チャーム・インダストリアルは、農業廃棄物をバイオオイルに変換し、それを地中の穴に送り込んで、二酸化炭素を閉じ込めている。写真はその穴から採取したコアサンプルで、バイオオイルが含まれている。
Charm Industrial
- 20社あまりの企業が、チャーム・インダストリアルから5300万ドル相当のカーボンクレジットを購入する。
- チャーム社は、トウモロコシの茎やその他の植物性廃棄物をバイオオイルに変換し、それを地中の穴に送り込む。
- 気候科学者は、地球温暖化を壊滅的なレベル以下に抑えるためには、二酸化炭素の除去が不可欠だと述べている。
すべてのオイルが地球に悪影響を与えるわけではない。
20社余りの企業が、チャーム・インダストリアル(Charm Industrial)から5300万ドル(約73億円)相当のカーボンクレジットを購入するという計画が2023年5月18日に発表された。チャーム・インダストリアルとは、トウモロコシの茎や葉など、農作物の収穫後に出る廃棄物をバイオオイルに変換するスタートアップだ。そして炭素がたっぷりと含まれたオイルは、地中の穴に送り込まれ、そこで永久に貯蔵される。
これは、有機物の分解により排出されたガスが、大気をさらに温めるのを防ぐために行われる。バイオオイルは数日で固まり、二酸化炭素は100万年間閉じ込められるとチャーム社は試算している。
今回の取引は、炭素除去産業が関わるものとしてはこれまでの最大規模で、2024年から2030年の間に11万2000トンの二酸化炭素が大気中に放出されるのを防ぐことになる。これは、チャーム社が試験的なプログラムの下でこれまでに除去した6055トンをはるかに上回る量だ。
同社の共同創業者でCEOのピーター・ラインハルト(Peter Reinhardt)は、「今回の取引は、資金調達や上場、キャパシティの増強に大きな助けとなる。需要がないもののキャパシティを増強するのは困難なので、取引が合意に至ったことは本当にインパクトがある」とInsiderに語っている。
今回の取引は、フロンティア(Frontier)の主導によるものだ。同社はストライプ(Stripe)、アルファベット(Alphabet)、ショッピファイ(Shopify)、メタ(Meta)、マッキンゼー・サステナビリティ(McKinsey Sustainability)が2022年に10億ドル(約1384億円)を拠出して、炭素除去市場を盛り上げようと設立された。チャーム社との取引以前にフロンティアが炭素除去に費やした資金は、560万ドル(約7億7500万円)だった。
気候学者は、温暖化による壊滅的な被害を回避するには炭素除去が不可欠だと述べている。各国が温室効果ガスの排出量を削減したとしても、「パリ協定」で示された「地球の気温が産業革命前と比較して1.5℃以上上昇するのを防ぐ」という目標の達成は困難だと見られているからだ。それを達成するには、2050年までに数十億トンもの二酸化炭素を大気から除去する必要がある。
炭素除去の技術にはさまざまなものがある。スタートアップのClimeworksは、ファンを使って空中から二酸化炭素を引き寄せている。鉱物が二酸化炭素を取り込む風化作用を強化して利用するところもある。
チャーム社は、農家から購入した農業廃棄物を、パイロライザーという熱分解装置で加熱する。この過程で、バイオオイルとバイオチャール(バイオ炭)が生成される。バイオオイルは、石油ガス会社が使っていた産業廃棄物を貯蔵する注入井や塩の採掘のために掘られた穴に注入され、アメリカ環境保護庁の規制に基づいて処理される。
「使用済みとなった石油ガス会社の資産を一掃するよい機会だ。これらの放棄された穴からは、オイルやメタンが漏れているかもしれない。そこに(バイオオイルを)注入することで適切に穴をふさぐことができる」とラインハルトは述べている。
また、バイオチャールを農家の畑に戻すことで、土壌の状態が改善され、さらに炭素を蓄えることにもつながる。だがその炭素量は、除去量測定の際にカウントされていない。ライフサイクル分析における炭素除去量は、地中へ注入された炭素の総量から、輸送や熱分解、注入に要した動力による炭素排出などを差し引いて算出される。
現在、チャーム社は炭素除去量1トン当たり600ドル(約8万3000円)を請求しているが、ラインハルトによると、同社の規模が拡大すれば、2040年には100ドル(約1万4000円)以下にまで下がる可能性があるという。
彼らの事業規模拡大には、バイオマス(農業廃棄物)をより多く入手する必要がある。バイオマスは、再生可能なディーゼル燃料や持続可能性の高い航空燃料の材料としても使用されている。だがラインハルトはバイオマス不足の心配はしていない。
「(バイオマス不足について)学界では理論的な問題として扱われているが、実際にはそんなことはない。本当に大規模になれば、バイオマスをどうやって入手するかという問題が出てくるかもしれない。だが今は有りあまるほどだ」