成人期ADHD患者の多くは、自分は他人よりも劣るのではないかと苦しみながら成長してきた。
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- 専門家によると、成人期ADHD(注意欠陥多動性障害)患者は自分が関心を持てない作業に集中するのが苦手だ。
- 一方、ADHD患者がいったんお金に集中しだすと、今度はそればかりに目が行くようになることも多い。
- ADHD患者がお金を管理するには、外部から助けを借りる、十分に時間をかけてじっくりと決断する、などといった戦略が必要になるのだ。
アメリカ合衆国では現在、1000万の成人が注意欠陥多動性障害、いわゆるADHDを患っている。この複雑な神経性の病気は、仕事や学校での課題にはじまり、人付き合い、あるいは身のまわりの整理整頓にいたるまで、日常のあらゆる場面で患者の生活に影響を及ぼす。
したがって、成人期ADHDが個人の資産管理や、金銭的な幸せに影響するのも当然だと言える。その一方で、成人期ADHDの患者であっても、個人の資産をうまく管理できると、専門家は指摘する。
ADHDが資産形成にもたらす5つの課題
まずは、成人期ADHDが個人の資産に影響を与える5つの理由を確認していこう。
1. 金銭の管理に押しつぶされそうになる
ADHDの成人患者のなかには、数字、銀行口座やクレジットカードの明細、個人資産の様子を示す便利なチャートや図表を見るだけで、圧倒されてうろたえる人が存在する。
アリゾナ州フェニックスでマーケティングコンサルタントとして働きながら、メンタルヘルスやADHDに関する情報も発信しているサラ・ポッター氏(34歳)もそうだった。
「仕事関係の金銭管理にクイックブックス(QuickBooks)を使ったとき、視覚的な意味で完全に圧倒された」とポッター氏は語る。「どうしても集中できなくて、最後にはあきらめた」
そのため財務が滞り、その月はマーケティングコンサルタント業の帳簿と個人の家計簿を調整できずに終わったという。
2. ちょっとしたことが大問題になる
ADHD患者は時間感覚を失い、ある作業や計画にどれほどの時間が必要になるか、わからなくなることがある。その結果、期限を逃したり、予定や約束に遅れたりしてしまうのだ。
期日までに納税申告をしなかったり、請求書や駐車場の支払いを忘れたり——そのせいで、罰金や追徴金を支払う羽目になる。気づいたときにはすでに支払期限が過ぎていて、ストレス、無力感、恥などの感情にさいなまれて、精神的にまいってしまうという。
「ADHD患者は、何か新しくて魅力的な物事に夢中になってしまう」と、『Feeling Good!: A Mental Health Workbook』の著者で、メンタルヘルスの専門家としてロサンゼルスで活躍するコジョー・サルフォ博士は語る。
「税金や金銭管理、あるいは小切手帳のやりくりなど、楽しくない作業は手つかずになってしまいがちになる。そうした作業は『今はまだいいや、また今度』と後回しにされるのだ」
3. お金を使いすぎることもある
ポッター氏は自分に浪費する傾向があることに気づき、まわりの人々は自分のことを衝動買いばかりする愚かな浪費家と思っているのだろうと考えるようになった。「私が浪費しなかったわけでも、浪費していることを気にしなかったわけでもない」とポッター氏は言う。
「お金を管理しようと真剣に思っている。だが、それぞれのピースがどうつながっているのかが、わからないのだ」
金銭管理で悪戦苦闘する人が多いのは、お金はいつも入ってくるよりも出ていくほうが早いからだと、サルフォ博士は説明する。そうなる理由はさまざまだろうが、その1つとして、ADHD患者はリスクを冒す傾向が強いことが挙げられる。サルフォ博士はこう言う。
「経済的なリスクに直面したり、買いたいものがあったりする場合に、『今はお金がないけれど、そのうち手には入るはず』と自分に言い聞かせるのだ。そうやって、ときに衝動的になってしまい、特別な感覚を得たい、ドーパミンがあふれ出るのを感じたい、などといった理由から、決断を下そうとする」
4. 資産管理に集中しすぎてしまうこともある
ADHDを患うと何に対しても集中できなくなると考える人が多いが、それは誤解だ。ADHDがきっかけで1つのことに極度に集中してしまい、そのほかのすべてがおろそかになることもある。サルフォ博士もお金の管理に執着するようになった患者を何人か知っている。
彼らは、お金の管理をおろそかにしたせいで大量の現金をなくしてしまった経験があり、それがきっかけになってお金に執着するようになった。「そうした経験は大きな不安を引き起こすことがある」とサルフォ博士は言う。
「たとえば、4ドル(約540円)の買い物は大きな意味での収支にはたいした影響を及ぼさない。だが、彼らは何としてでも損失を防ごうとするので、結果としてどんどん不安になっていくのだ」
5. 職業における自分の価値を正しく理解していない
比較的年をとってからADHDと診断された人は、自分の能力に自信がないことが多い。そのため、自分のキャリアに見合った対価を求めることにも消極的になる。
ポッター氏の場合、ADHDと診断されたのは大人になってからで、それまでは同級生よりも才能も知性も劣っていると思い込んで育ってきた。そのため、マーケティングコンサルタントとしても、ほかの同業者よりも料金を低くしなければならないと感じていたという。
「もっと稼ぐにはどうすればいいのか、わからなかった」とポッター氏は言う。「私は、『料金設定にはADHDの影響が関係してくる』と考えて、仕事を得るために料金を低くしなければならないと思っていた」
ADHD患者が資産形成するための4つの対処法
では、実際にADHD患者は、どのように資産形成していけばいいのか? それには、以下の4つ方法が有効だ。
1. 助けを借りる
ポッター氏は仕事上の収支を管理するために、ファイナンスの専門家に助けを求めた。また、数年前に結婚してからは、もう一歩踏み込んで、配偶者に夫婦間の金銭管理の大部分を託すことにした。
厄介な金銭問題で役に立つ身近な選択肢として、ロボアドバイザーなども挙げることができる。あるいは、ファイナンシャルセラピストに頼るのもいいだろう。
2. 難しい作業と楽しい作業を組み合わせる
予算管理や確定申告などの作業をとても面倒で楽しくないと感じるのなら、何らかのご褒美など、楽しいことと組み合わせるのがいいとサルフォ博士は勧める。
3. 時間に余裕をもたせる
一見したところ単純な作業でも、それにどれぐらいの時間がかかるかを正確に知るのは難しいため、余分な時間を初めから計算に入れておくことを、サルフォ博士は提案している。「何かの期限が近づいてきたら、ちょっとしたことが大きな問題になってしまい、それがADHDの悪化を招く恐れがある」
4. 自分の仕事により多くの対価を求める
自分の仕事に対する対価を低く抑えている場合、代わりにより多くの仕事を引き受けなければならなくなり、あるタスクから次のタスクへの切り替えがうまくいかないことが多いADHD患者では特に疲労困憊につながりやすい。
ポッター氏の場合、それまでの料金の3倍を請求するようにしたことで、人生が一変した。
「私は自分に『私にはそれだけの価値がある、それ以上の価値がある』と言い聞かせなければならなかったが、おかげで考え方を変えることができた」