不動産投資家のビクター・ホイットモア氏。
Victor Whitmore
2003年、ビクター・ホイットモア(Victor Whitmore)氏は人生を変えることになりそうな大胆な決断を下した。
Insiderが閲覧した納税申告書によると、彼は当時27歳で、通信会社のシステムアナリストとして年間約3万6000ドル(約504万円、1ドル=140円換算)を稼いでいた。その年、彼は不動産に投資することを決めたのだ。
ホイットモア氏と今も彼のビジネスパートナーであるジョエル・トンプソン(Joel Thompson)氏は、オクラホマ州タルサにある、くたびれた一戸建て住宅2軒の新聞広告を目にした。2軒をまとめて購入すると、それぞれに1万7000ドル(約238万円)の割引が適用されるという。
そこでホイットモア氏は税金の還付金、中古時計の売買、さらに両親から8000ドル(約112万円)を借金するなどして現金をかき集めた。さらに、全額が現金で支払えるまで複数のクレジットカードでキャッシングを行った。
これをきっかけに投資を始め、今に至っている。この初期の物件は「BRRRR」と呼ばれる投資手法の一環として購入したものだ。BRRRRとは物件を購入し(Buy)、修繕し(Rehab)、賃貸に出し(Rent)、不動産価値が上がった部分を現金化してローンを借り換える(Refinance)、というプロセスを繰り返す(Repeat)やり方だ。
この手法では、賃貸収入を住宅ローンなどの返済に充て、現金は次の物件の購入に充てる。このプロセスを繰り返していき、ポートフォリオの不動産物件数を増やしながらキャッシュアウトの増加を図るのだ。正しく実行し、住宅価格や調達コストが大幅に変化しない限り、自分の資金を追加することなく規模を拡大することができる。
現在のアメリカの住宅ローン金利は、3%を下回る程度だった2021年8月と比較すると2倍になっている。直近の30年固定金利は6.34%だ。しかしホイットモア氏に言わせれば、そんなことは関係ない。収益の額と収益率を理解している限り、追加コストを組み込むことができる。ひとつの方法は、家賃を上げることだ。
「賃貸料は金利と同じくらいの速さで上昇していて、ほぼ一致して動いています。そのため、インフレは常に不動産投資家に利益をもたらしてくれるのです」
Rent.comによると、全米の月額家賃の中央値は、2021年8月の1829ドル(約25万6000円)から2023年4月の1967ドル(約27万5000円)へと7.5%上昇している。
ただし、高いレベルでのリスク許容度が必要になる。特に多くの債務を抱えながら規模を拡大していく初期段階ではそうだとホイットモア氏は指摘する。もし、投資物件のローンを早く完済して家賃収入から1500ドル(約21万円)余分にキャッシュフローを得たいなら、このやり方は適さないだろう。
ホイットモア氏とパートナーは、この手法を使って5軒の一戸建て住宅を購入し、そこから出た収益を使って集合住宅に投資した。この時点で、彼らは頭金としての現金12万ドル(約1680万円)のほかに、112万ドル(約1億5600万円)までの商業用物件ローンを受ける資格を得られるポートフォリオと経験を積み上げていた。
この方法だと、投資家が安心して収益を引き出せるほどになるまで数年を要する可能性がある。2006年に会社が倒産するまでホイットモア氏がITの仕事を続けたのもそれが理由だ。それまでは、取引で得た資金はすべて共同口座に預け、次の投資に回していたという。ポートフォリオから生まれるキャッシュフローをホイットモア氏が収入として引き出す必要が生じた時点で、彼らは一戸建て住宅20軒と集合住宅数棟を保有するまでになっていた。
Insiderが確認した財産に関する公的記録などによると、ホイットモア氏とビジネスパートナーは以降、2423戸を超える賃貸物件を購入して所有した。うち20戸は一戸建て住宅、2403戸は集合住宅で、これには所有するショッピングセンターは含まれていない。それらの不動産の大半はその後売却し、現在は集合住宅3棟471戸を保有している。
ホイットモア氏は、集合住宅やショッピングセンターを専門とする不動産投資・管理会社、プレジション・エクイティ(Precision Equity)の共同創業者でもある。この会社は彼らの資産管理も行っている。
ポートフォリオを雪だるま式に増やすために必要な4つのこと
「BRRRR」は時間とともに増加する負債のサイクルに依存するが、そのためには銀行を訪れるたびに総資産有利子負債(LTV)比率を増やすことが必要だ。ひとつの方法は、貸し手と良好な長期的関係を築くことだとホイットモア氏は説明する。
自分のローン返済能力が信用されていなければ不動産価格の60%しか融資が受けられない場合があるが、同じ貸し手との取引が増えるにつれて寛容になっていくし、場合によっては金利を低く設定できる可能性もあると彼は言う。こうした関係性を築くうえで一番重要なのは、住宅ローンの支払いに絶対に遅れないことだ。
ホイットモア氏の話では、彼が商業用不動産を対象に融資を受けた際には、通常は不動産価格の80%であるところ、貸し手と長い関係性を保っていたおかげで85%の比率が適用されたという。
このほかに、掘り出し物を見つけるのに長けていれば、不動産に付加価値をつけることで融資額を増やす方法もある。近隣で比較すると割安で売られている住宅を見つけ出し、同等の価値になるように修繕するのだ。
例えば、対象地域の平均住宅価格が12万ドル(約1680万円)だったとして、価格が6万ドル(約840万円)で簡単な修繕しか必要としない住宅は、大きな投資効果を生む可能性がある。
「基礎がしっかりしていて、外観の改善が必要な物件が狙い目です。この手の物件はけっこうあります」と彼は話す。
「抵当権が実行されたという理由で粗末に扱われてきた住宅はたくさんあります。でもそんなことを気にする人はいません。環境のいい地区であっても、賃貸の一戸建て住宅はあります。そして一般的に、あるいは伝統的に、貸借人は賃貸物件に対して厳しいということを、多くの人は認識していません」
簡単な修繕とは、壁紙、ブラインド、照明器具などを新しくすることだ。内装の見栄えを改善するのに大いに役立つ。修繕の評価や集合住宅の品位にこだわるのであれば、フローリングとキャビネットも、差をつけるための修繕対象として最適だろう。ただし、最高級の製品を選ぶなどやりすぎは禁物だ。
「大規模な修繕計画は控えるべきです。構造的な問題がある物件には手を出さず、別の物件を探したほうがいいでしょう」
避けるべき物件の例としては、屋根や暖炉、空調システムを新しくする必要がある住宅などだ。
大型の投資案件であれば、ホイットモア氏は構造エンジニアを雇うことも視野に入れるという。5万ドル(約700万円)の住宅の場合、内壁や外装レンガに亀裂があれば構造上の問題があるサインだという。床やドアフレームが傾いている場合も危険信号だ。
家の査定を受けるときには、どんな修理や修繕を行ったかを査定担当者に説明すること、と彼はアドバイスする。特に換気システムのような目につきにくい箇所に手を加えた場合はなおさらだ。査定の最中には外観を改善したことにも注意を促したい。
そして、担当者には気分良く査定を終えてもらうことが望ましい。こういうときには当初の算出額より評価額が上ることが少なくない、とホイットモア氏は話す。
「思っていたより高い評価が得られると嬉しいものですが、その大きな要因は自分が査定に立ち会って、担当者に価値を説明したからだと思います」
また、少ない資金で投資を始めたのなら、すぐに収益が上がると期待してはいけないとホイットモア氏は言う。賃貸収入であれ借り換えであれ、現金が入ってきたらそれをポートフォリオの成長のために再投資しなければならないと彼は言う。
例えば、借り手がつかない場合や修繕が必要な場合であっても住宅ローンを支払えるよう、賃貸収入からのキャッシュフローを使って準備金を用意しておく必要がある。そして、借り換えで得た現金は次の不動産投資に回さなければならない。簡単なようでいて、実践するには自分で自分を律する必要があると彼は忠告する。
ホイットモア氏とビジネスパートナーは当初、不測の事態に対処するのに十分な額の準備金を用意しなかったために損失を被った。入居4カ月で借り手に逃げられたため、ゴミだらけになったその物件をお金をかけて修繕しなければならなくなったのだという。
「投資を続けるために、クレジットカードローンを使ったり、自宅を担保にしたりしてお金を借りたことが途中で何度もあり、綱渡りでした。こうした準備金を実際に用立てられるようになるまでは本当に苦労しました」