ニューメキシコ州では、ワークフローにAIを組み込み、多くのプロセスを自動化している。同州による新テクノロジーの活用は、AIが世界中の働き方をどのように変えていくかを示しているのかもしれない。
Courtesy of the New Mexico Human Services Department.
- ニューメキシコ州では、新生児の医療システムへの登録をAIチャットボットで行っている。
- このことが、AIによって働き方がどう変わるのか、道を示しているのかもしれない。
- 同州では、30の「デジタルワーカー」を採用し、反復的な業務をさせることで、人間の職員はより大局的なことに目を向けられるようになった。
AI(人工知能)は、働き方をどのように変えていくのだろうか。ニューメキシコ州では、すでに何年も前からAIを活用し、以前は1カ月もかかっていた作業を10分で終わらせることに成功している。その経験が進むべき道を示すかもしれない。
このような時間短縮を企業全体、あるいは経済全体に当てはめてみると、AIがもたらす変化の規模を垣間見ることができる。
例えば、ニューメキシコ州の都市で子どもが生まれると、複雑な行政システムが動き出す。
AI以前であれば、病院の職員はメディケイド(医療扶助プログラム)の対象となる新生児を登録する際、書類を書き、ニューメキシコ州の行政機関に郵送またはファックスで送る。そして、州のケースワーカーがその情報をデータベースに入力していく。この作業には1カ月ほどかかることもあった。
しかし2020年以降、州の福祉局は、AIの世界へ果敢に突き進んだ。IBMやSS&C Blue Prismなどの協力のもと、プロセスを自動化したのだ。今では新生児の情報は、AIを搭載したチャットボットを使って人間が素早く登録し、州のデータベースに自動的に移植できるようになった。所要時間は10分ほどだ。
「ベビーボット」という愛称で呼ばれるこのプロセスは、ニューメキシコ州をはじめ、テキサス州やアリゾナ州などの州境にある10系列の医療機関で採用されている(ニューメキシコ州のメディケイド対象者で、州境に近くに住む人は隣接する州でも医療サービスを受けることができる)。また、多くの分娩センター、インディアンヘルスサービスのクリニックや病院もこのシステムを採用している。
そしてそれは、州が採用した約30の「デジタルワーカー」が行う作業の1つに過ぎない。ボットと自動化により、毎年10万時間以上の労働時間が短縮されていると、ニューメキシコ州福祉局はInsiderに語っている。
同州によると、今のところ、こうした時間短縮が人員削減につながることはなく、人間の職員が多くの事務作業に煩わされることなく、より大局的なことに目を向けられるようになったという。また、同州は、AIプロジェクトのプログラミングや指導に携わる開発者やテクノロジーに精通した人材を採用しようとしており、AIによって新たな雇用が生まれる可能性もある。
ニューメキシコ州福祉局は、自動化を他の分野にも広げている。2023年には、返送された郵便物にインデックスを付ける新しい作業が加わり、OpenAIのChatGPTのような機能を持つテクノロジーの導入も検討していると、同局のカスタマー・イノベーション・ディレクターであるシャニータ・ハリソン(Shanita Harrison)は言う。
「ChatGPTはすばらしいもので、さまざまな用途への道を開いてくれる。ChatGPTと同じくらい自動化されたものを目指すこともできるが、まずは福祉領域での適切な使い方を見極める必要がある」
このような取り組みをしているのはニューメキシコ州だけではない。ChatGPTをはじめとする生成型AIツールは大きな話題となり、すでにこれらを導入した企業や政府機関がコミュニケーションの効率化や業務のスピードアップを図っている方法について注目が集まっている。
ニューメキシコ州では、「デジタルワーカー」がさまざまなタスクを時間内に実行するようプログラムされている。しかし、ボットをプログラムするのは人間の契約職員だ。同州では現在、こうした役割を担うフルタイムのアプリ開発者を採用する計画だとハリソンは言う。
「自動化したからといって、フルタイム職員のための人件費を削減したわけではない。ニューメキシコ州の住民にサービスを提供するには、人間らしさが必要だ」
ニューメキシコ州の自動化システムは、「ベビーボット」に搭載された対話型AI「Watson Assistant」を提供するIBMをはじめ、セールスフォース(Salesforce)、SS&C Blue Prismなど、多くのテック企業によって支えられている。
ボットから取り出された情報は、Blue Prismのテクノロジーによって州のシステムに移植される。同社のアドバイザリー提携ディレクター、ブラッド・ヘアストン(Brad Hairston)は、「ロボティック・プロセス・オートメーションと呼ばれるこのプロセスは、構造化された反復作業のスピードアップに役立つ」と述べている。
「複雑なプロセスを自動化する必要性が高まっており、請求書を読み込み、予測外の作業にも対応し、仕事上のパターンを検出できるデジタルワーカーが求められている」
IBMの担当者はコメントを辞退した。
ニューメキシコ州では、「ブレイニーボット」というAIも導入し、低所得者が食料品を購入するための補助的栄養支援プログラム(SNAP)をはじめ、州が提供するさまざまな給付プログラムに関する質問を受け付けている。
ハリソンによると、ユーザーはボットに「SNAPの更新日はいつ?」といった自身の状況に合わせた具体的な質問や、「エネルギー支援について教えてほしい」といった一般的な質問を投げかけることもできるという。ブレイニーボットはIBMのAIテクノロジーを搭載し、セールスフォースのプラットフォーム上で実行されている。
だが人間の労働者は、州のサービスを管理する上で依然として重要だとハリソンは言う。住民からの込み入った問い合わせに対応するのは人間だからだ。
「AIが、トラブルに見舞われた住民から何を求められているのか理解できない場合、人間がその対応を引き継ぐことになっている」