料より
楽天経済圏への「モバイルの浸透率」向上が課題
前半に書いたとおり、楽天全体の月間アクティブユーザーは4000万。対して、4000万人への浸透率(楽天モバイルに契約しているユニークユーザー数と月間アクティブユーザー数の比率)は10.6%程度にとどまる。三木谷社長は、「これを3割、4割に上げるだけでもかなりの収益源になる」とする。
モバイル契約者は楽天サービスの利用が相対的に多く、モバイルARPU(1ユーザーあたりの平均売り上げ)と楽天サービスのARPUを足し合わせたトータルのARPUは、2652円に達している。データ利用とオプション利用をさらに拡大させてARPU上昇を狙いつつ、「まずはユーザーを増やすことに傾注する」(同)。
ARPUの推移。モバイルARPUに加えて、モバイルユーザーがより楽天サービスを使うことによるモバイル以外のユーザーとの売上の差を加味したARPU。楽天モバイルの通信料金3278円に迫ってきた。
出典:楽天決算資料より
ユーザー数の拡大については法人契約も重視し、楽天グループの取引先90万社を中心に25%のシェア獲得を目指す。
フィンテック事業はセグメント全体で売り上げ収益7.6%増の1680億円、営業利益も20.4%増の266億円と順調。楽天カードにおける、発行枚数3000万枚、ショッピング取扱高30兆円、取扱高シェア30%という「トリプル3」と名付けた営業目標に対しては順調だという。
フィンテック事業はユーザーベースが順調に拡大。
出典:楽天決算資料より
主力の楽天カードはトリプル3達成に向けて順調をアピールする。
出典:楽天決算資料より
初の中長期ビジョンを公表。モバイルへの期待に言及
「初めて中長期的なビジョンを提示」と三木谷社長が示したのは、2030年までの展望だ。
インターネットサービス事業では現在の売り上げ成長を継続的に維持し、特にモバイル事業から移管された赤字事業の黒字化を果たして、「営業利益率15%」を目標に掲げる。これによって2030年に4100億円の利益計上を目指す。
インターネットサービス事業における営業利益率は15%が目標。流通総額は10兆円を目指す。
出典:楽天決算資料より
「現在はグループでポイント7000億円以上発行しているので、その効率を上げていくというのも一つの考え方」と三木谷社長。これがポイント還元の戦略を変更することなのかどうかは明言されていない。
フィンテック事業は、楽天カードをベースに楽天銀行や楽天証券をはじめグループ全体でシナジーを強化する。営業利益率を20%まで拡大することで、3300億円の営利を目標とする。
フィンテック事業も大幅な利益拡大を図る。
出典:楽天決算資料より
ここにモバイル事業の利益を重ねることが最大のチャレンジだろう。個人向けで2400万契約、法人向けで700万を達成すると「非常に大きな利益になる」(同)。その利益は「フィンテック、インターネットサービスを上回る収益が実現できる」(同)見込み。
資料には数字を掲げていないが、言葉通りにとれば、この3セグメント合算の営業利益として「1兆円」を意識していそうなことがうかがえる。
モバイル事業では具体的な数値目標はないが、契約数を現在の500万弱から6倍以上に拡大する。
出典:楽天決算資料より
「今年は創業26年。2030年に向けて大きな課題である楽天モバイルは、日本の物価上昇を1.4%ぐらい押しとどめたと思っているが、まだまだ(携帯料金は)高いと思っている」と三木谷氏は胸を張る。
高品質で低価格なモバイルネットワークを実現するとともに、仮想化などのモバイル技術を海外に販売して、楽天エコシステムに貢献できるように成長させたい考えだ。
もくろみ通りユーザーの拡大によって、グループ全体におけるモバイル事業の懸念の声を払拭できるか、三木谷氏の舵取りは引き続き注目される。