NBCユニバーサルの元広告部門の責任者であるリンダ・ヤッカリーノは、厳しい時期にツイッターを引き継ぐことになった。
Santiago Felipe/Getty Images
- イーロン・マスクはツイッターの後任CEOに、元NBCユニバーサルの広告部門の責任者、リンダ・ヤッカリーノを指名した。
- ツイッターの混乱の中、ヤッカリーノはいわゆる「ガラスの崖」の餌食になる可能性があると指摘する人もいる。
- 危機的な状況にある企業で、女性は指導的な役割を担わされることが多いという調査結果もある。
イーロン・マスク(Elon Musk)が新たにツイッター(Twitter)のCEOの後任に指名したリンダ・ヤッカリーノ(Linda Yaccarino)、彼女が同社の厳しい仕事を引き継ぐことは言うまでもない。だが問題は、彼女は失敗するように仕向けられているのか、ということだ。
ニュースサイトのアクシオス(Axios)を含む一部のメディアは、ヤッカリーノがいわゆる「ガラスの崖」の餌食になる可能性があると指摘している。「ガラスの崖」は、女性や有色人種は、金融危機や経済不安の際、失敗する可能性が最も高いときに組織の指導的地位に昇進する傾向を表す。
NBCユニバーサル( NBCUniversal)の広告部門の責任者だったヤッカリーノがマスクの後任にふさわしいことは間違いないが、彼女の実績や専門知識は、結局のところ重要ではないかもしれない。女性がアメリカの企業の上層部に昇進しても、彼女たちには往々にして不利な立場に置かれる。特に、会社がすでに問題を抱えている場合には。
「この仕事にふさわしい人物がいるとすればリンダであり、個人的には彼女を応援している」と、スナップチャット(Snapchat)の親会社スナップ(Snap)とインスタグラム(Instagram)の元幹部で、現在はテクノロジー企業の戦略アドバイザーとして働くメガーナ・ダール(Meghana Dhar)はInsiderに語っている。
「だが、彼女がどうしようもない立場に置かれていることも心配している」
女性と「ガラスの崖」
女性が会社で昇進するにはさまざまな障壁があることが調査でも明らかになっている。男性は、「ガラスのエスカレーター」に乗って滑るようにオフィスの上の方へ行くことができるが、女性は「ガラスの天井」に直面することが多い。
イギリスのエクセター大学(Exeter University)の2人の学者が2005年に作った造語「ガラスの崖」もそれに関連するものだ。彼らの調査によると、女性は危機的状況で指導的な役割に任命される可能性が高く、その結果、失敗する可能性が高くなるのだという。さらにアメリカで最近行われた調査でもこの傾向が確認されており、他の研究ではこの事象が有色人種にも当てはまることが判明した。
ダールはこの事象の例として、ヒューレット・パッカード(HP)のカーリー・フィオリーナ(Carly Fiorina)、ヤフー!(Yahoo!)のマリッサ・メイヤー(Marissa Mayer)、そして売り上げが落ち込む中、2022年ベッド・バス&ビヨンド(Bed Bath &Beyond)のCEOに就任したスー・ゴーヴ(Sue Gove)を挙げた。ベッド・バス&ビヨンドはその後、破産申請している。
ツイッターの混乱は周知の事実だ。イーロン・マスクは同社の従業員を約7500人から約1000人に削減している。また、サイトには誤った情報が掲載され、一部の広告主は逃げ出している。一方、ツイッターブルー(Twitter Blue)のような有料機能を通じて同社の財務を強化するというマスクの計画はまだ実現していない。
誤解のないように言っておくが、ダールはマスクが新しいCEOを妨害しようとしているとは思っていない。マスクが、製品、ソフトウェア、システム運用を監督する会長と最高技術責任者(CTO)という2つの役割を担い、ツイッターで活動を続ける意向を示したことにもダールは言及している。
「マスクの下では多くの混乱が起きている。リンダは、マスクがまだそこにいる中で、ツイッターを掘り起こさなければならない。その間、彼女は世間の注目を集め、ツイッターの立て直しをやり遂げなければ非難を浴びることになる」
企業の女性取締役2500人の世界的なネットワーク、Women Corporate Directorのジェニファー・レイノルズ(Jennifer Reynolds)CEOは、「ガラスの崖」が存在する理由の一つとして、女性が課題管理に向いていると考えられがちであることを挙げている。
「危機的な状況において、女性は優れたリーダーになると思われている。我々は良い協力者、良い聞き手として見られており、困難な問題がある状況下では様々な利害関係者たちをまとめる能力があると考えられている」とレイノルズは話す。
「我々女性はこのような資質を持っていると認識されている。しかし困ったことに、このような状況では、成功する可能性は小さい。良い状況の時にも良いリーダーとして見られていればいいのだが」
「危機的な状況において、女性は優れたリーダーになると思われている。
しかし困ったことに、このような状況では、成功する可能性はより難しくなる。
良い状況の時にも良いリーダーとして見られていればいいのだが」
(ジェニファー・レイノルズ)
職場における多様性の重要性について対話が行われている現在、ヤッカリーノのCEO就任は、大企業を率いる女性が少数であることを浮き彫りにしている。フォーチュン500企業のCEOのうち、女性は10人に1人程度しかいない。
フィンテック企業のCartaの多様性への取り組みの責任者で、近刊『インクルージョンの再構築(Reimagine Inclusion)』の著者でもあるミタ・マリック(Mita Mallick)は、実際に自身が「ガラスの崖」を体験している一方で、この概念は女性の「信用を落とす武器にもなり得る」とも考えていると話す。
それがヤッカリーノに起きることなのかもしれないとマリックは言う。
「彼女は広告主と協力してキャリアを築いてきたので、まさにツイッターが直面する問題を解決するのには最適な人材だ」
「私はこの言葉(ガラスの崖)を否定するつもりはないし、彼女たちの経験をなかったことにしているとも思われたくない。だが、もしヤッカリーノと同じような経歴のある男性がマスクの後を引き継いでいたら、我々はこのような話をしないだろうということを指摘しておきたい」