アンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)の共同創業者マーク・アンドリーセンは、個人投資家としてもさまざまなスタートアップやファンドに投資している。
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複数の関係者によると、米シリコンバレーの最有力ベンチャーキャピタル(VC)、アンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz、通称A16z)はここ数カ月、アーリーステージ投資に特化したファンド・オブ・ファンズ(他のファンドに投資するファンド)の設立に向けて議論を続けている。
A16zの狙いは、ソロキャピタリスト(個人で活動するベンチャー投資家)や新興ファンドへの資金提供を通じ、彼ら彼女らが出資する将来有望な若いスタートアップへの接近や支援を後押しすること。将来大化けするポテンシャルを秘めた有力スタートアップを真っ先に「ロックオン」する試みだ。
今回のファンド設立計画に詳しい関係者3人の証言によると、A16zはここ数カ月、サンフランシスコとロサンゼルスでイベントを開催し、新進気鋭のファンドマネジャーに資金提供の打診を始めた。
6月には、サンフランシスコのサウス・オブ・マーケット地区の中心部にあるオフィスでソロキャピタリストや新興ファンドとの交流会を開催する予定という。
Insiderの取材に対し、A16zの広報担当はコメントを拒否した。
A16zがリミテッド・パートナー(ファンドに出資する有限責任の投資家)から新たな資金を調達しようとしているのか、それとも自社のパートナー陣から集めた資金でファンド・オブ・ファンズを設立するのかは、現時点では不明。
なお、A16zの場合、同社ゼネラル・パートナーのクリス・ディクソン氏のように、個人の立場で他のファンドに投資しているメンバーもいる。
投資家への取材や公式発表によれば、マーク・アンドリーセン共同創業者兼ゼネラル・パートナーも、ルーシー・グオのバックエンドキャピタル(Backend Capital)やパッキー・マコーミックのノット・ボーリングキャピタル(Not Boring Capital)、ライアン・フーバーのウィークエンドファンド(Weekend Fund)など、20以上のファンドやVCに個人的に出資している。
アンドリーセン氏個人の投資ポートフォリオには、ザル・ビリモリア、リ・ジン、キャスリン・ハーンなど、A16zのアルムナイ(退社組)が立ち上げたファンドも数多く含まれる。
こうした個人としての投資をファンド・オブ・ファンズとして一本化すれば、A16zは新規ファンド設立の足がかりを得られるし、他のVCとの競争が激しくなる前のシードステージで、ブレーク寸前のスタートアップに深く入り込むことができる。
A16zとの利害関係を持たないあるソロキャピタリストは、「みんな、ディールフロー(案件の数、つまりは投資機会)が欲しいんです」と指摘した。
ベイン・キャピタル(Bain Capital)やインサイト・パートナーズ(Insight Partners)、ファウンデーション・キャピタル(Foundation Capital)といった同業他社のように、スタートアップにもベンチャーファンドにも投資することで、A16zは案件数を獲得したいのだろうと、このソロキャピタリストは推測する。
(上場企業にも非上場企業にも投資する)クロスオーバー・ファンドのタイガー・グローバル(Tiger Global)のパートナーも近年、同様の戦略を試み、10億ドルを投じてアーリーステージ投資を得意とするベンチャーファンドに多数投資した。
しかし、2022年に入ってスタートアップへの投資環境が冷え込んだことを受け、タイガー・グローバルはアーリーステージ投資戦略を撤回し、ファンドへの出資持ち分を売却し始めた。
タイガー・グローバルが新興ファンドへの資金提供から撤退したのは、同社の出資参画により案件から追い出されることを懸念する既存のリミテッド・パートナーとの軋轢(あつれき)が生じたことや、景気減速に対する懸念が高まったことが理由とされる。
A16zはオルタナ戦略を強化中
A16zのファンド・オブ・ファンズ設立計画は、VCとしての伝統的な事業の枠組みを超えようとする動きの中から出てきたものだ。
同社は2019年、投資顧問法に基づく投資顧問業者(RIA)として正式に登録し、他のファンドへの投資や債券の発行といった非伝統的(オルタナティブ)戦略に資本のより大きな部分を割くことができるようになった。
最近はその流れで、A16zがこれまで出資してきた起業家らの莫大な資産を扱う資産運用部門を設立、米資産運用会社ジョーダン・パーク・グループ(Jordan Park Group)で最高投資(CIO)を務めたマイケル・デル・ブオノを引き抜いてトップに就任させている。
なお、A16zが有望な若手起業家へのアーリーステージでの投資を狙ったのは、今回設立を計画しているファンド・オブ・ファンズが初めてではない。
2022年、同社は創業間もないスタートアップに最大100万ドルを投資するアクセラレータープログラム「START」を発表した。
同社ウェブサイトによれば、同プログラムは多数のスタートアップから「圧倒的な関心の高さ」をもって迎えられ、すでに新規の受付を終了した模様だ。
シリコンバレーでは後発ながら有力VCとして急成長を遂げたA16zは、他のVCではあまり例のない暗号資産(仮想通貨)やライフサイエンスなどの領域に特化したファンドの立ち上げで存在感を示してきた。
伝統的なVCのビジネスモデルにはない、ファンド・オブ・ファンズという新領域でも存在感を発揮できるのか。VC業界全体がその動きを注視している。