管理職を「避ける若手」と「望んでもなれない中堅」。大企業5人の部長が語った“管理職のいま”

サラリーマン二人の写真

大手企業の部長5人に「管理職のいま」を取材した(社員はイメージです)。

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今年4月の入社式は多くの企業が久しぶりに対面で実施した。

テレビに映る新人の顔はいずれも社会人としての夢や希望に満ちあふれているように見えた。その一方で気になるのは管理職になることを望んでいない人が比較的多いことだ。

2023年春に大学・大学院を卒業する学生を対象にキャリタスリサーチが実施した調査(「キャリアプラン・ライフプランに関する調査」2023年3月発表)によると、「将来どこまで出世したいと考えているか」について、男性の29.8%が「特に考えていない」と回答。「出世したいと思わない」(7.0%)と合わせると、36.8%が出世に無関心だ。

女性も20.0%が「出世したいと思わない」と答え、38.4%が「特に考えていない」で、女性の場合は6割近くが出世に興味がないことがわかる。

グラフ

男子の3人に1人以上が、「出世」に興味がないことがわかる。

出典:キャリタスリサーチ「キャリアプラン・ライフプランに関する調査」

削減された「管理職ポスト」

一方で、そうした新入社員の思いとは別に、大卒総合職で入社しても、課長にもなれない人が増えている。

筆者は大企業5社の管理部門の部長と部長経験者(人事・総務・法務等)を取材する機会があったが、10年前と比べて同期で管理職に昇進する人が減っていると異口同音に答えた。

エネルギー関連企業の部長によると、20年前は同期の8割は最低でも課長にはなれが、今は4割程度に減少し、5割以上が係長職のまま定年を迎えるという。

部長に昇進するのは同期の1割程度。その上の事業部長・本部長クラスの役員クラスは同期でもなれないケースもあるという。

「同期の9割が部長にはなれない」

サラリーマン二人

サービス業の部長は「課長になれる割合は10年前と比べると大幅に減っている」と話す(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

食品業や建設業の部長も、同様の傾向だと話す。

食品業の部長によると、同期で課長職になるのは5割弱、部長が2割程度。その上の執行役員は数年に1人出るか、出ないかという状況にある。

さらに、もっと管理職になるのが難しい企業もあった。サービス業の部長によると、課長に昇進するのは、10年前は同期の5割程度だったが、今では3割程度に減少し、部長が10%程度、役員は1%にすぎないという。

サンプル数は少ないもののが、大卒総合職で入社しても総じて6割の人が管理職になれず、大多数の人たちがそのまま定年を迎えているのが実状と言えそうだ。

「年功序列の修正」が一因

ビジネス街の写真

「管理職」が減っている要因の一つが、経営のスリム化にある。

撮影:今村拓馬

なぜ管理職が減っているのか?

その背景には、経営のスリム化や組織のフラット化の推進により意図的に管理職数を減らしてきたこと、そして人事制度の変更が大きく影響している。

エネルギー関連業の部長によると、以前は主任、係長、課長代理、課長、次長、部長など段階的に役職を設けていたが、2000年頃から中間の役職を徐々に廃止。現在は課長と部長の役職しかない。

同社部長は「年功序列的な日本的人事管理を修正し、組織のフラットを目指してスリム化を図ってきた」と語る。

また建設業の部長によると、勤務先の企業では、基本的には課長と部長の間の役職を廃止した。営業や販売など対外的業務を担当する人に名刺に担当部長の肩書きをつけているが、社内の正式な役職ではないという。

同社は近年、選択と集中による部門やグループ企業の統廃合を推進している。「拡大路線の部門もあるが、生産性が低い部門やグループ企業は精算するなど再編を進めた」とその建設業の部長はいう。

「筋肉質の企業を目指した結果、生産性の低い部門の管理職の多くを担当職に降格させた。同時に本社部門も役職を整理して、多くの管理職が職能資格は残したまま管理職を降りた」(建設業の部長)

管理職「厳しい選抜」の時代

面接の写真

「上司のお気に入り」が出世できる時代はすでに終わったのかもしれない。

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人事制度変更を変更することで、管理職数を減らしたところもある。

食品業の部長によると、勤務先の企業は10年前に役割等級制度を導入。4つあった従来の等級を2つの等級に圧縮し、部長以外の役職を廃止。部長の下は課長に一本化し、その下の役職も廃止した。

同時に役割責任を明確化し、課長への登用も厳格化した。まず課長候補者の要件として人事評価のS~Dの5段階の評価ランクで、過去3期の平均がA評価以上であること、そのほかにTOEIC650点以上、通信教育の受講が前提になる。

その上で、外部機関によるアセスメント研修と評価、さらに論文と面接、筆記試験とプレゼンテーションの結果を点数化して、合格者が決まる。

食品業の部長は「たとえ上司が気に入っている部下であっても、B評価だと、人事部の推薦リストにも載らなくなった」と語る。

また年功によらない役割等級制度の導入の結果、若くても管理職になれる道が開かれ、ライバルも増えている。

「実力しだいで課長になれるようにした結果、5~6年前に33歳の最年少課長が誕生した。部長も以前は早くて46歳、遅くても50歳ぐらいだったが、今は41歳の部長もいる。40歳を過ぎて管理職を目指している人は複雑な心境になってしまうだろう」(食品業の部長)

「疲弊」という副作用

男性の背中

日本の「管理職」はプレイヤーとしての仕事も求められているのが現状だ(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

5人の部長が語ったように、管理職は大幅に削られているのが現実だ。

しかし、管理職数を削減した結果、副作用も発生している。それは負荷と責任の増大による管理職の疲弊だ。

日本企業の管理職はマネジメント以外に自らの仕事もこなすプレイングマネージャーが多いことが知られている。プレイングマネージャーとは、1人のプレイヤーとして成果を出す仕事に従事しながら業績達成のマネジメントを行う。

産業能率大学総合研究所の「第6回上場企業の課長に関する実態調査」(2021年12月9日発表)によると、プレイングマネージャーの割合はほぼ全員の99.5%を占める。

プレイヤーとしての活動がマネジメント業務に支障があるかとの質問では、「とても支障がある」(10.9%)、「どちらかといえば支障がある」(38.6%)と、半数が支障を感じている。

課長としての悩みのトップ3は「部下がなかなか育たない」(32.2%)、「部下の人事評価が難しい」(26.2%)、「職場(OR自分の)業務量が多すぎる」(21.7%)となっている。

課長になってもプレイヤーとしての仕事だけではなく、全体のマネジメントや部下育成も求められている。うまくこなそうと思えば当然、オーバーワークになり、そして疲弊する。

特に負担が大きい「課長職」

職場

「管理職の多忙」が若者の「管理職離れ」の原因になっているのかもしれない(写真はイメージです)。

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前出のエネルギー関連業の部長は「組織のフラット化を目指した結果、部長はそうでもないが、課長はプレイングマネージャーの役割に変わってしまった」と嘆く。

「プレイヤーをやりながら部下の育成を含むマネジメントが本当にできるのか。それができる課長は私の実感では3割に満たないだろう

しかも最近は、人材育成の重要性が指摘されるようになり、プレイヤーばかりやっていても困るよという風潮になり、課長の仕事の負担が高まっている」(エネルギー関連企業の部長)

すでにプレイングマネージャーの歪みも出始めている。ラーニングエージェンシーの「『人事の課題』実態調査」(2023年1月発表)によると、人事部が管理職の課題と捉えているトップは「部下育成力」であり、301人以上の企業では84.2%を占め、その深刻さがうかがえる。

本来、管理職はマネジメントに徹すべきだ。

ところが日本的ゼネラリストの風土の中でプレイヤー業務が残ったまま、課長補佐、次長職を含めて管理職数を削減した結果、本来のマネジメントの役割にも支障を来している。

マネジメントの役割が機能不全の状態が続けば生産性にも影響を与えるのは必至であり、ましてや冒頭に紹介したように管理職になりたい社員も少なくなるだろう。

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