工学系の学生たちの就職志望に変化が現れ始めている。
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ビッグテックが、新卒者や若い技術職たちの間で魅力を失いつつある。彼ら彼女らは社会人としての第一歩を踏み出す場所として別のところに目を向け始めている。
メタ(Meta)、グーグル(Google)、アマゾン(Amazon)、マイクロソフト(Microsoft)、セールスフォース(Salesforce)、オラクル(Oracle)などのテック大手、そして規模は多少劣るがツイッター(Twitter)やスナップ(Snap)などは過去1年、成長の鈍化と金利上昇に対抗すべく、数十万人規模の技術系人材をレイオフしてきた。職を追われた人たちの多くは何カ月もかけて再就職先を探したが、不採用に次ぐ不採用だった。
あるソーシャルメディア企業に昨年解雇された中堅エンジニアは、ビッグテック2社で最終面接まで進んだという。しかし両社とも社内で追加レイオフが進んでいたため、結局不採用になった。今年初め、別の業界の企業から示されたオファーを受けることにしたが、給与は前職の半分に下がった。このエンジニアは言う。
「この1年で、テック業界への信頼はなくなりました。そもそもなんでこの業界に入ったんだろう」
コンピュータサイエンスや工学など、テクノロジーに特化した学位を専攻している学生や新卒者はこの種の話を頻繁に耳にしており、仲間やメンターからはビッグテックを狙うのはよしたほうがいいと耳打ちされている。
かつては最も安定し、社員特典も多く、高収入が得られる分野として賞賛されていたテック業界だが、今では、移ろいやすく、若い働き手には先行き不透明だと考える人もいる。ChatGPTのようなジェネレーティブAIツールが「非常に優れたコード」を生成できてしまうため、駆け出しのエンジニアや開発者はお払い箱になる可能性すらある。
大手テック企業のトップエンジニアとのライブ模擬面接を通じて就職準備の支援を行うプラットフォーム「Interviewing.io」の創業者兼CEO、アリーン・ラーナー(Aline Lerner)は、「ドットコムバブルがはじけた2000年以降で、今はジュニアレベルのエンジニアにとって最悪の時期」だと言う。
テックへの関心は低下
マサチューセッツ工科大学(MIT)が公表しているデータによると、同大ではコンピューターサイエンスとエンジニアリングの専攻を表明する学生の入学者数は、2020年の735人から5%増加して774人になっている。
しかしMITでは、その学位を取得して卒業する学生数は大幅に減少している。コンピューターサイエンスの卒業生は、2020年の297人に対し2022年は12%減の260人だった。プリンストン大学では、コンピューターサイエンスは依然一番人気ではあるものの、実際に専攻する学生数は、前年の12%から、2023年は2019年以降初めて9%に減少した。
また、2023年第1四半期にInterviewing.ioを利用した学生やジュニアレベルのエンジニアの数は、1年前と比べて10分の1に減少した。ラーナーは学生や企業と話してみて、スタンフォード大学やMITを含むトップスクールの学生や、トップテック企業の若手エンジニアでさえ「今は危機感を感じている」ことが分かったという。
「経営が苦しくなって採用が減速すると、若手エンジニアの求人は真っ先にカットされます。ここを増やそうという企業なんて今はどこもありません。
ジュニアレベルやインターンレベルのエンジニアがやるような仕事の一部はChatGPTのようなAIツールでもできるようになってきましたから、特に状況は厳しいです」(ラーナー)
テック系の学生は他分野の求人に応募
学生や若手エンジニアが技術に特化したキャリアを目指すことに変わりはないが、彼ら彼女らが目指す就職先には変化が現れ始めている。
テック大手への就職支援を行うハンドシェイク(Handshake)が今年2000人近い学生を対象に行った調査によると、有名企業以外の求人への関心が急激に高まっている。
政府系機関への就職希望は104%、非営利団体への就職希望は44%増加した。学生の就職活動で最も検索された企業はレイセオン(Raytheon)であり、これらの防衛関連企業への関心は209%増加した。一方、学生の間で有名ブランド企業への応募の重要性は10%低下、急成長が見込まれる企業への応募も15%低下している。
「学生は何よりも安定した仕事と高い報酬を求めており、そのためには企業のブランドや成長率、リモートワークのオプションなど、他の条件を柔軟に変更することを厭わない」と同調査は記している。
コンピューター工学分野の学生たちは、単にビッグテックで高額の報酬を得るだけでなく、学んだことを応用して社会をよりよくすることに、ますます関心を示している。
サンディエゴ大学で入学管理を担当するスティーブン・パルツ(Stephen Pultz)は、同校のSTEM専攻への関心が低下しているわけではないものの、学生たちは「実存的な問いかけ」を始めていると語る。
「エネルギーや持続可能性など、より大きな問題に自分の専門性を応用したいと考える学生が増えているようです。学生たちは、自分の専攻を良いことのために使いたいと望んでいるんです。お金を稼ぎたい、多額の借金を背負いたくないという気持ちは変わりませんが、社会的責任は学生の心に響いています」(パルツ)
学生の間でビッグテックへの関心が薄れていることが、大企業にどんな影響をもたらすかはまだ不明だ。若い女性や有色人種が入社できるパイプラインがないまま、依然として白人や男性が支配するテック業界がこのまま続くことになるかもしれない。
「女性や有色人種のシニアエンジニアの数は、5年後もそう多くはないでしょうね」(ラーナー)