分散投資の第一の目的は、投資リターンを最大化することではなく、急激な、あるいは極端な損失を避けることである。
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- 分散投資とは、資産クラスの中で、また資産クラスにまたがって、投資を組み合わせて保有する戦略だ。
- 分散投資の主な目的は、リスクとボラティリティに対するポートフォリオのエクスポージャーを下げることである。
- 分散投資は投資の変動を平準化することを目指しているため、損失を最小限に食い止めるが同時に利益も抑える。
「卵は一つのかごに盛るな」という投資格言を知っているなら、分散投資の基礎は理解していると言えるだろう。
分散とは、複数の投資商品、さらにはさまざまな種類の商品に投資を広げることにほかならない。これは、特定の資産や資産グループが損失を被っても、ポートフォリオが保護されるという考えに基づいている。
例えば、1つの株式に資産を全額つぎ込んだ場合、その会社が倒産すれば投資全体が吹き飛ぶかもしれない。そこまで悲惨なシナリオでなくても、会社やその業界が逆風を受ければその株式はあまり上昇しない。
だが、20社に投資をすればリスクを幅広く分散できる。20銘柄のうち5銘柄が下落したとしても、残りの15銘柄が上昇すれば全体としてはまだ儲かっている可能性がある。
分散してもリスクを完全に取り除くことはできない。こと投資に関しては、100%安全なものなどほとんどない。だが、分散することでリスクにさらされる割合(エクスポージャー)を大幅に削減できる。
異なる投資商品は異なる影響を受けるし、株価の変動の度合い(ボラティリティ)も違う。極めて分散されたポートフォリオでは、組入銘柄が互いにバランスを取り合って資産やポートフォリオの成長を安定させる。
分散とは何か?
マネーのプロが分散と言う場合、さまざまな戦略に言及していることがある。次のような目的でポートフォリオを分散することが可能だ。
- リスク水準(低から高まで)
- 投資ニーズ(インカムゲイン、値上がり益、積極的な成長)
- 流動性(純粋なキャッシュから、流動性の低い保有銘柄まで)
- 投資期間(すぐにリターンが上がるものから長期的なものまで)
もちろんこうした分散の目的は重複することがある。積極的に成長を狙う株式は長期的に保有したい銘柄だろうし、流動性の高い投資商品は往々にしてリスクが低い。だがどの戦略も目指すところは同じだ。激しい値動き、特に下落相場の痛手からポートフォリオを守ることだ。
そしてこれらは基本的には同じ方法、つまり、投資商品別に分散することによって実行される。
それぞれの「資産クラス」間での分散
分散の神髄はアセットアロケーションと呼ばれる。簡単に言えば、さまざまな金融商品、つまり資産に投資をすることだ。投資と言えば、資産は大きく次の2つに分けられる。
- 伝統的な資産(通常投資というと思い浮かべるもので、株式、債券、キャッシュのような純粋な金銭商品)
- オルタナティブ資産(不動産のようなより有形資産や、デリバティブのような複雑な金融商品等)
これら大まかな2つの下に複数の小区分、すなわち資産クラスがある。個人投資家の分散ポートフォリオを考えてみよう。
十分に分散されていると見なされるためにはポートフォリオ、あるいは保有資産全体が最低3つ以上の資産クラスで構成されていなければならない。例えば個人投資家の場合、不動産には持ち家が該当する。
個別の「資産クラス」内での分散
資産クラス間での分散に加えて、資産クラス内でも分散することが大事だ。これは、資産クラスの中で最大かつ最も種類が豊富な株式のような資産クラスでは特に当てはまる。
株式の分析方法はさまざまだが、分散と言う場合に最も一般的なのは、セクター、すなわちその企業が属する業界別に企業を捉えることだ。例えばメタ(旧フェイスブック)、アルファベット(グーグルの持ち株会社)、アップル、マイクロソフト株はどれもテクノロジー・セクターに属しており、同じ要因に影響されるうえ、同じような強みと弱みを持つ。そのため、これら企業にだけ投資をするのは決して理想的ではない。
エネルギー、資本財、金融のような別のセクターにはテクノロジーとは違う特性があり、異なる経済状況下では違う値動きを示す可能性がある。ゆえに、こうした異なるセクターへの投資は、バランスの良いポートフォリオ構築に役立つ。
分散投資は、特定の資産の足かせとなる衝撃の影響を軽減し、安全性を提供する。だが、分散が長期的なリターンを大きく損なわずにリスクを軽減する点は、特に興味深い。
1926年から2015年までのポートフォリオの平均リターンとボラティリティに関するフィデリティ・インベストメンツの調査では、「アグレッシブポートフォリオ」(主に力強い成長性を秘めた株式に投資するポートフォリオ)と「バランス型ポートフォリオ」(インカム目的の債券と値上がり期待の株式を均等に組み入れたポートフォリオ)など、複数の方法で分散したポートフォリオの運用成績を比較している。
フィデリティによると、アグレッシブポートフォリオはバランス型ポートフォリオよりも、12カ月リターンが最も良い時と悪い時で79.64ポイントも差があった。だが、こうした極めて高いボラティリティにもかかわらず、アグレッシブポートフォリオの平均年率リターンはバランス型を1.69%しか上回っていない。つまり、バランス型ポートフォリオは1.69%のリターンと引き換えに、急落の回数がずっと少ないなだらかな値動きをこの間享受できたということになる。
とはいえ、どんなに考え抜いた分散戦略であっても、特に短期的には損失を完全に排除できないということは指摘しておきたい。フィデリティの調査によると、最も保守的なポートフォリオでさえも、最も悪い12カ月間のパフォーマンスはマイナス17.67%だった。
分散投資の欠点
分散投資は多くの点で当然の戦略だ。だが、もちろんそれにも欠点がある。次の2点は頭に入れておこう。
- 分散投資は意図的にリターンを「平均」並みに抑える。負け組よりも勝ち組を多く組み入れることを目指して、数多くの企業やさまざまな種類の投資商品に賭けるのが分散投資である。だが、ぱっとしない銘柄はスター銘柄の足を引っ張るものだ。よって分散ポートフォリオは分散度合いが低いアグレッシブポートフォリオほど大きく下落しないが、同時に極端に上昇する可能性も低い。
- 分散にはコストと時間がかかる。何十、いや何百もの株式や債券を調査するには膨大な労力を要する。それに、さまざまな投資商品の購入は、特に個人投資家の場合には割高になり得る。
だからこそ投資信託、インデックスファンド、上場投資信託(ETF)が個人投資家にとって最適なのだ。こうした証券バスケットを購入することで、資産クラス の中だけでなく、資産クラス間でもすぐさま分散を達成できる。
また、ファンドを使って分散する場合でも、リスク水準の違うファンドに分散できる。例えば、以下の3種類の投資信託は特にポピュラーだ。
- グロースファンド:平均よりも早い値上がりと大きな価格変動が予想される企業に投資するファンド。
- インカムファンド:主に配当株に投資し、短期的な値上がり益ではなく長期的なインカムを重視するファンド。
- バランスファンド:値上がり益とインカムの両方を狙って、株式、債券、現金同等物に投資を行う最も分散されたファンド。
まとめ
分散の方法は数多く存在するが、その概念自体は極めてシンプルで動的な戦略だ。ポートフォリオの分散は「一度やったらほったらかし」ではない。資産目標の変化や年齢を重ねるにつれて、資産配分を調整する必要が出てくるかもしれない。ポートフォリオの分散についてのヒントを3つお教えしよう。
- 投資コストに目を光らせる:ファンドのコスト、取引手数料、アドバイザリー報酬はリターン全体を低下させる可能性がある。手数料や報酬の高いファンドを避けて、経費率を比較しよう。
- ターゲットデート・ファンドや資産配分ファンドを検討する:アセットアロケーション型投信やETFでは、事前に定めた株式と債券の構成比率(株式80/債券20、株式70/債券30、株式60/債券40等)を常に維持し、自動的にリバランスする。ターゲットデート・ファンドはさらに一歩進んで、退職年齢に近づくにつれて、徐々に保守的な資産構成に絶えず調整してくれる。
- 定期的に再評価する:時間が経つにつれてポートフォリオに組み入れている資産が他の資産よりも高いリターンを上げたり、逆にパフォーマンスが低迷したりする。そのため、ポートフォリオの組み入れ比率が目標から乖離することがある。年に1~2度ポートフォリオをリバランスすることで、自分のリスク許容度に合った資産配分を常に維持できるだろう。
「そもそも分散の主な目的はリターンの最大化ではなく、ボラティリティがポートフォリオに与える影響を抑えること」とフィデリティの調査に書かれた言葉を覚えておいて欲しい。言い換えれば、分散は保守的な戦略だが、すべての投資家があ程度最低限行うべき戦略なのだ。