Reuters
不安定な経済、冴えない企業業績、今まさに話題となっている米政府の債務上限問題などに多くの投資家は頭を悩ませているが、ルーク・バーズ(Luke Barrs)氏は心配していない。
ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(GSAM)の顧客ポートフォリオマネジメント・グローバル責任者を務めるバーズ氏は、市場の動きを注視しているが、それよりも自分の投資が3~5年でどのようなパフォーマンスを示すかをより重視している。3〜5週間でも、3カ月〜5カ月でもない。
長期的な視点に立つことで、パニック売りを呼ぶような数多くの懸念材料に直面しても、バーズ氏は平静を保つことができる。実際、市場が混乱すると、彼はチャンス探しに動くこともある。
「選択眼を持ち、投資先について熟考している限り、ネガティブなニュースやセンチメントによってディスカウントされているチャンスを見つけることができる」とバーズ氏はInsiderのインタビューに語り、こう続ける。
「単純化するわけではないが、仮に、さほど大きくないリスクに対する市場の不安から非常にクオリティの高い企業が無差別に売られているなら、そのポジションを買い集め、3〜5年にわたって大きく成功し続ける高クオリティの成長株に投資するチャンスとなる」
バーズ氏の投資方法
バーズ氏の投資スタイルは、長期的な勝者になるために必要な属性を持ちながら、市場の非効率性によって過小評価されている企業を探すというものだ。
ダイヤモンドの原石を見つけるために、バーズ氏はボトムアップ・リサーチのプロセスを使って、4つの属性を重視する。すなわち、自社の優位性で成長可能、継続的な需要の追い風、健全な社内の運営体制・取り組み、魅力的な評価だ。
理想的には、例えば、政府の支援などの外部要因に過度に依存せず、だが同時に、技術イノベーションや再生可能エネルギーへのシフトなど、需要を生み出す要因からの恩恵を受けられる投資先だとバーズ氏は語る。コントロール可能な要素として、バーズ氏は企業のマネジメントとガバナンスの構造をチェックし、将来の成長が株価に織り込まれているかどうかを判断する。
企業の現在価値とフェアバリュー(公正価値、適正価格)にギャップがある場合、企業は過小評価されている。だがギャップが生じる理由は、市場の性格によって大きく異なる。
アメリカでは、投資家は短期的視点を取りすぎる傾向があり、バーズ氏が「時間軸の非効率性」と呼ぶ状況を招いている。だがインターナショナルな市場で、最も非効率的なことは情報に関することだという。つまり、国内投資家は通常、海外企業、特に海外の中小企業に詳しくないか、評価のための適切なデータを持っていない。
こうした戦略に則って、自身のポートフォリオはグロース志向の高クオリティ銘柄に偏ることが多いが、バリュー志向の企業も一部を占めているとバーズ氏は述べた。
いま投資すべき6つの分野
自身の投資哲学に続いて、バーズ氏はいま狙っている6つの投資先について詳しく説明した。
まずは、1)小型株。小型株は経済状況に敏感であり、今年、成長率の低い環境下では大企業に比べると大きく出遅れている。バーズ氏は、小型株はリセッション(景気後退)に強いとはいえないが、インフレがピークを迎えたことと、それによる経済の再加速から大きな恩恵を受けると考えている。
「小型株は、ここ数年のマクロ経済的懸念からペナルティを受けている部分が数多くある」
「インフレ環境が徐々に緩やかになるにつれて、小型株の成長にとって非常にポジティブな背景となるはずだ」
バーズ氏が最も高い確信を持って長期投資しているのが、2)アメリカを拠点とする半導体メーカーだ。2022年に可決された2800億ドル規模のCHIPS法が示すように、半導体製造への投資は超党派的な優先事項だ。中国との緊張が高まり、新型コロナウイルス感染拡大によってグローバルなサプライチェーンが混乱したことで、アメリカは最先端チップの90%以上を製造しているTSMC(台湾積体電路製造)への依存度を下げる必要が出てきたとバーズ氏は指摘した(訳注:TSMCは、台湾を拠点とする企業)。
「半導体製造装置ビジネスに関連したサービスやツールを提供する企業や、IT企業について考えてみると、結局のところ、あまり軽率なことはいえないが、どの企業がゲームに勝つか、重要な技術を支えるサプライヤーかは関係ない。必要な能力を現地で向上させるしかない」
さらに昨年、地政学的な対立によって明らかになったもうひとつの重要な安全保障上の問題は、アメリカとヨーロッパにおけるエネルギー独立性の欠如だと指摘。2022年2月にロシアがウクライナに侵攻すると、欧米はロシアに厳しい制裁を加えたが、その後の石油不足によるインフレ加速は、世界が依然として、いかにロシアの石油を必要としているかを明らかにした。
この脆弱性に対処するため、アメリカは今後10年、安全保障と環境の両面から3)再生可能エネルギー企業に多額の投資を行うだろうとバーズ氏は述べる。エネルギーインフラやエネルギー貯蔵に関連する銘柄は、こうした長期的変化から大きな恩恵を受けると考えている。
アメリカ以外では、4)新興市場の企業に注目している。新興市場株はこの数年、低迷しており、現在はバリュエーションベースでアメリカ株よりも最大40%低い水準で取引されているという。今後、新興市場株はドル安、業績拡大、中国経済の継続的な回復、観光ブームなどから恩恵を受けるはずだ。
新興市場の中で、バーズ氏が特に気に入っているのは、5)インドだ。インドは他の新興市場に比べると決して安価ではないが、特に製造業の生産性において力強い成長を遂げていると指摘。アップルのような世界的大企業がショップや工場を開設して投資を続ければ、いずれ、今の中国のような経済大国になる可能性があるという。
「特にテクノロジー・ハードウェア分野の大手多国籍企業の多くは、自社のサプライチェーンに注目し、『中国+1戦略が必要』と述べている。つまり、中国から完全に撤退するわけではないが、多様化する必要がある」
インドへの投資は、インドが中間層をベースにした経済を築くための富の循環を作り出すことができるという。そうした変化が起きれば、インドの消費者向け企業、工業用製品企業、民間銀行が最大の勝者となるだろうと考えている。
「インドは大きく成長し始め、世界で最も成長率の高い経済になると考えている。そして、株式市場がこうしたコアな成長要因とうまく連携していることを考えると、投資家にとって、きわめて具体的な投資チャンスが生まれることは、非常にエキサイティングなことになるはずだ」
最後にバーズ氏は、6)日本企業について、投資家にとって「魅力的なチャンス」と呼び、強気の見方を示した。過去数十年、日本経済は低迷してきたが、電気自動車(EV)部品、高級品、美容品などのメーカーはまだ成長の可能性があると述べた。
「日本には、長期的な成長要因に対応するよう事業内容を変化させている企業が存在する。だが誤解されており、一般的な企業のように評価されている」
そして最後に次のように語った。
「もしあなたが、より長期的に、より高いクオリティのグロース企業を見つけられる場所を選択できる目を持ち、そうした企業がROIとROEを高め、利益を投資家に還元することに注力しているなら、きわめて大きな成長のチャンスとなり得る」