ゼレンスキー大統領が「人影の石」に込めた思い。広島でのスピーチ、何を語った?

広島でスピーチしたウクライナのゼレンスキー大統領(2023年5月21日)

広島でスピーチしたウクライナのゼレンスキー大統領(2023年5月21日)

Louise Delmotte/Pool via REUTERS

来日しているウクライナのゼレンスキー大統領は5月21日夜、岸田文雄首相との会談後、広島市内でスピーチした。

ゼレンスキー氏は、スピーチの中でロシアの侵略行為や戦争犯罪を強く非難。ウクライナが提案した「平和の公式(平和フォーミュラ)」と呼ばれる10項目の和平案への支持を訴えた。

一方で、「世界には戦争があるべきではないと思います。人類は長い歴史にわたり多くの人生を戦争で失ってしまいました」と述べ、平和への願いを語った。スピーチには平和都市・広島を意識した言葉が随所に散りばめられていた。

原爆死没者慰霊碑に献花する岸田文雄首相とウクライナのゼレンスキー大統領。

原爆死没者慰霊碑に献花する岸田文雄首相とウクライナのゼレンスキー大統領。

REUTERS

「死は空から落ちたり、海から、また放射能からやってきたり、人が人を死なせてきました。人類の歴史は戦争なしでは想像できないと言われていますけど、私たちは人類の歴史から戦争をなくさなければならないとうことを強調しています」

この「死は空から落ちる」という言葉は、7年前に広島を訪問したアメリカのオバマ大統領(当時)がスピーチで用いたフレーズを彷彿とさせる言葉だ。

「71年前の明るく晴れわたった朝、空から死が降ってきて世界は一変しました」(広島平和記念公園におけるバラク・オバマ大統領の演説

「ロシアが世界最後の攻撃国になりますように」

広島でスピーチしたウクライナのゼレンスキー大統領(2023年5月21日)

広島でスピーチしたウクライナのゼレンスキー大統領(2023年5月21日)

Louise Delmotte/Pool via REUTERS

ゼレンスキー氏は、ロシアの侵略行為や、原発の占拠、住民の強制移住や児童の強制連行などの戦争犯罪を批判。「侵略者」「テロリスト」が、ウクライナ人を支配下に置くのみならず、ウクライナという存在を消そうとしていると訴えた。

その上で、昨年11月にウクライナが提案した「平和の公式(平和フォーミュラ)」と呼ばれる10項目の和平案について言及。国際法に則った和平の実現とともに、これが「将来の攻撃国家を止める手段」になりうると語った。

「ウクライナは世界にとって戦争からの救いを提案しています。ロシアが(他国を侵略する)世界最後の攻撃国になりますように。この戦争が終われば、世界で平和がずっと続くように」
「国境がちゃんと認められるように。他の国民を尊敬するように。また、公正な権利が守られるようにしないといけない」
「私たちは文化が違うし、価値観も違うし、国旗も違います。ただし同じように自分たちのために、子どもたちのために、孫たちのために、平和と安全が欲しい」

ゼレンスキー氏が繰り返し言及した「人影の石」

原爆死没者慰霊碑を訪問したウクライナのゼレンスキー大統領。

原爆死没者慰霊碑を訪問したウクライナのゼレンスキー大統領。

REUTERS

ゼレンスキー氏はスピーチの中で、複数回に渡って「人影の石」という言葉をスピーチにちりばめた。

これは78年前、米軍機が広島に原爆を投下した際に、人が座っていた部分が影のように黒くなって残ったとされる石段のことだ。現在、広島の平和記念資料館に所蔵されている。

「私は『人影の石』にならんばかりの危機に陥っていたことのある国から来ました。ただし、我が国の人たちは、戦争そのものをただの“影”にするよう、歴史をひっくり返しました」
「この影が、資料館でしか見られない(=新たな『人影の石』が作られない平和な世界になる)ように」
「ウクライナ人がこれだけ勇敢でなければ、ロシアによる私たちに対するジェノサイドは成功したかもしれない。そして、ウクライナがあったところに、『人影の石』だけが残っていたかもしれない」

ウクライナの再建が「夢」

G7とウクライナによる首脳セッションでの記念撮影。(2023年5月21日)

G7とウクライナによる首脳セッションでの記念撮影。(2023年5月21日)

Susan Walsh/Pool via REUTERS

原爆で荒廃した広島の姿を、ロシアによる侵略で破壊されたウクライナの町並みと重ねるシーンもあった。一方で、戦後に復興した広島についても言及。ウクライナの再建が「夢」と語った。

「敵がウクライナに対して使っている武器は核兵器ではありませんけれども、ロシアの爆弾と砲撃のあとで全焼しているウクライナの街が、広島の街、特に先ほど平和資料館に訪れたときに見た写真の風景にとても似ていたと思います」
「数万人の家族が生きていたところに残っているのは灰と瓦礫です。街があったところに荒廃した野原、家があったところには瓦礫のみが残っています」
「広島は再建されています。私たちは、ロシアが砲撃で瓦礫だらけにしている私たちの街が(今の広島のように)再建されることを夢見ています。また、家が残っていない村が再建されることが夢です」

スピーチの最後には、ゼレンスキー氏を迎えた広島市について言及。日本国民に対する謝礼の言葉を述べた。

「いま、街角ではウクライナの国旗の色が見えますけれど、これはウクライナに対する信頼・支持の表明であります。日本国民のみなさん、ありがとうございます。岸田首相、ありがとうございます。皆さん、ありがとうございます」

「戦争の犠牲者となった全ての方が安らかに眠りますように。平和になりますように」

また、ゼレンスキー氏は質疑応答では、今後日本に期待する役割としてウクライナの復興への支援を挙げた。

*スピーチ内容は会場の同時通訳などによる。

*ウクライナ国営通信「ウクルインフォルム」による全訳はこちら

G7、ロシアに「即時、完全、無条件撤退」求める

広島の原爆死没者慰霊碑に献花するG7首脳。(2023年5月19日)

広島の原爆死没者慰霊碑に献花するG7首脳。(2023年5月19日)

Susan Walsh/Pool via REUTERS

G7首脳は19日と21日のセッションでウクライナ情勢について討議。21日のセッションには、ゼレンスキー大統領も参加した。

19日のセッション後に発表された首脳声明(*仮訳)では「ロシアによる明白な国連憲章違反およびロシアの戦争が世界へ与える影響を最も強い言葉で非難する」とし、「進行中の侵略を止め、国際的に認められたウクライナの領域全体から即時、完全かつ無条件に部隊および軍事装備を撤退させるよう強く求める」「ロシアがこの戦争を始め、この戦争を終わらせることができる」と、表明していた。

また、声明では「平和の象徴」である被爆地・広島の地でG7サミットが開かれたことにも触れ、こう綴られた。

「我々は、『平和の象徴』である広島から、G7メンバーが我々の全ての政策手段を動員し、可能な限り早くウクライナに包括的、公正かつ永続的な平和をもたらすために、ウクライナと共にあらゆる努力を行うことをここに誓う」

アメリカ、F-16戦闘機の供与“容認”へ

ウクライナのゼレンスキー大統領とアメリカのバイデン大統領の会談。(2023年5月21日、広島)

ウクライナのゼレンスキー大統領とアメリカのバイデン大統領の会談。(2023年5月21日、広島)

REUTERS/Jonathan Ernst

G7広島サミットでは、反転攻勢を企図しているとみられるウクライナへの軍事支援をめぐり進展がみられた。

ホワイトハウスのサリバン報道官は20日に広島で会見。F-16戦闘機のウクライナへの供与について、「まずは訓練を行い、その後、同盟国やパートナー、ウクライナと協力して、実際に航空機を提供する方法を決定することが重要」「私たちは彼らが必要とするとき、将来の戦力として必要なものを提供する立場にあると感じている」と発言した。

また、サリバン氏はヨーロッパの同盟国がウクライナにF-16を供与することを容認し、同機を用いたウクライナ軍のパイロットに対する訓練も支援する姿勢を示した。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、近く実行される反転攻勢のためにF-16が必要だとして、各国に提供を求めている。これまでアメリカはロシアを過度に刺激することを警戒。承認なく第三国に引き渡すことを認めていなかった。

*随時、最新の情報に更新します。

Popular

あわせて読みたい

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み