米ソフトウェア大手オラクル(Oracle)のラリー・エリソン共同創業者兼会長兼最高技術責任者(CTO)。
REUTERS/Robert Galbraith
医療情報技術大手サーナー(Cerner)を283億ドル(約3兆8000億円、当時のレート)で買収したオラクルが、2022年6月の手続き完了後から最近までに、昇給・昇格の凍結や大規模なレイオフ(一時解雇)を実施していたことが分かった。
サーナーの現役および元従業員4人がInsiderの取材に応じ、詳細を明らかにした。
オラクルは、買収合意時に2万8000人いたサーナー従業員のうち、3000人以上を解雇。昇給・昇格も凍結した上で、2023年初頭の時点で年内の凍結解除は困難との見通しを従業員向けに発表していたという。
実際に人員整理が行われたのは今年5月に入ってからで、マーケティング、エンジニアリング、経理、法務、プロダクトなど幅広い部門が影響を受けた模様だ。
オラクルはInsiderの取材に対しコメントを控えるとしている。
サーナーほどの大企業買収に際して、こうした規模感の人員整理が実施されるのは珍しいことではない。
しかし、サーナーの元経営幹部によれば、人員削減に加えて昇給の凍結、同社が米カンザス州カンザスシティ西部に長く保有していたオフィスタワーの売却なども重なり、従業員たちの士気は「ひどく低下」しているという。
また、相次ぐ最高幹部の交代も士気に影響を及ぼしているようだ。
オラクルの買収に先立つ2021年10月、サーナーはグーグルのバイスプレジデント(ヘルス担当)デイビッド・ファインバーグ博士を新たな最高経営責任者(CEO)として迎え入れた。
ファインバーグ博士には同社の新たな未来を切り開くリーダーシップが期待されていたが、買収後は「儀礼的」な仕事を担うだけの立場に追いやられた模様だ。
リンクトイン(LinkedIn)のプロフィールを見ると、ファインバーグ博士は2022年9月にCEO職を離れ、その翌月、オラクルが最重要事業と位置づけるヘルスケア部門「オラクル・ヘルス(Oracle Health)」の「会長」に就任している。
ファインバーグ博士にコメントを求めたが、記事公開までに返答は得られなかった。
買収手続きの完了後間もなく、オラクルのラリー・エリソン会長兼最高技術責任者(CTO)は、同社の共同CEO候補として名前を挙げていた時期もある有力経営幹部のドン・ジョンソン氏を、先述のオラクル・ヘルス部門のエンジニアリング担当に就任させた。
ところが、そのジョンソン氏も今年1月に突然、同ポストを離れた(詳細は今年1月31日付の過去記事を参照)。
サーナーの事実上の(もしくは社内的な)経営トップは現在、同社の全社会議を担当していることから、オラクル・ヘルス部門のゼネラルマネージャーを務めるトラビス・ダルトン氏が担っているようだ。
ダルトン氏は2001年から20年以上にわたって、先端技術イノベーションや医療サービス企業との協業、政府機関向けサービス部門の陣頭指揮などで大きな実績を挙げた。
米国防総省のヘルスケアマネジメントシステムや米退役軍人省の電子カルテのリプレースプロジェクトでは、巨額契約の獲得プロセスを含めて中心的な役割を果たした人物だ。
オラクルにとってサーナーは過去最大の買収案件であり、合意直後にエリソン会長が自身の言葉で、サーナーと協力してオラクルのクラウド上に「革命的な」医療情報システムを構築し、医療機関や公衆衛生当局が組織の枠組みにとらわれず患者データにアクセスできる仕組みを新たに創出すると語っている。
ただ、その壮大なビジョンは早くも大きな試練に直面している。
詳細は2022年8月4日付の過去記事に譲るが、上述の退役軍人省の電子カルテリプレース計画は遅延や技術的問題を抱え、当初100億ドルとされていた予算も大幅に膨れ上がり、透明性向上を図るためにプロジェクトの監視を強化する超党派法案が大統領の署名を経て成立する事態に至っている。
この難局を妥当な着地点まで持っていけるかどうかが、サーナーひいてはオラクルの将来を左右すると言っても過言ではない。