なぜアイスランドはジェンダーギャップ指数が世界一なのか? 北欧の成功からひもとく道筋と可能性

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画像/MASHING UP

2023年2月に開催された「Nordic Talks:ジェンダー平等とメディア」は、フィンランド、アイスランド、日本のメディア業界で働く女性たちによるトークイベント。「報道テーマとしての女性」と「メディアで働く女性が抱える問題」の両面でディスカッションされた。

スピーカーは、北欧で最も発行部数の多い新聞であるフィンランド・ヘルシンギン・サノマットの元編集長で、現United Imaginations COOのアヌ・ウバウドさん、アイスランド国営放送(RUV)編集長のソーラ・アルノルスドッティルさん、NHK解説委員(ジェンダー・男女共同参画担当)でNHK名古屋拠点放送局コンテンツセンター副部長の山本恵子さんの3名。モデレーターを務めたのは、ジャーナリストでメディアコラボ代表の古田大輔さんだ。

ジェンダー格差が埋まらぬ日本と、ジェンダー平等が浸透している北欧諸国との違いは何か。メディアがジェンダー平等に与える影響とは? メディアの最前線で活躍する3人のトークセッションをレポートする。

男性も大統領になれるの?

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アイスランド国営放送(RUV)編集長のソーラ・アルノルスドッティルさん。根気強い「Baby steps(小さな一歩)」がアイスランドのジェンダー平等を築き上げたと語る。

©︎UNIVERSITY of CREATIVITY

まず初めに、モデレーターの古田さんが投げかけたテーマは「なぜ北欧諸国は、男女平等の推進に成功したのか?」。この質問に13年連続でジェンダーギャップ指数が世界一であるアイスランドのソーラ・アルノルスドッティルさんが答えた。

「アイスランドでは、1907年に『女性協会』が設立され、1915年には女性に選挙権が与えられましたが、その後、国会や自治体の議会で女性の比率はなかなか増えなかった。『女性は1人か2人いれば十分ではないか』という認識があったのです。

1980年、世界で初めて女性の国家元首が誕生。民主主義国家の直接選挙で選ばれた初の女性大統領でした。これが、アイスランドのジェンダー平等におけるターニングポイントでしょう。彼女の任期は16年間も続き、90年代後半まで、男性も大統領になれると知らなかった人もいるほどでした。

アイスランドが国際社会にポジティブなインパクト与えたことで、国民一人ひとりが自国に誇りを持つようになりました。このように、アイスランドは100年以上という長い時間をかけて『Baby steps(小さな一歩)』を続けてきました。結局のところ、根気よく続けるほかないのです」(アルノルスドッティルさん)

フィンランドはアイスランドに続き、ジェンダーギャップ指数世界第2位。だが、アヌ・ウバウドさんはまだ解決すべき課題があると語る。

「フィンランドの国会議員の女性が占める割合は47%ですが、会社やメディアでの女性の代表・役員の割合は30%前後にとどまっています。

30%という数字は“十分だ”と思わせる数字ですが、我々は50%でなければ良いとは言えないと思っています。 北欧はまだまだ謙虚にもっと頑張ろうと前進し続けていますし、それが大切なことだと思っています」(ウバウドさん)

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United Imaginations COOで、北欧で最も発行部数の多い新聞であるフィンランド・ヘルシンギン・サノマットの元編集長であるアヌ・ウバウドさん。意思決定層における女性の割合について「50%でなければ良いとは言えない」と語る。

©︎UNIVERSITY of CREATIVITY

メディアが果たすべき役割はトピックの多様化

次に「男女平等の推進のために、メディアはどんな役割を果たしているか?」の質問へはこう続けた。

「アイスランドの女性たちが権利のために戦い始めた時、最初にしたことは、新聞を発行することでした。自分たちの権利を人々に伝えて納得してもらうためには、メディアが必要だと考えたからです。

メディアは大きな役割を担っており、そこで取り上げる話題は、意識的に多様な表現であることが求められます。そのためには経営陣も多様な人材で構成されるべきでしょう。メディアを変革するためにはスタッフたちからの圧力とトップのリーダーシップ、両方が必要です」(アルノルスドッティルさん)

山本さんは、メディアに女性管理職がいるべき理由を以下のように述べた。

「私がNHKに入局した当時、メディアからの情報が男性主体であることに気づきました。女性や子どもの問題を提起するのは、ほとんどが女性。育児への支援不足や子育ての難しさが、メディアのトップニュースにはなりえなかったのです。

しかし、3年前に私は管理職になり、会社のシステムを変革できる立場になりました。今ではどのニュースをトップニュースにするか決めることができます。男性中心だと政治や経済の問題がトップになりがちですが、私の場合は、育児やハラスメントの問題を取り上げる。 ニュースのトピックが多様化することは、社会にとって重要なことです」(山本さん)

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NHK解説委員(ジェンダー・男女共同参画担当)でNHK名古屋拠点放送局コンテンツセンター副部長の山本恵子さん。メディア業界で女性管理職が増えることで、 ニュースのトピックが多様化すると語る。

©︎UNIVERSITY of CREATIVITY

続いて、ウバウドさんは「男女平等の推進において、メディアの重要性を強調しすぎることはない」とも。

「フィンランドでも、150年前から男女平等推進に取り組んできましたが、これを実現するためには、育児、育児休暇に関連するすべての社会的支援や、そのための法整備が非常に大切。

これらの社会的支援に関するトピックを常に取り上げて、議論する“場”が必要です。 メディアは、その場を提供する役割として重要だと言えるでしょう」(ウバウドさん)

北欧では長時間労働は評価されない

日本が抱えるジェンダー不平等」は、何を糸口に解決すべきか。女性の働きづらさについて、アルノルスドッティルさんが私見を示した。

「女性がキャリアか家庭かの選択を迫られるのは、社会システムに問題があります。 取り組むべき課題は3つ。

第1に長時間労働、第2は女性が担う家事の負担、3つ目は利用しやすい家事・育児支援サービスの不足です。特に1点目は、優秀な人材の獲得のために、企業も真剣に取り組まなければなりません。労働環境を変えようとしない会社は“負ける”でしょう」(アルノルスドッティルさん)

さらに、ウバウドさんは北欧と日本の労働文化の違いを指摘した。

「日本と北欧では、根本的な労働文化に大きな違いを感じます。北欧の文化では、長時間働くことが評価されません。クリエイティブで効率的な人たちは、仕事以外の生活も充実していると考えられているからです。

長時間労働はジャーナリズムやメディアだけの問題ではなく、さまざまな国の労働文化全体の問題だと思います」(ウバウドさん)

山本さんは「辞めなければ、職場や社会は変革できる」と力強く語る。

「主流メディアのトップエディターのうち、女性はわずか10%未満。国会における女性議員の割合も9.7%ですから、同じようなものです。日本のボトルネックは、政治におけるジェンダーギャップ。一般的な男女平等も比例して、諸外国から大きく遅れをとっている原因です。

私は一歩ずつシステムを変えることで、ニュースルームで生き残ることができました。例えば、以前は会議は夕方のニュース後に設定されていましたが、私たち母にとって夕方は育児のゴールデンタイム。そこで、会議をお昼に変更してもらい、サバイブしてきました

仕事を辞めてしまったら、変化は起こせません。私が皆さんにお伝えしたいのは『辞めないで!』『生き残りましょう!』」(山本さん)

ジェンダー格差は、女性だけの闘いでなく男性の闘いでもある

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ジャーナリストでメディアコラボ代表の古田大輔さん。ニューヨークで「多様性の力を感じた」という体験談を披露した。

©︎UNIVERSITY of CREATIVITY

モデレーターの古田さんは、前職であるBuzzFeed(バズフィード)時代、NY編集部で体験したエピソードを披露した。

「ダイバーシティの重要性を心身ともに理解する近道は、海外へ行くこと! 以前勤めていた新聞社は他の企業よりもジェンダーギャップはないと言われていましたが、その後に勤めたBuzzFeedでは、四半期報告会で、CEOが予算や事業のことではなく多様性についての報告から始めたのです。

男性も女性もLGBTも白人もアジア人も、皆の意見がしっかり報告されていました。あれほど『多様性の力』を実感したことはありません」(古田さん)

山本さんも「日本が変革する希望は、ジェンダーの問題に関心のある若い世代と男性」と同調。最後に、アルノルスドッティルさんはアイスランドの育児休暇の調査を例に挙げながら、締めくくった。

“良い労働者とは幸せな労働者”です。

アイスランドの育児休暇に関する調査によると、育児休暇を取得すると、父親がより幸せになるという結果が出ています。家事労働が父母間で平等になり、離婚も減少し、さらには父と子の関係まで良くなることも分かっています。

なぜ、アイスランドがジェンダーギャップ指数で1位になれたのでしょうか? つまりジェンダーの問題は、私たち女性だけの闘いではなく、男性の闘いでもあるのです」(アルノルスドッティルさん)

ジェンダーの平等は、すべての人にとってより良い社会の実現につながる。北欧の成功例からは、女性の政治参加、男性の意識改革、働き方改革など、ジェンダー平等へのヒントが見えたのではないだろうか。

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©︎UNIVERSITY of CREATIVITY

MASHING UPより転載(2023年4月27日公開


(文・取材)MASHING UP

MASHING UP:MASHING UP=インクルーシブな未来を拓く、メディア&コミュニティ。イベントやメディアを通じ、性別、業種、世代、国籍を超え多彩な人々と対話を深め、これからの社会や組織のかたち、未来のビジネスを考えていきます。

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