渡辺創太さん、アクセンチュア社員に聞く「Web3時代」の必須スキル
ブロックチェーン技術を活用した次世代のウェブ、「Web3」。
2022年以降、NTTドコモとアクセンチュアによるWeb3領域の連携発表や、カルビー、トヨタといった大企業によるWeb3プロジェクトの本格参入、投資が話題を集めている。
Web3はこれから、社会やビジネスにどのように「実装」されていくのか。
また黎明期を迎え、大きなチャンスを秘めたWeb3領域に携わることで、どのような仕事やキャリアの可能性があるのか──?
Web3起業家の渡辺創太さん、アクセンチュアでWeb3×ビジネスを牽引する唐澤鵬翔さんらに、最新の動きや今後の可能性を聞いた。
※Business Insider Japan主催のオンラインイベント「渡辺創太さん、アクセンチュア現役社員に聞く『Web3時代』のキャリア戦略」<2023年4月21日(金)開催>の内容を、一部編集してお届けします。
オンラインイベント動画の見逃し配信を行っています(2023年6月30日まで)。視聴登録はこちらから。
「Web3」って何? もはや定義は重要じゃない
渡辺創太(わたなべ・そうた)さん/日本発のパブリックブロックチェーン Astar Network ファウンダー、Startale Labs CEO、Next Web Capital、博報堂key3 ファウンダー。日本ブロックチェーン協会理事や丸井グループ、GMO Web3、電通 web3 Clubなどのアドバイザーを務める。
「Web3」とは一体何なのだろうか。
2000年代初頭、「World Wide Web(www)」の普及によって個人が自由にホームページを作ることが出来るようになったWeb1.0。そして2000年初頭〜2020年代、GAFAの台頭やSNSの普及により双方向のコミュニケーションが主流になったWeb2.0の時代を経て、新たに生まれた概念だ。
メディアなどで言葉を聞く機会は増えた一方で、実態がつかみにくく、参入のハードルが高い印象も根強い。
「人類の歴史とウェブの歴史は、同じような流れを辿っています」(渡辺さん)
そう語るのは、Web3起業家としてグローバルに活躍している渡辺創太氏だ。
「人類の歴史を遡ると、狩猟採集が行われていた頃は、みんなで役割分担をしてマンモスを捕って分け合うようなDAO(分散型自律組織)的な社会だった。
そこに稲や農産物が生まれ、蓄えられる者と蓄えられない者、持つ者と持たざる者の格差が生まれて、やがて貴族制や絶対王政のような主従関係の社会になっていきました。
そうして民主主義社会へと移り変わっていったわけですが、今、これまでの民主主義のあり方は見直されようとしています。
そのようなことがいま、インターネット上でも起きているんです。
コンピューター間でコミュニケーションをとっていたWeb1.0時代から、データやサーバーを持つ者が独占するWeb2.0時代を経て、分散化に向かっていく革命のような流れがオンライン上で起こっている。
Web3とは、“人間中心のウェブ”へのムーブメントだと思っています」(渡辺さん)
また、Web3黎明期である今、その定義を議論・理解することに大きな意味はないと続ける。
「今はとにかく手を動かして、Web3を活用して社会に価値を作っていくことが最優先。
インターネットも生まれた当初はよく分からないものだったように、実装が進み、2030年、2040年になった頃に“こういうものだったのか”と全体が掴めるのだと思います」(渡辺さん)
唐澤鵬翔(からさわ・ほうしょう)さん/アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。新規事業開発を専門領域として、エンタメ、メディア、通信キャリア、ハイテクなどの分野で豊富な支援実績を持つ。複数の事業立ち上げ経験があり、直近はWeb3やメタバース関連の事業開発・立ち上げに注力。中国に11年在住、シンガポールに3年の駐在経験を持つ。
「Web3の流れとは関係なく、もともと社会に分散化へのニーズはあったと思うんですよね。
低コストで一定品質のモノが重宝された時代があり、やがて体験といった“コト”にニーズが変化していった。
そしてさらに、より質の高い体験やサブスク型のサービスが一般化した今、特に若い世代が重視するのがセンス・オブ・オーナーシップ(自己責任に裏付けされた強い当事者意識)です。
自ら選んでオーナーシップを持ちたい、プロセスから関わりたいというニーズを満たす新しいテクノロジーがWeb3で実現できるとあって、世の中の動きにもピタッとはまったのだろうと感じます」(唐澤さん)
「チャンスは目の前にある」
目覚ましいスピードで進化を遂げるWeb3領域だが、世界各国の動きや日本の可能性はどう見ているのだろうか?
「グローバルな観点でみても、日本にとって大きなチャンスが目の前にある状況です。
これまでイノベーションをリードしてきたアメリカは、暗号資産取引所破綻という窮地に陥り、最近のホットなマーケットはアジアに移っています。
中国や香港でも盛り上がりを見せていますが、日本も規制緩和が進みつつあるので、この2〜3年で世界に通用するWeb3のプロダクトを生み出せるかどうかが正念場です」(渡辺さん)
最近ではChatGPTやAI技術への関心が世の中的に高まっている。Web3の波は少し落ち着いてきたのかと思いきや、「ここからが勝負」と2人は語る。
「大企業もスタートアップも、この数年が大きなチャンスです。さらに言えば、日本が国際的なプレゼンスを高める絶好の機会でもある。グローバルのマーケットで再び日本が名を馳せる好機だと捉えています」(渡辺さん)
「私自身、長くテクノロジー界隈で新規事業に携わってきましたが、政府と大企業、そしてスタートアップらが同じ土俵の上でフラットに議論し合っている状況は、Web3領域ならでは。特に最近は、Web3技術をビジネスと直結させていく動きが活発です」(唐澤さん)
事実、日本でも大規模なWeb3のカンファレンスが開催された際は、世界中から関係者が集い注目を集めている。
「我々のエコシステムでは、最近、トヨタ自動車とWeb3ハッカソンの取り組みを行ったり、ソニーとインキュベーションプログラムを展開したりしています。
また、カルビーとはNFT施策にも挑戦的に取り組んでいます。『ポテトチップス』のパッケージをスキャンするとNFTウォレットが発行され、たくさん食べるほど育っていく仕組みを実装。
これまで関わったことがない層でも取り入れやすいかたちを目指しています」(渡辺さん)
Web3の活用可能性は、地方創生から気候変動、カーボンクレジットなど実に多彩だ。
「カルビーの事例のようにWeb3をうまく使っていけば、企業と顧客の距離感を縮める“新しいマーケティング”も期待できます。
また、アクセンチュアでは2022年11月に、NTTドコモと『ESG/SDGs領域への適用』『安心・安全なWeb3活用に向けた技術基盤の構築』『Web3人材の育成』という3つの分野で連携し、Web3の取り組みを推進していくことを発表しました。
他にも金融やエンタテインメント系業界にはじまり、メーカーや保険会社、製薬会社などからご相談をいただいていて、Web3の活用に向けて動き出しています」(唐澤さん)
「筋トレしたい人」はコンサル、「試合に出たい」人はスタートアップ?
自身で起業しスタートアップの立場からWeb3に関わる渡辺さんと、グローバルコンサルファームの立場からWeb3領域のビジネスを手掛ける唐澤さん。
それぞれどんな面白さがあるのだろうか?
「スタートアップでやるのかコンサルでやるのかは、よく聞かれる質問です。
僕が思うのは、『すぐに試合に出たいのか筋トレしたいのか』。コンサルって、ビジネスを行う上での底力がつくんですよね。
やりたいことが明確で特定の試合に出たい人はスタートアップが向いていると思うし、筋トレをして底力をつけて、選択肢を広げたい、関われる領域を増やしたい人はコンサルが向いていると思います」(唐澤さん)
「新しい仕組みを実装するには、技術だけでは足りません。
戦略的視点やテクノロジーへの知見、マーケティングなどを理解し企業と結びつけながらWeb3を実装していくことが必要。そういう意味では、アクセンチュアさんのような環境は羨ましいですね。
スタートアップはまさに『0→1』の世界なので、そのダイナミックさを楽しめる人が向いているんじゃないでしょうか」(渡辺さん)
Web3のビッグウェーブの先に待つ未来を、2人はどう見ているのだろうか。
「まさしく、黎明期の今こそ誰もが同じスタートラインに立てるチャンス。
フラットでグローバルな舞台で新たな挑戦に突き進みたいならば、Web3領域は最適なフィールドだと思います」(唐澤さん)
すべては今、ここからの勝負。Web3という新しい可能性とそれに挑んでいく魅力が語られるセッションとなった。
Web3に関わる面白さ、衝撃的だったことは?
学生時代からクリプト(暗号)領域に関わり、「実は渡辺創太さんと一緒に仕事をしていたこともある」という宮本明佳さん(右)と、もともとWeb3に興味はなかったが、Web3×サステナビリティの可能性を感じてプロジェクトに関わることになった平井麻祐子さん(左)。
アクセンチュア
続いて行われたセッションでは、渡辺さん、唐澤さんに加えてアクセンチュアの現役社員2名が登場。Web3のプロジェクトを通じた気づきや醍醐味を聞いた。
以下Q&A方式でお届けする。
平井麻祐子(ひらい・まゆこ)さん/アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ シニア・マネジャー。2016年アクセンチュアに中途入社。一貫して新規事業戦略立案・立ち上げ支援に従事。“デジタルを活用して、社会におけるレガシーなシステム・仕組み・企業をよりよい方向に変革していく”ことを自身のミッションとしており、約半年前からデジタルヘルスケアやサステナビリティ・カーボンニュートラルの領域のWeb3のプロジェクトを手掛けている。
──平井さんは、Web3歴はまだ短いと聞きました。なぜWeb3領域のビジネスに携わることになったのでしょうか。
平井:もともとサステナビリティやESG領域の支援に関心があり、アクセンチュアでもそのような仕事に携わっていました。
「Web3のプロジェクトをやってみないか」と唐澤さんに声をかけてもらい半信半疑で調べてみると、これまで解決が難しかった、公共性の高い領域や地方創生などにWeb3を活用することで解決できる可能性があると知りました。
今は持続可能性がある新しい手法として、Web3を活用して何ができるのか、探っているところです。直近では「ReFi(Regenerative Finance)」という、ブロックチェーン技術を用いて長期的に世界規模の環境問題や社会問題を解決しようとするシステムのプロジェクトにも関わっています。
宮本明佳(みやもと・めいか)さん/アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ所属。2018年よりクリプト領域でのリサーチ・コミュニティ活動に従事。2019年にアクセンチュアへ新卒入社。テクノロジー コンサルティング本部にてブロックチェーンシステムの開発・運用に従事した後、2023年より現在の部門に異動。Web3の各プロジェクトにおけるアライアンス、プロジェクトマネジメント、グロースに注力している。
──宮本さんは、新卒でアクセンチュアに入った際は、今とは違うテクノロジー コンサルティング本部にいたんですよね。
宮本:はい。もともとアクセンチュアに入社したのは、クリプト領域を極めていくために「技術的、実践的な知見や専門スキルを身につけたい」と思ってのことでした。
テクノロジー コンサルティング本部ではエンジニアとしての経験を積んでいましたが、唐澤さんがWeb3のプロジェクトを担当しているのを知って、自ら希望して現在の組織に異動しました。
今は戦略コンサルタントとして、プロジェクトマネジメントなど、より広い視点から暗号資産のプロジェクト立ち上げなどに携わっています。
──Web3領域に携わっていて、衝撃的だったことは?
平井:とにかく熱気と勢いがすごいんです。
Web3に関わる人に共通して言えるのは、「新しいことを開拓しよう」「自分たちで現状を変えていこう」という、ポジティブさや情熱があることです。関係者と話すと体温が1、2度上がる感覚があります。
宮本:トレンドが一瞬で変わること。技術の進歩も早いし毎日さまざまな動きがあります。一晩で状況が180度変わることもあって、スピーディで密度が高いWeb3業界の動きは衝撃的でした。他の業界の1年分が3カ月くらいで進んでいる感覚です。
また、関係者の年齢が若いのも特徴です。私は20代ですが、業界内のキャリアでいうと5〜6年あるのでもうベテラン領域の扱い。
「イーサリアムの研究をしています」という高校生がいるなど、10代の方々もたくさん活躍しています。年齢、国などあらゆるものを超えたボーダレスな環境も魅力の一つですね。
──展開が早いWeb3領域では、情報のキャッチアップも大変だと思います。どのように情報収集をしていますか?
宮本:正直なところ、キャッチアップは大変です。勉強したな、いろんなことを知ったなと思っても、またどんどん新しいことが出てくるんです。
そんな中でも、私は信頼できるSNSのアカウントを見つけて、その人がフォローしている人……と芋づる式に質のよい情報を辿っていくことをしています。
平井:本当に初心者からのスタートだったので、まずは自分が興味を持ったWeb3サービスに触れることから始めました。SNSでの情報収集も有効ですが、いちユーザーとして利用してみることで得られる情報や学びはとても多いですね。
渡辺:私は起業家なので、まだ顕在化していない一次情報の収集を重視しています。世に出た瞬間からどんどん古くなっていくスピーディな業界なので、いかにして“まだ出ていない情報”を探りにいけるかが重要なんです。
唐澤:“知っている人から教えてもらう”こと。Web3の業界自体すごくオープンなカルチャーがあるので、意欲的に学びながら動いている人にはどんどん知見をシェアしてくれます。
アクセンチュア内でも『Web3初心者の会』というチャットグループを立ち上げていて、今では数百名が集う大所帯になりました。質問を投げれば誰かが返してくれる、活発なコミュニケーションが交わされています。
──Web3領域の仕事には、どんな資質やスキルが必要だと思いますか?
宮本:何よりスピード命の業界なので、一次情報にあたり続ける姿勢は必須だと思います。Day1からグローバルな世界なので、新しい情報を得るには英語力も求められますが、仮に多少足りなくても、気合とパッションで食らいついていける人には応えてくれる土壌があります。
渡辺:課題の本質を見極める力は重要です。
テクノロジーで何を解決したいのか、何が解決できるのか?を追求し続けなければいけません。形にするには時間もかかりますから、課題や自分の想いを見据え続けられる力、長期的に物事と向き合い続けられる資質は大切だと思います。
唐澤:ビジネスにWeb3を活用するために組織や人を巻き込んでいく場合は、分かりやすい旗を掲げるのがいいですね。
何かしら興味や課題意識のある人たちは少なからずいるはずで、熱量をベースに仲間を引き寄せる力も必要ではないでしょうか。
私もアクセンチュアで仲間を集めたいときは、専門性や経験値の観点に加えて、パッションやポテンシャルも重視します。どれだけキラキラした目でWeb3の未来を語れるか。それも大切なポイントかもしれません。
それぞれの立場から語られたWeb3の今と未来、そして関わる醍醐味。4人の言葉こそが、その魅力や可能性を裏付けていた。
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