株主総会シーズンがやってきた。自社株買いなどの株主還元やESG施策、取締役の選解任……アクティビスト(物言う株主)の活発化や、東京証券取引所によるPBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業への改善要求などを受け、「株主提案」が数、注目度ともに急増している。
こうした動きに対し、企業をサポートする保険が大手AIG損害保険から登場した。国内でいま、どんな需要が出始めているのだろうか。
「役員選解任」の株主提案で弁護士費用を補償
急増する株主提案に対し、企業をサポートする保険が登場しました。
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AIG損保が新設したのが、株主提案を受け取った企業に対し、500万円を上限に弁護士費用を補償する「株主提案対応費用特約」だ。もともとあった役員向けの保険(マネジメントリスクプロテクション保険)に、特約として付けることができる。
株主提案と一口に言っても、剰余金配当、定款の一部変更、取締役の選解任、買収防衛策の廃止など多岐に渡るが、今回AIG損保が対象とするのは「役員の選任・解任を求める株主提案」についてだ。
弁護士に求められる役割は、株主提案が会社法などに定められた要件を満たしているか確認し、企業と共に対応方針を策定。企業が賛成や反対などを意見表明する書面のリーガルレビューをすることなどだ。
補償上限の500万円は少額にも思えるが、AIG損保によると、こうした案件の弁護士費用としてはスタンダードな金額だという。
海外では企業がアクティビストに対応する際の保険など類似のものはあるが、日本では珍しい。5月の販売開始以降、反響は上々だという。
経営トップの選任に厳しい目、背景にアクティビスト
AIG損保がこうした特約を販売する背景には、近年、急増する株主提案の存在がある。大和総研によると2022年6月の株主総会シーズンになされた株主提案は97社・330議案と、過去最多を記録した。
中でも主要企業500社(TOPIX500採用企業)では、経営トップの選任議案における平均賛成率が前年から1.8ポイントと大幅に低下したことは注目すべきだろう。反対された企業は、不祥事や低ROE(自己資本利益率)、独立社外取締役が3分の1未満・女性が不在など取締役会の構成に課題があることが多かった。
2022年に入ってからも数多くの株主提案がなされており、セブン&アイ・ホールディングスがアメリカの投資ファンド・バリューアクトから、東洋建設が任天堂創業家の資産運用会社ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)から、コスモエネルギーHDが旧村上ファンド系のシティインデックスイレブンスから取締役の選解任を巡る株主提案を受けている。
キヤノンが3月に開いた株主総会では、御手洗冨士夫会長兼社長の再任に対する賛成比率が50.59%にとどまったことも大きな話題を呼んだ。アメリカの議決権行使助言会社であるインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)が、御手洗氏の再任反対を推奨していた。
AIG損保の担当者は、
「アクティビストの活動が活発になっていること、日本版スチュワードシップ・コード(行動指針)を採用する機関投資家が増えていることなどを受け、今後も株主提案は増えていくと考えています。
株主提案に適切に対応できない企業はレピュテーションが毀損されるだけでなく、役員が損害賠償請求を受ける可能性も。
AIG損保は日本で30年以上、役員賠償責任保険を販売してきたパイオニアです。役員を取り巻くリスクについて、時流に合った商品を届けたいという思いでした」
と語る。
企業は株主と健全な対話を
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東京証券取引所の動きも、株主提案を後押ししている。PBR(株価純資産倍率)1倍割れやROE8%未満の企業を問題視し、改善を要求。株主との対話や、その内容を開示することを企業に求めているからだ。
AIG損保の担当者は、「これは株主提案に反対するための保険ではない」という、興味深いコメントもした。
「保険の対象である役員の選解任に関する株主提案では、会社側は反対するケースが多いです。ですがこの保険は、会社が株主提案に反対することをサポートするためのものではありません。
『物言う株主』という言い方がなされますが、そもそも意見するほうが普通だという議論もある。『物言わない株主』が当たり前だった時代から、大きな変化が起きています。
生え抜きの社長ってどう? とか、独立した社外取の重要性など、会社を経営するのにふさわしいのは誰か、さまざまな視点からの株主提案が増えている。
今回の保険を通じて、企業と投資家が健全な対話をするための環境づくりをサポートしていきたいですね」