1〜3月期のGDPプラス成長も、23年後半「個人消費が景気をけん引」説に期待できない理由

国内総生産 2023年1-3月

2023年1〜3月期、物価変動の影響を除いた実質の国内総生産(GDP)は市場予想の中央値を上回り、3四半期ぶりのプラス成長を記録した。

REUTERS/Issei Kato

内閣府が5月17日に発表した2023年1~3月期の国内総生産(GDP)は、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.4%増、年率換算で1.6%増だった。市場予想の中心(年率換算0.7%増)を上回った

日本以外の国々が金融引き締めを続ける中、外需の停滞は鮮明になってきており、輸出の落ち込み(前期比4.2%減)などが全体を押し下げた。

一方、コロナ禍からの社会経済の正常化が進捗したことで、内需の柱である個人消費が大きな伸び(同0.6%増)を示し、全体を押し上げた。

端的に言えば、外需の下押しを内需の上振れが相殺した形だ。4~6月期も似たような動きが想定される。

3四半期ぶりのプラス成長を記録したものの、コロナ前の水準はいまだに回復できていない。根拠薄弱な防疫政策のために日本経済が負った傷は、思いのほか深かったと言わざるを得ない【図表1】。

図表1

【図表1】主要国の実質国内総生産(GDP)の推移。2019年3Q(7〜9月期)を100としてパンデミック前の基準と位置づけたのは、消費増税や台風19号の影響を強く受けた4Q(10〜12月期)との比較を避けるため。

出所:Macrobond、内閣府資料より筆者作成

金額でコロナ前と比べると、2023年1~3月期の実質GDPは、2019年通年の平均額よりも0.6%少なく、消費増税直前の2019年7~9月期より1.5%少ない。

また、増税直前の四半期は駆け込み需要による押し上げの影響があるため、参考まで同年1〜9月の3期平均額と比較してみると、やはり1.3%少ない。

なお、政府やメディアは2019年10~12月期の数字を「コロナ前」の水準としがちだが、消費増税と台風19号の影響でGDPが強く押し下げられた同四半期と比較するのでは、コロナ禍からの回復状況を見誤ることになる。

上の【図表1】もその前提に基づき、2019年7~9月期を基準時点(100)として相対値で示した。

実質所得は改善に向かうも…

国内で生み出された付加価値の「量」を示す実質GDPに対し、一国の経済の「購買力」を示す実質国内総所得(GDI)は、資源高と円安の長期化を背景にここしばらく悪化の一途をたどってきた。

しかし、それも改善に向かう動きが見られる。

原油価格は2022年半ばに、円安相場は2022年10月に、いずれもピークを迎え、交易条件(貿易での稼ぎやすさ)はようやく改善し始めている。

具体的な数字を見ると、交易条件の変化によって生じる国内から海外への所得流出を示す交易損失(対GDP)は、2022年7~9月期の前期比年率3.5%減を底として、10~12月期には同3.3%減へと10四半期ぶりの改善に転じ、2023年1~3月期も同2.7%減と改善が続いている【図表2】。

図表2

【図表2】物価変動の影響を除いた実質国内総生産(GDP)、実質国内総所得(GDI)、交易条件の推移。

出所:内閣府資料より筆者作成

今回内閣府が発表した2023年1〜3月期の実質GDIは前期比1.0%増で、実質GDPの同0.4%増に比べると、巻き返しの勢いは倍速以上だ。

ただし、実質GDIと実質GDPのかい離が依然として大きいことは見逃せない。

コロナ禍が顕在化した2020年1~3月期以降について、実質GDIと実質GDPの成長率を累積すると、前者が0.7ポイント減、後者が1.8ポイント増となり、この間の経済成長に見合った実質的な所得の増加を国民は体感できていないと考えられる。

1〜3月期は堅調な個人消費の伸びが確認されたものの、コロナ禍で抑制されていた消費者の需要が一気に表面化したペントアップ(繰越)需要の結果と理解される。無駄に長期化した感染対策、防疫政策が生み出した皮肉な副産物とも言えるだろう。

「2023年は円高の年」説はどこへ?

交易条件の改善とそれに伴う個人消費の復調は4~6月期以降も日本経済の原動力になると期待される。

新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが、外出自粛を要請するなど強い措置をとることができる2類相当から季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げられたことで、正常化の動きはさらに加速し、消費・投資意欲を焚きつけるだろう。

しかし、そうした堅調な経済回復に連動して交易条件も改善されていくかと言うともちろんそんなことはなく、相変わらず資源価格や円相場などの動きに依存せざるを得ない。

過去の寄稿でも繰り返し指摘してきたことだが、過去10年あまりの間に起きた貿易赤字の慢性化など円相場を左右する需給構造の変化を背景に、足元は円安基調が続く。

少なくとも「2023年は円高の年」といった過去に幅を利かせた楽観的な見方は、すでに鳴りを潜めている。

米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げペースを減速し、年半ばには利下げに転じる展開を市場が織り込み始めているにもかかわらず、円は対ドルで値下がりが続く。5月18日には137円台後半を付けて2023年の最安値を更新、2022年12月の円安・ドル高水準まで逆戻りした。

この流れが続くのだとすれば、2023年後半に交易条件が改善するような展開はもう期待できないだろう。

原油価格は2022年10~12月期の80ドル前後よりやや下がったものの、1~3月期が1バレル75ドル程度、4月以降も70~75ドル程度と横ばいで推移しており、資源価格の下落にけん引されて交易条件が改善していく展開もあまり想像できない。

2022年末時点では盛んに聞かれた、実質GDIの改善とそれに伴う個人消費の復調が景気をけん引するとの見立ては、ますます怪しくなってきたように思う。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

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