三井物産とLayerXらのジョイントベンチャーである三井物産デジタル・アセットマネジメント(以下、MDM)が、証券会社として本格的に始動する。これまでも不動産などを裏付けとしたデジタル証券を機関投資家などプロ向けに販売してきたが、関係当局の承認が下り、個人向けの販売サービスを開始した。
三井物産の金融・不動産の業界知見やネットワークに、LayerXのデジタル・AI技術を加え、資産運用の新たな形を目指す。
DXとAIで運用コストを通常の10分の1に
三井物産デジタル・アセットマネジメントの記者会見にて。左から仲井隆三井物産金融事業部長、上野貴司MDM社長、丸野宏之MDM取締役、福島良典LayerXCEO。
撮影:竹下郁子
MDMは、デジタル証券ファンドの組成、運用、販売を一気通貫で担う。詳細は以下の記事を参照して欲しい。
参考記事:LayerXが三井物産らから55億円を調達、ベンチャーが3年で証券会社目指し2200億円運用できる理由
同社が5月22日にローンチした新サービスの名前は「ALTERNA(オルタナ)」。ウリは厳選された不動産やインフラなどに1口10万円から投資でき、スマホで手続きが完結する手軽さと、DXやAIの活用によって低い運用コスト(MDMへ支払う運用報酬)を実現したことだ。
同社は多くの金融機関が生成系AIの活用に尻込みしていた3月中旬、ChatGPTの利用指針を決定し業務効率化を進めてきた。
運用報酬を抑えることは、客へのリターンを高めることにつながる。
提供:三井物産デジタルアセット・マネジメント
アセットマネジメント業務で発生する煩雑な事務作業をソフトウェアによって自動化することで、生産性が90%超改善したという。
今後は人工知能で収支を予想したり、LLM(大規模言語モデル)で文書作成を補助したりすることも想定している。
MDMによると上場REIT(不動産投資信託)の運用報酬は年0.3〜0.6%が一般的だが、MDMは0.2%。さらに今後は0.05%を目指す。
投資広がらない日本、情報の透明性で変える
提供:三井物産デジタル・アセットマネジメント
最初の投資対象は、東京・日本橋のマンションだ。
今後は三井物産のネットワークを生かし、船舶・航空機などの輸送機から再生エネルギーやデータセンター・基地局などのインフラにも対象を広げていく。
「募集案件は全て有価証券届出書を提出するので、イメージとしては株式のIPOに近いと考えてください。非常に厳しい開示規制が課せられているので、より充実した情報を受け取っていただけます」(丸野宏之・取締役)
投資対象の情報、たとえば不動産であれば入居状況などは、データで即座に配信することも考えている。
提供:三井物産デジタル・アセットマネジメント
MDMの上野貴司社長は「これまで会社側の都合で半年に1回、1年に1回しか情報の更新がなかったものをリアルタイムで飛ばす。透明性を担保することが、投資の分かりにくさを解消する第一歩だと思っています」と話し、投資に尻込みする人も多い日本で、透明性と堅実さに注力して裾野を広げる考えだ。
今回の個人向け資産運用サービスに関して、当局の承認が下りたのは2023年4月下旬。2022年の創業から、わずか3年でここまでこぎつけた。
丸紅もデジタル証券事業に参入している。MDMが会見を開いた5月22日、1口10万円で、個人投資家向けの不動産のデジタル証券をSBI証券を窓口として販売すると発表した。
「今日がMDMの船出だと思っています。デジタル証券のような新しい商品は警戒心をもって迎えられることも多いので、他社の参入は歓迎です。いろいろな商品、選択肢があったほうが皆さんに手に取ってもらいやすくなりますし」(上野さん)
サービスの事前登録者は約1万4000人。5年以内に累計販売金額3000億円以上を目指す。