Google I/O 2023でプレゼンをする、グーグルのサンダー・ピチャイCEO。
2023年5月18日に開かれたグーグルの全社会議は、社員らがCEOのサンダー・ピチャイ(Sundar Pichai)ら幹部に厳しい質問をぶつける場となった。社員たちの間で最も関心を集めたのは、5月10日に開催されたグーグルの開発者向け年次イベント「Google I/O 2023」で同社が披露した生成AI製品を含む、AIについての質問だった。
ある社員は、「何週間も不手際や恥ずかしいニュースが続いた後」、I/Oでの人々の反応は 「圧倒的にポジティブだった」と語った。しかし多くの社員は、あらゆる製品に生成AIを組み込もうとするグーグルの積極姿勢がもたらす影響について懸念を示している。
Insiderが確認した会議の録音によると、特に注目を集めたのは次の質問だ。
「AIに関する社内目標の多くは、根本的な利益のためではなく、ただ会社がAIを推進したいがためのものだ。自分たちのためにAIを追いかけるのではなく、グーグルはAIでどんな価値を提供するつもりなのか」
ピチャイはその会議で、同社が最近OKR(グーグルをはじめテック企業でよく使われている目標管理手法)を書いたときは、AIをめぐる「変曲点」の時期だったと回答している。ピチャイの説明によれば、このOKRはグーグル製品にAIを組み込むためのチームを「結集」させる目的で書かれたものだという。
「AIを取り入れることで、これらの製品の利便性が飛躍的に増すという暗黙の了解や確信があるのは明らかですが、このような質問が出るのももっともです。
I/O後、各チームでは見直しを行っています。普段はそんなことはしませんが、我々はOKRをもう一度見直し、今年の残りの期間にそれを適応させていきます。今後数日から数週間をかけて、さらにいくつかの大きな目標に反映させます」
人はAI生成コンテンツだけに興味があるわけではない
他にはこんな質問も出た。
「インターネット上には、ウェブサイト、書籍、画像、音楽、動画など、LLM(大規模言語モデル)を使ったAIが生成したコンテンツが氾濫している。このAI生成コンテンツは、やがてインターネットの質の低下を招き、それがグーグルの検索結果の質に直結するおそれがある。この課題にどう取り組んでいくのか」
グーグルの検索担当副社長であるリズ・リード(Liz Reid)はこの質問に対し、同社は「本当に質の高いコンテンツを表示させること」に注力していると回答した。
「人々がコンテンツを作り、アイデアを公開し、ビジョンを共有するプロセスが簡単になるところに、AI生成コンテンツの可能性があると考えています」(リード)
リードによれば、グーグルでは「何が素晴らしいコンテンツなのかということを理解する」ことに焦点を当てた新技術に取り組んでいるという。グーグルが表示する「素晴らしいコンテンツ」が、必ずしもAI生成コンテンツであるとは限らないからだ。
「AIが作るコンテンツにも素晴らしいものはあります。天気予報やスポーツ情報などは見栄えがよくなります。でも、中にはスパムのようなものもある。私たちはそこに着目しています」とリードは言う。
「ユーザーはグーグルや世界から、AI生成コンテンツのことだけ聞きたいわけではありません。他の人たちのものの見方、共感する人々、実体験についても知りたいのです。我々はそこを強化しようとしています。
質の低いものを表示しないだけでなく、どうしたらそういった人の声をグーグル製品にもっと反映させられるか、その方策を見出すことにわれわれは注力しているのです」
AI以外の新製品は利益につながらない?
全社会議では、グーグルが2024年に機械学習やクラウド以外の新しいコンピューター関連のリソースを購入する予定はないとする文書についての、こんな質問も出た。
「グーグルはAI以外の新製品を出しても利益にならないと判断したのか? もしこの文書のとおりなら、新製品を出荷し、YouTube Shortsのような製品のオーガニックな成長に必要な効率化を図るのは難しいだろう」
グーグルのエンジニア部門のバイスプレジデントであるベン・ラッチ(Ben Lutch)は、クラウドや機械学習以外の業務について、同社は「これまでやってきた分野で確実に成長・発売できるよう取り組むべき技術と製品を絞り始めており、優先度が最も高いことのために余力を確保したいと思っている」と答えている。
また、機械学習は「とてもエネルギーを必要とするもの」であり、その需要は急速に高まっているとも指摘している。
「今こそ機械学習のための力を確保し、今ある力を結集してあらゆる機械学習関連製品をできるだけ早くデータセンターに組み込む時です」(ラッチ)
CEOのピチャイもこう付け加えた。
「今後1年、この分野は厳しい仕事が待っています。グッドニュースは、われわれは今、コンピューター計算を必要とするエキサイティングな仕事をたくさん抱えているということ。制約は創造性を刺激するものです。これまでと同様、われわれはこの瞬間を乗り切る手立てを見つけられるはずです」