ツイッター(Twitter)の経営改革を進めるイーロン・マスク氏。画像は5月、フランスのル・メール経済・財務相との会談時のもの。
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イーロン・マスク氏による育児休業制度改悪に「もう我慢の限界だ」と怒りの声を上げていたツイッター(Twitter)の従業員たちも、いくらか安堵した模様だ。
同社は4月、正式な発表や従業員への連絡なしに、有給の育児休暇期間を従来の20週間から一気に2週間まで削減。経営陣に批判が殺到し、退職の意思を社内でおおっぴらに口にする従業員が散見されるなど、社内の士気が低下していた。
その後、同社の人事部門責任者でシニアディレクターのウォルター・ギルバート氏は事態収拾のため、「地域の定める要件を満たすことを前提に、最低12週間の有給休暇が付与される」との見解をメール(5月6日付)で表明し、「来週、追加情報をお送りする」としていた。
内情に詳しい関係者2人によれば、ギルバート氏は約束通り、5月12日にメールで新たな方針を示した。
それによれば、ツイッターは全ての従業員に7週間の有給育児休暇を付与し、「出産する親(birthing parent)」には、それに加えて9週間の有給休暇が付与されることになった。
したがって、母親は最大16週間の有給育児休暇を取得できる。
同時に、「出産しない親(non-birthing parent)」の有給休暇についても詳細が定められた。父親もしくは(出産せず)養子縁組をする両親には、同社在籍1年未満の場合は最大3週間、1年以上の場合は最大7週間が付与される。
つまり、父親は最大14週間の有給育児休暇を取得できる。
同社は従来、出産・育児期の全ての両親に20週間の有給休暇を付与していた。それを考えると、4月の制度変更時より改善されたとは言え、マスク氏の買収前に比べるとまだ改悪された状態のままだ。
マスク氏とツイッターの広報担当にコメントを求めたが返答は得られなかった。
テスラの福利厚生制度に近づいた
今回示された新たな有給休暇制度は、マスク氏が経営する電気自動車大手テスラ(Tesla)のそれに近いものだ。
テスラでは全ての従業員が最大16週間の有給育児休暇を取得できる。が、それはあくまで最大の話で、今回のツイッターの制度変更と同じように、細かく条件が定められている。
出産する親に条件なしで付与される休暇は9週間。在籍1年以上の場合はさらに6週間の休暇を取得でき、加えて「テスラ・チャイルド・ボンディング(Tesla Child Bonding、子供との絆を意味する)」と呼ばれる1週間の有給育児休暇も付与されるので、合計16週間になるという寸法だ。
一方、出産しない親、つまり父親もしくは養子縁組をする両親は、在籍1年以上なら最大6週間の有給育児休暇を取得できる。同社が作成した資料によれば、チャイルド・ボンディング制度は出産・育児期の全ての両親が利用できるので、最大7週間となる。
マスク氏はツイッター買収直後から、大規模な人員削減、リモートワークの廃止、カフェテリアでの食事無償提供の廃止など、劇的なコスト削減策を次々に実施してきた。
とりわけ従業員数はこの半年間で約9割削減され、すでに1000人程度しか残っていない。その状況で「乾いた雑巾(ぞうきん)を絞る」ような休暇制度の変更が突如行われたことから、マスク氏の経営改革を支持する従業員の間ですら反発が強まっていた。
内情に詳しい関係者は、一連の育児休暇削減について、マスク氏の下でここまで進められてきた大幅なコスト削減を踏まえれば、もはや「必要ない」措置と指摘する。
そうした必要ない措置が導入されること自体が、マスク氏と彼がツイッターに送り込んだ経営チームの「従業員との断絶・対立」を示していると、同関係者は強調した。