自宅のPCから工場現場のクレーンを操作する —— そんな未来に挑むのが、東京大学・先端科学技術研究センター発のスタートアップ「ジザイエ」だ。シードラウンドで約1.5億円をVCやコベルコ建機、Chatworkの山本正喜CEOら個人投資家を引受先とした第三者割当増資によって調達したと発表した。
遠隔操作技術を用いて、コロナ禍を経てもリモートワークが進まないエッセンシャルワーカーやブルーカラーワーカーの労働環境改善や、現場の人手不足解消を目指す。
遠隔でも臨場感ある機械操作
資金調達の記者会見に登壇したジザイエの中川純希CEO(右)と、創業者で会長の稲見昌彦東大教授(左)。
撮影:竹下郁子
ジザイエは2022年11月に創業したばかり。手掛けるのは、「JIZAIPAD(ジザイパッド)」と名付けた「遠隔就労プラットフォーム」だ。土木・建築現場や食品工場などの現場にカメラを設置。リアルタイムで映像を転送し、タブレットなどを通じて離れた場所からでも機械を操作できるという。
現在は特定の業種に絞ったプロトタイプを作成して、いくつかの現場で試験的に使ってもらっている段階で、正式なローンチは半年以内の目処だ。
ロボットアームや搬送ロボットなど、さまざまな機械をワンストップで遠隔操作できるインターフェースを開発し、将来的には介護や接客など幅広い業種に展開していきたいという。
撮影:竹下郁子
ジザイエCEOの中川純希さんは言う。
「現場の映像を通信環境が悪くても高画質で転送すること、そして現場にいるかのような臨場感をもって機械を操作できることに注力して開発してきました。
コロナ禍でリモートワークが広がっても、エッセンシャルワーカーやブルーワーカーの方々はなかなかできないのが現状です。そんな皆さんが自宅のデスクからでも遠隔で就労できるようにしたい。
最終的には、多様な業種の遠隔就労のジョブマッチング機能まで備えたプラットフォームにしたいと思っています」
新人も熟練工と同じ作業が可能に
稲見昌彦東京大学教授。
撮影:竹下郁子
そんなジザイエは東京大学・先端科学技術研究センター発のスタートアップだ。
創業者であり、現在は会長を務める稲見昌彦東京大学教授(先端科学技術研究センター副所長)の「自在化身体プロジェクト」から生まれた。
「この分野は遠隔ロボット技術とカテゴライズされることが多いですが、機械学習できることが大きなポイントです。これまでは現場で他の人の動作を見て覚えるしかなかったようなことが、蓄積されたデータを通じてできる。
つまりJIZAIPADを使えば、新人でも現場に入った初日から、熟練工と同じような作業が可能になるんです。ミスを減らすことにもつながり、より安全な労働環境になります」(稲見教授)
コベルコ建機の「K-DIVE」。
出典:コベルコ建機HP
ジザイエの誕生を支えたのが、今回の資金調達を機に業務提携を結んだコベルコ建機の存在だ。同社は神戸製鋼所の子会社で、建設機械の製造・販売を手がける。2017年から稲見教授と建設機械の遠隔操作技術について、共同研究を進めてきた。
2022年12月にはコックピット型で重機などを遠隔操作するサービス「K-DIVE」の販売も開始した。コベルコ建機の取締役常務執行委員、細見浩之さんは言う。
「ジザイエ創業は共同研究の出口だと認識しています。これまで建設機械の遠隔操作で培ってきた技術を他の事業分野にも応用して商品化するとのことなので、我々のような建設機械メーカーではやりきれなかった開発がなされるはず。その中からK-DIVEにも活用できるノウハウが生まれると期待しています」(細見さん)